第42話 ネトゲ廃人の世間は狭い
『ハッハァ! ぃよっしゃー! 取ったどー!』
モニターに映っているガチムチの獣人キャラが、喜びのモーションを取っていた。
うん、こんなキャラでこんな言動じゃ、女の子と気が付かなくても仕方ないわな。
俺ニブくない! 不可抗力!
モニター内のマッチョ獣人アキラを見て、俺はそう思うのだった。
『ナーイス! アキラ!』
俺達はUWの終了時間の後、EFで遊んでいる最中だった。
最近はUWが楽しくてご無沙汰になっていた。
今日はこっちで期間限定イベントがあるという事で、ちょっと遊びに来たのだ。
世界に散らばった七つのボールを集めて願いを叶えようという、悪ふざけとしか思えない内容で、今ボールを飲み込んだ巨大魚のモンスターをアキラが仕留めた所だった。
すると腹の中からボールが出て来て、それをゲットして喜びのポーズというわけ。
『よっしゃレン! 次行こう次!』
『おう、次は――』
と、俺達が戦っていた海辺に別のプレイヤーキャラが現れた。
悪いな。残念だがボールは俺達が頂いたぜ。
ってのはいいとして――そのキャラは俺達の知り合いだった。
キャラネームはスノウ。水色の髪をした女の子キャラである。
『ん? レンにアキラじゃないか! 久しぶりだな!』
チャットウィンドウにそうメッセージが表示され、スノウが大きく手を振った。
『スノウ! 久しぶり!』
『おおスノウじゃねえか! 元気だったか!』
俺もアキラも手を振り返していた。
『元気さ。だけど……少し退屈していたな。レンもアキラもあまり来なくなったから、最近手応えのある相手と戦えていない』
美形の女の子キャラのスノウだが、こう見えてゴリッゴリのバトル厨で対人戦大好きっ子である。そっち方面では有名なプレイヤーだ。
このEFの対人にはチーム戦もあるが、スノウとは対戦もするしチームを組んでやることも多いフレンドだった。
プレイヤースキルがめっちゃ高いから、俺にとっては新戦術の恰好の実験相手だ。
スノウに通じるなら、大体世間に通用するなって感じ。
『あー悪いな、あんまりこっちに来る暇が無くてさ』
『二人で何か別のゲームでも始めたか?』
『まあ……そんなところだ』
と、アキラが答えた。
『ふむ……それは対人は面白いか? 私でも楽しめそうか?』
『いや、面白いけど一般公開はされてねーんだよ。UWっていうやつで……』
俺が言うとスノウは大きく反応した。
『んんんんん!? あれ、もしかしてレンとアキラは世成学園に入ったのか!?』
今度はこっちが驚く番だ。
『えええええっ!? なんで分かるんだよ!?』
『いや何でも何も、私も世成学園の生徒だからな!』
『なにいいいぃぃ!?』
『マジかよっ!?』
俺もアキラも驚愕だった。
でもよく考えたら、世成学園ってネトゲ廃人にとってはパラダイスみたいなもんだ。
そりゃまあ、廃な俺達の廃な知り合いが在籍してる事も無きにしも非ず。
大体矢野さんだってEFやってるみたいだし。
ネトゲ廃人の世間は狭いんだなー。
にしても、こんな近い所なのは驚きである。
『レンとアキラは一年生か? 私は三年で、3-Cの山村雪乃だぞ!』
あ、雪乃だからスノウなのな。っていうか女の子だったんだなー。
また俺の予想外れたわ。男と思ってた……
『俺、1-Eの高代蓮です!』
『わたしも同じく1-Eの青柳あきらですっ!』
『なっ!? アキラは女の子だったのか!? 全然分からなかった!』
おお、そうか雪乃先輩もそうなんだな。なら俺だけ特別鈍いわけじゃあるまい。
『ふふふ……蓮くんも同じこと言ってましたー』
『そうか……私だけが鈍いってわけじゃないんだな、ちょっと安心した』
ははは。俺と同じこと言ってらっしゃる。
『じゃあ今度UWでも一緒に遊ばないか! あ、そうだ二人ともギルド決まったか? 何だったら私のギルドを紹介しようか?』
『あ、ギルドはもう決まったというか、俺達自分で作ったんで――』
『ああそうなのか、それもありだな。友達みんなでMEP出し合ってな。イチからギルドを育てるのも夢があるさ』
『いやMEP無かったんで、ギルド設立許可証で――』
『おお? 二人ともまだ始めたばかりなのに、よく取れたな~。誰か高レベルにお手伝いしてもらったのか?』
『いや、レベル30くらいの4人で自力ゲットな感じで』
『えええぇぇ!? どうやったんだ、それは!?』
『それはですな――』
と、俺は『ギルド設立許可証』をゲットした時の話をざっくりまとめて語った。
『ほおぉぉ~! そうか、今年は紋章術師でクラス対抗ミッションのMVPをとったヤツがいるって聞いたが、それがレンだったか……だったら納得だ。さすがはダメジョブマイスターだな、それでこそ対戦のし甲斐がある。二人とも今度UWでデュエルしよう! な!?』
『ははは、お手柔らかにお願いします』
『それは出来んな。レン相手にお手柔らかにしたら、こっちがやられるからな』
『わたしも楽しみにしてますからねぇ。雪乃さん』
『ああアキラ。だがそのキャラでいきなり女の子口調になられると、違和感がすごいな』
ガチムチで強面の獣人だからなー。
物凄いマッチョなオネエキャラみたいになるわけで。
『確かに……若干キモいわな』
『何だと……!? レンまで! やれやれ、ならこっちの方がいいか……?』
レンとスノウ先輩が画面の中で同時に頷く。
『よし、じゃあイベントの続きに行くか!』
スノウ先輩も加え、俺達は三人でイベントを進めていくことにした。
その後、近いうちにUWで一緒に遊ぼうと約束し、その日はお開きになったのだった。




