第37話 ガードを固めて防御力でごり押す
「お? 階段」
階層が変わったら敵が強くなったりする。気を付けて行かないと。
階段を下りて下の階層に。降りたらすぐにまた小部屋があって、中に敵が。
デッドリー・ジェネラル レベル81×3
エンシェント・ドール レベル82×2
あ、五体もいるぞ。
しかもエンシェント・ドールはマジック・ドール系であってアンデッドではない。
これはやり辛い。やはり難易度が上がっている。
「うーむ……全部アンデッドのがやりやすかったなー」
「そんな甘くないって事だよね。どうする蓮くん?」
「取りあえずいつも通り『マジックエンゲージ』から入って、それから――」
と、俺達は作戦を打ち合わせた。
「大丈夫ぅそれ? 相手五体だしやばくない?」
「確かに危険な気はするわね……」
「やってみようよ! きっと大丈夫だよ!」
矢野さん前田さんは不安そうだが、あきらは乗り気だった。
「心配ないって、やってみよ!」
「んーまああっきーがそう言うなら」
「やってみましょうか」
あきらが押してくれて、作戦が決定した。
まずは先手、敵五体を巻き込む範囲に『マジックエンゲージ』の合体魔法を。
それが上手くヒットし、五体がわらわら迫って来る。
「ほい、ことみー!」
矢野さんの『ギルティスティール』。
俺と矢野さんでヘイトを半々に。ここまではいつもと一緒だ。
ここからはあきらに奥義撃って貰って、アンデッドへの回復攻撃をやっていた。
だが今やるとエンシェント・ドールの方は回復してしまう。
それはまずいから、今回は別手段で行く。
俺は杖を構え、矢野さんは盾を構え、敵の猛攻に備える。
そこに後ろから、前田さんの魔法が発動する。
「『リベンジブラスト』!」
敵の攻撃に対して、固定の反撃ダメージを発生させる魔法壁を張る呪文だ。
対象は味方一人、それが俺に掛けられた。
デッドリー・ジェネラルの攻撃。蓮は攻撃をガードした!
デッドリー・ジェネラルに10の反撃ダメージ!
ガードしたらこんな感じで、敵にちょっとだけダメージが当たる。
俺のところにはデッドリー・ジェネラルが2体と、エンシェント・ドールが1体来て3対1。矢野さんのところには2体行った。
エンシェント・ドールの攻撃。優奈はガード。32のダメージ。
矢野さんはちょっとガード削りを受けてしまう。
そうするとヘイトがちょっと減るわけだから、そいつのヘイトの優先順位が変わって俺のところにやって来る。
結局、俺の前に敵が5体。ヘイト抜けどころか反撃ダメージ発生するから、ガードしてもガードしても俺に余計にヘイトが集中する仕組みになる。
だけど、それが狙いだ。
俺は次々繰り出される攻撃を見切り、片っ端からガードしていく。
デッドリー・ジェネラルの斧と体当たり、エンシェント・ドールのトゲフレイルの不規則な攻撃。それらを全て。
デッドリー・ジェネラルの動きは散々見ている。
エンシェント・ドールも下位のドール系は見た。モーションは殆ど一緒だ。
ガード削りされないなら――いくらAGIが低くて動きが遅めな紋章術師でも、全部の攻撃をガードし続けることはそんなに難しくない。
敵のモーションの前兆から次の攻撃を判断。その範囲から軸をずらす位置に動く。
それでも当たる軌道の攻撃だけ、ガードだ。
デッドリー・ジェネラルの体当たりはガードしてもノックバックするから注意。
逆に計算して他の敵の攻撃回避に使えるから利用すべし。
敵もこちらも動いているから刻一刻と最適解は変わるけど――
理論的にはこれを繰り返せばいいだけだ。
問題は予測の正確さと、反応速度がそれに追いつくかだけ。
戦いに入る前5体なら捌けるから、俺が攻撃を引き受けると言った。
前田さん矢野さんは不安そうだったが、何とか維持できそうだ。
「す、すごいわ高代くん――! 本当に一発も当たらない……!」
「うわぁ何それ! 紋章術師なんてAGI低くて動き鈍いはずなのに――何であんなに敵がいて、一発も直撃貰わずにすんでんの!? ずるくない!?」
「まぁ蓮くんだからねー。相手の動きを見ながら、どう動いたら凌げるか判断するのがすっごい早くて正確なの。そこはステータスじゃなく、プレイヤースキルの部分だから……AGI低くても関係ないよ」
何故か自慢げなあきらだった。
「おぅーい! みんな俺が引き付けてるうちに攻撃をだな……!」
そういう手順だったはずなんですが――?
