第3話 ソードダンサー
仲田先生がホームルームを終えて去り際、アキラ改めあきらに呼びかけていた。
「あ、青柳さん。放課後ゲーム内のジョブとかの初期設定やるから、何がいいか考えといてねー。他のみんなみたいにオリエンテーションの時間取ってあげられないけど、そこはごめんねー」
「はい、分かりました」
そんな衝撃の再会? があって――
授業の合間の休み時間に、あきらは初登校が一月遅れた事を謝ってた。
「ごめんね、自分から誘ったのに一緒にスタートできなくて……蓮くんすごい怒ってるんじゃないかって、心配してたの」
「いやあ、全然怒ってない怒ってない」
笑顔でボキボキ拳を鳴らしてみる。
鳴るのが凄い。このゲームは凄い作りが細かい。
「ひいい怒ってる怒ってるううぅ……っていうか芸コマだねこのゲーム。指鳴るんだあ」
あきらも俺と同じところを注目していた。
「だな。VRMMOってすげーわ」
「ゲームっていうより、何か異世界にワープした感じだもんね。このリアリティはハンパないよ。どっちがリアルなのか分からなくなりそう」
「ログウィンドウとかゲージが見えるところは、いかにもゲームっちゃゲームだよな」
こうしている間にも自分のHP/MP/APのゲージは視界に見える。
ログウィンドウも、固定表示にすれば常に視界に置くことができる。
HPMPは言わずもがなヒットポイントとマジックポイント。
APは剣や槍などのアーツを使うのに必要になる。
アーツは『ダブルスラッシュ』等の必殺技だ。
強力なアーツほど消費APが多くなる。
APはMPと違って基本値が0で敵に攻撃をヒットさせるか、ダメージを受けるかで溜まっていくシステムだ。
格ゲーの超必殺技のゲージと考えれば一番しっくりくる。
それはさておき、今度はこっちの状況を説明する番だった。
あえて不遇ジョブの紋章術師を選んで、更に俺だけレベルが低い事が分かると、あきらはちょっと嬉しそうだった。
「あ、わたしの事待っててくれたんだあ。嬉しいな、ありがとうね?」
「いや俺が勝手に待ってただけだし、礼なんていらんいらん。やっぱ立ち上がりの一番わくわく感ある時期は一緒にやりてーなーってさ」
あきらからは先に進めといてって連絡も貰ってたしな。
なのに待ってたのは、これは単なる俺のワガママだ。
「ただまあ、レベル以外は色々やっちまったけどな……」
「ほうほう? じゃあ今回の魔改造は成功しそうなんだ?」
「まだ実践で試してないけど、何となく行けそうな感じはしてる」
「じゃあここから一気にががーん! と巻き返しだね。これでもわたし達って選ばれしネトゲエリートだと思うし、一気に追いついてクラス対抗ミッション優勝しちゃお」
「ネトゲエリート……つまり重度のネトゲ廃人ですよね?」
「ああっ!? せっかくかっこよく言いかえてみたのにー!」
こういう下らないこと言ってくるのは、やっぱフレのアキラそのものだ。
何か安心すると言えば安心する。
「それじゃあ、わたしのジョブはどうしよっかなあ。何かおススメってある? 放課後までに決めとかないとね」
「一般論と俺理論がありますが」
「じゃあ一般論から」
「聖騎士、魔剣士、魔道士、吟遊詩人、僧侶あたりじゃねーかな」
俺は盾役、攻撃役、支援役、回復役の各役割から代表格を挙げる。
攻撃役は前衛型と後衛型で大分性質が違うので、魔剣士と魔道士をそれぞれ。
これはこのゲームの攻略本『UWガイドブック』で評価が高いジョブだった。
何で学校のネトゲに攻略本があるんだって話だけど、情報収集が趣味の先輩方が取りまとめて、それをゲーム内アイテム化して販売してる模様。
このゲームにはギルドシステムもあるけど、情報を売る情報屋ギルドがあって、そこが販売元だ。
ギルドは部活みたいなものだって、オリエンテーションに来た先輩が言っていた。
まあ新入生の俺達からしてみれば、攻略情報があったら普通に見る。
