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第33話 竜言語魔法を検証してみよう

 竜言語魔法――

 学者専用魔法で、ドラゴン系の強敵から魔法スクロールをゲットして覚えるしかないというやつだ。入手経路がレアな割に性能がしょぼくてゴミ扱いされているらしいが。

 運よくドロップしたから、取りあえず覚えられる前田さんに貰ってもらった。


「そそ。確か相手のHPを半分にする効果だよな?」


 かなりいい効果だと思う。当たればだけど。


「そうだけど――私よりレベルの低い敵に撃っても殆ど当たらなかったわよ? 何倍もレベルが上の相手に通るとは……」

「まあそうだな。そんなに使い勝手いいならみんなもっと使ってるよな」

「ええ。それに消費MPも凄いわ。150も使うし」


 ちなみに今の前田さんで最大MP200ちょいくらい。かなり重いな。

 これだけ重いと、いくら効果が良くても使いづらいよな。

 しかもなかなか当たらないと来れば、まあいらない子扱いもされるか。

 とはいえ百聞は一見に如かずなので、実際見せてもらいたい。


「とりあえずどんな感じか、撃つとこ見せてもらっていい?」

「ええ構わないけど」


 というわけで俺達は転送ルームに行き、トリニスティ島の第一階層にワープした。

 あきらが来るまでの一ヵ月、俺のもろもろの検証に付き合ってくれたアイランドバニー師匠のところへ再弟子入りするためだ。


 ワープして街の外に出て、外をぴょんぴょんしているアイランドバニー師匠を補足。

 これがバニーという名前だが、カンガルーっぽいスタイルだ。

 顔つきもなんかぼーっとしている感じで憎めない。

 可愛すぎるって事もないから、実験台にしても心はそこまで痛まない。

 つまりちょうどいい師匠というわけだ。


「じゃあとりあえず、一発お願いします」

「ええ」


 前田さんは頷いて、『ディアボリク・ハウル』の詠唱に入る。

 魔法の詠唱中は、詠唱のモーションとマナ粒子に体が覆われるエフェクトが入る。

 魔法ごとに詠唱に必要な時間は決まっていて、その間に動くと詠唱は中断になる。

 要は魔法を唱える間は、足を止めないとダメという事。


「『ディアボリク・ハウル』!」


 詠唱が完了すると、巨大なドラゴンの顔の形をしたエネルギーの塊が現れた。

 それが遠吠えをあげながら、アイランドバニーに噛みついていく。

 おおー。エフェクトがかっこいい。派手だ。

 で、その結果――


 ディアボリク・ハウルが発動! アイランドバニーはレジストした!


 あ、効かなかったし。最弱クラスにも外れるか。


「……厳しいわね」

「まま、一回外れただけだし。ある程度確率的なところが知りたいから、もう何回か撃ってくれねえかな?」

「分かったわ。何回くらい撃てばいいの?」

「んーキリがいいとこで100回くらい?」

「えぇ!? そんなに!?」

「やっぱほら、ある程度試行回数無いと偶然に左右されるだろ? ほんとはそれでも少ないけど、まあ最低限で」

「それあまあ、分かるけど……青柳さんが来るまで、高代くんはずっとこんな事をしていたの?」

「ああ! 楽しいぜ? データ取り!」

「……ま、まあ楽しみ方は人それぞれよね」

「よしじゃあ残り99回行ってみよう!」


 というわけで100本ノック開始――


 ――はい終了。


「ふう。やっと終わったわ……」

「お疲れ。100回中13回命中だったな」


 やっぱり命中率悪いな。消費MPが5とか10なら暇なときに撃ってもいい。

 だけど、150使うのにこれじゃとても実用範囲とは言えない。


「やっぱり、正直使えないわね」


 前田さんは消費したMPをヒーリングモーションで回復させながら応える。

 やり方は簡単で、足を止めた状態で手を合わせて目を閉じるだけ。

 そうするとヒーリングの薄緑の光膜エフェクトが出て、徐々にHPMPが回復する。

 戦闘中でも非戦闘中でもできるが、非戦闘中ならかなり効果が高い。


「今のままならそうとしか言えねーな。で、ここでもう一つ試してみたいんだけど」

「これ以上何を試すの?」

「ああ『マジックエンゲージ』したらどうなるのかなと」


 クラス対抗ミッション優勝のご褒美で貰ったタレント。

 合成魔法が撃てるってやつだ。


「『マジックエンゲージ』か……まだ試してないわね」

「紋章術師のサークル系の魔法って、レジストなしで必ず入るだろ? 合成したら『ディアボリク・ハウル』の命中率が上がるとかねえかなーと」

「あり得るかも――やってみましょう!」

「ああ。じゃあ、はい」


 と、俺は前田さんに手を差し伸べる。

 『マジックエンゲージ』を使う時は、エンゲージする相手と手を触れた状態でスキルとして『マジックエンゲージ』を使う必要がある。

 これで誰と誰で魔法合成するかの指定がされる。

 そこからそれぞれ魔法を唱えると合成されて発動する仕組みだ。


「あ――そ、そうね。手を繋いで使うのよね……」


 何かもじもじしている。


「?」

「ちょ、ちょっと待ってね」


 ハンカチを取り出し、一生懸命手をふきふき。

 アイテムでハンカチもあるんだな。


「ゲームだし手が汚れてるとかはないんじゃね?」

「で、でも気分的な問題で……はい」


 と、前田さんは遠慮がちに俺の手を握る。すべすべして柔らかい手だった。

 こういうところの感触のリアルさってほんと凄いな。謎の技術力だ。


「じゃあやってみよう!」

「ええ」


「「『マジックエンゲージ』!」」


 同時にスキル発動。専用の特殊エフェクトが俺達を包む。

いつもの予定日ではありませんが、次回は18日の8:00に更新します

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