俺が囮になってる間に、アンデッドじゃないエンシェント・ドールの方を倒すのだ。
「んを! 一瞬忘れてたし!」
「おーけい! 今からやるね!」
矢野さんは盾から銃に武器を持ち替え。
あきらは『スカイフォール』でエンシェント・ドールに斬りかかる。
レベルが大分違うから、ステータス差で回避されまくる。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる作戦。ダメージは0じゃないからごり押しだ。
矢野さんは銃を構えると、これまで盾防御で溜めてたAPを使って奥義を発動。
「奥義! 『シャドウブラスター』!」
空賊や猟師が覚えるスキルの『ステルスショット』と銃アーツの『ダブルブラスト』を合成した奥義だった。
『ステルスショット』は体が半透明になるエフェクトで、効果中は射撃攻撃でヘイトが増えない。それと二連射を行う銃アーツを組み合わせると、無ヘイトで強力なアーツ攻撃になる。やはり無ヘイトなのがポイント。
元々矢野さんも合体魔法のヘイトを半分持っている。
下手に攻撃すれば俺を上回って攻撃されかねない。
そうなると盾を持っていない今、簡単に瀕死になって生命感知に引っかかる。
だけど無ヘイトなら、ここで俺がやらかさない限りは撃ちまくって構わない。
矢野さんの奥義直撃。
それでも足りないちょっとの分は、あきらのごり押し攻撃と『ステルスショット』の効果継続中の矢野さんの銃撃が削り取った。
銃は元々回避無視効果がある。格上に当てやすい武器だ。
エンシェント・ドールが一体沈む。
続いて同じシーケンスで二体目も沈む。
俺はノーダメを維持。段々数が減って楽になっていく。
残りデッドリー・ジェネラル3体。こうなったら後は余裕だ。
「よし! わたしが行くね! 奥義! 『セイントクレセント』!」
デッドリージェネラルが3体まとめて瀕死。
そこに前田さんが、一体ずつ『エクス・ヒール』を撃ってとどめだ。
「よっしゃあぁぁっ! 行ける行ける! まだ先行けそうだな!」
「やったぁ! 勝てたねぇっ!」
「ちょっとむずいかなって思ったけど……!」
「高代くんが上手く敵を捌いてくれたおかげね!」
「さっすが蓮くん。神反応だったよー!」
「ふっふふふ……まあな。あのくらいはなー」
可愛い子に褒められたら素直に調子に乗っておく!
「てかさあ、紋章術師であれだけの動き出来るなら、魔剣士とか格闘家とかAGI高めで敵に攻撃されやすい前衛やった方がもっとプレイヤースキル活きるんじゃん?」
「奥義の大ダメージは凄いけど、普段は敵の矢面には立たないものね」
「いや、そうかも知れんが優遇ジョブには興味がない」
俺は基本後ろにいて、必要な時だけ相手を一撃必殺する暗殺スタイルだ。
安定したヘイト稼ぎ手段が盾役や前衛には必要だが、その真逆になる。
タゲ取り用のヘイト獲得スキルも無ければ、奥義以外のダメージヘイトも取れないからだ。
俺にあるのはただただ、瞬間火力のみ。どこまで行ってもロマン砲なのである。
今回の立ち回りはあくまでイレギュラー。オプションでしかない。
「ははは……まあダメジョブマイスターだしそりゃそうか」
「何だかもったいないわね……こんなに出来るのに」
「蓮くんだし、誰がなんて言っても治んないよ?」
「さっすがあきらは話が分かる!」
「分かるんじゃなくて、バカだからしょうがないって諦めてるだけだからねー?」
「何ィ!? 驚愕の新事実!」
「ふふふっ。高代くんと青柳さんってほんとに仲がいいわよね」
「高代ー。羨ましいから私ともいちゃいちゃしてってことみーが言ってるよー?」
「い、言ってないわよ! 何てこと言うのよバカ優奈!」
「痛っ!? 叩くことないじゃんことみー。せっかく意訳してあげたんだけどぉ?」
「余計なお世話ですっ! ほら、先に行きましょう!」
前田さんが先頭を切ってずんずん進む。
同じような調子で進んでいったが、先は結構複雑な迷路みたいになっていた。
だがそれでも、何とかミスらずに敵を倒して行けた。
そうやって探索を続けている合間にも、前田さんはリューにせっせと食べ物をあげていたんだが――
「きゅーきゅー! きゅーきゅー!」
いきなり元気よく鳴き出して、しかも体が光り出した!
今週は土日も更新したいと思います。
どちらも18:00予定です




