第35話 ガード性能だけ突出した杖は、謎アイテムだが俺には神器
さて授業終了後――
俺はギルドショップ街に出かけていた。
あきら達三人も一緒だ。あとリューも。
朝の検証作業の時は俺のローブのフードの中に入ってずっと寝ていた。
子供だからかよく寝ている。まあ今は元気に俺達の回りをパタパタ飛んでいる。
「で、何探すのぉ? 蓮くん」
「とにかくガード性能が高い杖が欲しい。あと、あれば盾もな。矢野さんが今使ってる盾って何だっけ?」
「ん? ほい」
と、矢野さんはアイテムウィンドウを開いて見せる。
デュエルシールド
種類:盾 装備可能レベル:27 ガード性能:144
特殊性能:なし
うんまあレベル相応の盾だな。
特殊なスペックもないし。
「これよりガード性能高いのがあれば仕入れ対象だな。でも最優先は杖で」
「高代の杖はどんなん?」
「ああ俺は――」
アイアンスタッフ
種類:杖 装備可能レベル:21 攻撃力:17 獲得AP:10
ガード性能:55 ガードブレイク性能:20
特殊性能:INT+8 MND+4 MAXMP+12
盾に比べればガード性能がとにかく貧弱。ここを何とかしないといけない。
できないとアウミシュール大古墳に再アタックするのは厳しい。
合成で今俺が作れるレシピではこれが限度。
ここは店から何かいいものを仕入れるしかないという事で、ここに来た。
レアモンスターからのドロップ装備は、合成で作れないのも多いしな。
「ふんふん。まあよく分からんけど分かったし」
「とにかくガード性能だけ高ければいいのよね?」
「ああ。あとあんまり高いと買えねえけど」
「お店いっぱいだねー。とにかく手あたり次第みていこ!」
とりあえず目についた適当なショップに入ってみる。
「おう、いらっしゃい!」
がっちりした体格の、いかにも柔道部とか体育会系の三年の先輩が店番だった。
その先輩は、俺を見るなり物珍しそうな顔をした。
「おっ。一年の竜付きじゃねえか。ほーお前さんが今年の一発目のMVPか」
リューがいると一発でばれるっぽいからなー。
「はい。まあ成り行きで」
「しかも紋章術師とは珍しいな。大体MVP取るのは魔剣士とか聖騎士とか魔道士なんだが……面白そうな奴だな」
ああ、からの勧誘のパターンかこれ。
だが、俺の予想は裏切られた。
「んで、何を見たいとかあるか? 適当に商品リスト全部見るか?」
さらっと流して商談に移ろうとした。これは意外。
「……」
「ん? 何だ?」
「いえ。竜持ちなせいかよくギルドに勧誘されるんで……今もそうかなって思ったら違ったからちょっと驚いて」
「ん? 誘ってほしかったか?」
「ああいえそうじゃないんですけど」
「まあ俺らは格闘好きの格闘家専門ギルドだからな。残念ながらお前さんは対象外だ」
「ああなるほど。そういう方向性のギルドもあるんですね」
「全員格闘家でPT組んで活動するんですか?」
と、あきらが質問。
「そうだぜ? 回復役いねえから何やるにもつれえのなんの。だが趣味に走るのも悪かないだろ。最後は楽しんだもん勝ちよ」
それはそれでいいと思う。人それぞれロマンを追って楽しめばいい。ゲームだし。
俺だって全く人のこと言えないスタイルでやってるからな。
「で、どうする商品リスト見るか?」
「あ、杖と盾だけ見せてもらえますか? 俺達のレベルで装備出来て、ガード性能の高いやつを探してるんです」
「ガード性能な。ちょっと待てよ。こんなのがあるが――レアモンスターのドロップ品なんだけどな」
狂信者の杖(O)
種類:杖 装備可能レベル:25 攻撃力:3 獲得AP:7
ガード性能:256 ガードブレイク性能:6
特殊性能:INT-60 MND-60 MAXMP-50
狂信者の盾(O)
種類:盾 装備可能レベル:25 ガード性能:320
特殊性能:INT-60 MND-60 MAXMP-50
うおおおお! いいのある! これこれこういうのが欲しかったんだよ。
特殊性能ですっごいマイナスついてるけどこの際関係ないし。
「これ、いくらですか!?」
「ああ、盾は150万ミラだ」
「高っ!」
買えん! 無理!
「杖は1万ミラな」
「安っ!」
買える買える! これは絶対買いだ、絶対買う買う買う。
「値段の差があり過ぎるんですけどぉ~」
盾が高い矢野さんは不満顔だ。
「とはいえ大体どこもこんなモンだと思うぞ?」
「まあ用途考えればこうなりもするか……」
「どういうこと?」
と前田さんに聞かれる。
「杖持つジョブが敵に攻撃されることって、あんまりないだろ? 下がって魔法使うんだからさ。それがガードだけがバカ高くて魔法系のステ下がるって、とんでもなく意味不明の代物だよな?」
「まあ……そうね」
「反対に盾のガード性能は、盾役にとっては少しでも多い方が嬉しいよな? MP下がるのだけ痛いけど、INTとMNDはいらんっちゃいらんステだし。杖は謎アイテムで需要ないけど、盾はいいもので需要が多いってことになる」
「なるほど需要の差が金額に跳ね返るのね。オフラインのゲームって、似たシリーズの装備って似た値段だからびっくりしたわ。オンラインゲームはアイテムの値段に市場原理が働くのね……人同士の取引だから当然か」
ちょっと感心したようにうなずく前田さん。
確かにオンラインゲーム初だと、こういう価格差が新鮮に映るかもな。
「あー確かにそうだな」
しかしこれは俺にとっては願ってもない。
このゴミ扱いの謎アイテムこそ、俺にとっての秘密兵器になるに違いない。
「じゃあこの杖買います!」
「おう、まいどあり」
店を出ると、俺は早速みんなに告げる。
「これでいけるかも――もう一回アウミシュール大古墳に挑戦してみようぜ!」
俺達はちょっと準備して移動することにした――




