第32話 やられたら、原因を解析して対策を検討するのが基本
宝探しピクニックのはずがまさかの全滅オチを食らった次の日。
俺は授業開始前の朝イチにUWにログインしていた。
気になる事があったからだ。
昨日は全滅後解散になって、俺もそのままログアウトした。
ごはん食べたり風呂入ったりいろいろしながら考えた。
で、確かめておきたい事が出て来たら気になってつい早起きしてしまった。
夜十時過ぎたら次の朝六時までログインできない仕様だからな。
思い立ったらすぐ検証したい俺には生殺しの仕様だ。
だけどこうして早起きできているのは健康的だからいいのか?
思いついてすぐ試せてたら間違いなく夜更かしして、次の日寝不足だもんな。
そうすると授業中に睡眠時間を補うことになる。
それが結局テストの点に響いてMEPが少なくなってゲーム内での首が締まると。
うん、ありがちありがち。
それをシステムで防いでくれるのだから、よしとしよう。
というわけで俺は転送ルームからアウミシュール大古墳近くにワープ。
昨日の当たりルートの入り口から内部に入る。
すると、見知った顔の先客が。
「あれ? 前田さんおはよう」
「あ、高代くん? おはよう――」
「どうしたんだよ? こんな早くから」
「昨日は元はと言えば私が言い出してここに来て、全滅してしまったでしょう? 皆に申し訳ないから少しでも攻略の助けになる情報はないかなって……」
「なるほど……でもまあ低レベル縛りとか言い出したの俺だし、主に俺のせいな気がするけど」
「まあ、そうとも言えるのかも知れないけれど……」
浮かない表情は変わらない。
生真面目と言うか、律儀と言うか。いい子だなー。
けど気にし過ぎな気もする。全滅なんて大したことないのに。
ゲームなんだからそれも楽しめばいいし。
「んー……」
何か言ってあげたいが、何ろ言えばいいのか。
「なに? どうかした?」
「いや、んー……と。なあ、俺今から軽く死んで来ようと思うけど一緒にどうだ?」
「ええっ!?」
「まあそれで恨みっこなしって事で」
「あ――ええ、構わないけど……わざわざ死にに来たの?」
「いや、結果的にはそうなるだろうけど、ちょっと調べたいことがあってさ」
「ふうん……分かったわ。一緒に行く」
というわけで俺達は二人でPTを組む。例の落とし穴を落ちて鍵の扉の前に。
俺は鍵を使って奥への扉を開きながら、言う。
「ゲームってさ、失敗が軽いのがいい所だと思うんだよな」
「軽い?」
「別にホントに死ぬわけでもなし、デスペナでちょっと経験値減るくらいだろ? リアルでの失敗ってこんな簡単には済まねえじゃん? 昨日も死んだけど俺楽しかったぜ、あれは予測してなかったから笑えたし。だから気になってまた死にに来たんだよ」
「ひょっとして死ぬのが趣味なの?」
「いやそうでもねーけど……まあ必要なら何回やられてもいいし楽しめるな。今回も知りたい事が分かるだろうから楽しみだぜ。まー何だろ、自分でも何言いたいのかよく分からんけど……俺は前田さんと一緒にゲームしてて楽しいし、まあ気楽にいこうぜ」
「……ありがとう。確かに自分でも気にし過ぎなところはあると思うの。何かを失敗するのが怖いっていうのもあるわ」
「じゃあまあUWでいっぱい失敗して慣れとこうぜ。まあ前田さんがしなくても俺とかあきらがしまくると思うから、巻き込むと思うけどな」
「ふふ……迷惑だわ。でも、うん。楽しみね」
「というわけで早速巻き込むけどいいか?」
俺達は扉の奥の通路。ちょうど昨日先輩たちが全滅していたあたりに立っている。
ここもあっちこっちの壁にミイラっぽいものが埋もれている。
「どうするの?」
「ああ。昨日こいつらが動き出して襲ってきただろ?」
俺はミイラの埋まった壁をこんこん叩く。
だけど反応はない。名前や簡易ステータスも見えない。風景に完全同化してる。
「ええ、クリムゾン・マミーって言ったかしら」
「ああ。こいつら今は人畜無害って感じだけど、何かに反応して襲ってきたよな?」
「そうね。急だったから本当に死ぬほど驚いたわ」
「それが何かなって思ってさ。条件が分かれば避けられるかも知れない。で、思いついたのを今から試すぜ。予想通りだったらこいつらが動き出すと思う」
「そうなったら――やられるわね」
「だな。あれだったら外に避難してるか?」
「一緒にいるわよ。おあいこにならないでしょう」
やっぱり律儀だ。
「じゃあ、試すぞ」
前田さんが頷くのを見て、俺は大範囲の『ディストラサークル』を詠唱。
MPが空になる。別にこれでは壁のマミーたちは反応しない。
次に、紋章術師のスキル『ターンオーバー』を発動。HPが1になりMPが満タンに。
すると――
「「「「ウオオオオォォォン!」」」」
壁に埋もれていたクリムゾン・マミー達が動き出した!
で、俺も前田さんもぼこぼこにされて全滅――
うん、なるほど予想通りだ!
取りあえず、死に戻りという事で――
全滅した俺達は、学園内にあるホームポイントに戻った。
死んで戻るときは登録したホームポイントに戻される感じになる。
で、その場で作戦会議。
「ふう……分かっていてもちょっと怖いわね、あれは」
「うん予定通り死んだな」
「あれで何が分かったの?」
「ああ、敵が動き出す条件な。予想通り生命感知だな」
アクティブなモンスターがプレイヤーを補足して襲い掛かって来る認識方法。
これには、何種類かある。
まあ簡単なのが視覚範囲に入ったやつを襲ってくる視覚感知。
それから足音に反応して襲ってくる聴覚感知。
このへんがまあ代表だが、HPの減ったプレイヤーに反応する生命感知という感知方法もある。
オブジェに見えたあれは、全部アクティブのモンスターで感知方法として生命感知のみ持っているのだろう。
俺が奥義撃つときにHPが1になるから、それに反応したって事だ。
つまり――
「生命感知――って事は、あそこで『デッドエンド』を使うと必ず……?」
「ああ、クリムゾン・マミー握手会になるな。イコール全滅」
「じゃあ『デッドエンド』は使えないわね」
「そうだな」
「駄目じゃないの! あれ頼みなのに」
「いやいや、それが分かっただけでも前進だぜ」
あの地形で『デッドエンド』はダメ、絶対。封印必須。これは確定した。
「素直にレベルを上げるしかないのかしら……?」
「それだったら、テストの方が早い気もするわな」
レベル60代の先輩達でも全滅してたからな。
今俺達は25~30くらいだが、この先どんどんレベルアップに必要な経験値も増えて上がり辛くなっていく。
「ひとまず諦めるしかないの?」
「それはまだ早い。試せるものを全部試してから諦めないとさ」
「何かあるの?」
「この間の黒竜ディアブロから取っただろ? 竜言語魔法」
「ああ。『ディアボリク・ハウル』?」
そう、クラス対抗ミッションのボス戦でドロップしたんだよ、竜言語魔法。