今挙げたのはAランクジョブ。ちなみに紋章術師は最低のEランクだ。
「今言ったのが各役割で一番優遇ジョブだな」
俺的には、優遇されたジョブで優遇された結果を残して何が楽しいんだって話だ。
けど、戦うのが好きなんじゃなく勝つのが好きな人もいるし、そこは人それぞれ。
別にいいと思う。
「ふんふん――じゃあ蓮くん理論では?」
「ソードダンサーかな。二番手で空賊」
どっちもDランク評価だ。そしてボンクラーズ入りしている。
「どっちも不遇ジョブ系だけど、俺的にはいてくれたら助かる」
「ふんふんふん――」
「というわけでソードダンサーお願いしまーす」
一緒にネトゲやってたノリでさらっと無茶振りしてみる。
「うん。おっけー」
「あざす! さっすがマイベストフレンド! ってかやけにあっさりOKだな?」
いつももうちょっとぶーぶー言われたはずだけどなー。
「遅れて心配かけちゃったし、待っててくれて嬉しかったからサービスね」
こうして、あきらのジョブはソードダンサーに決定した。
そして授業が終わって放課後――
前田さんがあきらのところにやってきて、声をかけていた。
「青柳さん。よかったらレベル上げを手伝うけれど、一緒にどう?」
「わ、ありがとう。でもレベル差ありすぎてPLっぽくなっちゃうだろうし、迷惑になっちゃうから遠慮するね。前田さんは攻略リーダーなんだし、攻略に専念して。わたしは蓮くんとレベル上げていくから大丈夫だよ」
PLっていうのはパワーレベリングの略。
高レベルプレイヤーの力を借りて、通常より早いスピードで経験値稼ぎをすること。
ほかのプレイヤーが敵を倒している側でPLをやると、一気にモンスターの数が減って狩場が枯れるし、あまり褒められた行為ではない。
「そう? 高代君も本気でレベル上げしてくれるのね?」
「イエス。今日から本気出します!」
「追いついてミッション協力するからね! せっかくやるんだし、絶対優勝しよ!」
「分かった、期待してるわね。じゃあよかったらこれを持って行って」
「おぉ~『UWガイドブック』! 噂の攻略本だあ、いいの?」
「うん。必要なところは覚えたつもりだから大丈夫。良かったら使って」
「暗記!? 前田さん凄いねそれ」
「そ、そう? でも英単語とか覚えるよりは面白いし――」
ああ、前田さんうちのクラスで一番勉強得意だしな。
だからクラス委員で攻略リーダーなわけで。受験勉強的なノリなわけか。
しかしこれ結構するのにポンとくれるとは、前田さん面倒見いいなー。
「ありがとう。使わせてもらうね。それじゃわたし、職員室行ってくるね。先生に呼ばれてるから」
というわけであきらはジョブとかの初期設定をするために職員室に行き、クラスのみんなはレベル上げやミッション攻略のために出て行って、教室には俺だけ残った。
あきらが戻ってくるのを待って、レベル上げに行く予定。
待ってる間は手持ちの素材を使って、合成スキル上げでもしておこう。
暇を見てコツコツやっとかないとな。
小一時間くらいが経って――あきらが戻って来た。
「ちょっと蓮くんっ!」
顔を赤くして、なんかちょっと怒ってる? 感じ。
髪色の設定をいじったらしく、ピンクっぽい色身になっていた。
それとそれまでの学生服から、服が変わっている。
ジョブ設定したときに、そのジョブの初期装備がもらえる。それになっていた。
「なにこれぇ!? 戻ってくるときもめっちゃ見られて、すごい恥ずかしいんだけど!」
あちこちにフリフリやひらひらのあるドレスは、とても可愛らしいのだが――
その実、相当露出度が高かったりする。
腋見せだわヘソ出しだわ胸元もぱっくり穴あきだわで、あきらの巨乳が思いっきり強調されていた。なんかもう谷間がぷるぷるしてるし。
当然のごとく下も超ミニで、ふとももがもろに見える。
ってか中も見えそうなギリギリのライン。
うーん……はっきりいってエロいですな、これは。




