第31話 ザ・ホラーハウス
多分俺達が外で見かけたPTの人達だ。全員HP0。全滅ってやつだ。
簡易をステ見る限り、二年生の先輩達のようだ。
平均レベル60中盤くらいの十人。
このレベルのこの人数で全滅するのか、ここは。
ってことはこの先が片岡の言ってた敵レベルが高いエリアだな。
「す、すまん君たち……蘇生魔法があったら、お願いできないかな……?」
倒れているリーダーの聖騎士の先輩にそう言われたが――
「あ、すいません……誰も蘇生持ってないんです」
ソードダンサーのダンスに蘇生効果のものはない。
学者も回復魔法は使えるが、蘇生魔法は覚えない。
かゆいところに手が届かないのがボンクラーズってものなんです。
蘇生を使えるのは聖騎士か僧侶か吟遊詩人だな。
詩人が蘇生使えるのが妙に納得いかない。
同じ支援役なのに紋章術師と違って潰しが効きすぎでしょうと。
「そうか仕方ない、出直すことにするよ。君たちもこの先は危ないから気を付けて」
そう言い残して先輩達のPTは死に戻って行き、俺達だけが残る。
「……どうする? この先敵強そうだな?」
と一応みんなに聞いてはみるが、内心俺には引き返す気はない。
防御無視回避無視でバカ火力の奥義は、格上食いにもってこいだから。
今こそロマン砲がそのロマンを見せつけるとき!
みんなが嫌だって言ったら、一人で行ってみようかなと。
「と言いつつ、引き返す気ないでしょ蓮くん」
「あ、ばれたか?」
「わたしも行くよー。やってみなきゃわかんないし」
「そうね。『デッドエンド』があれば、かなり強い敵も倒せる可能性があるわ」
「むしろ今まで見てるだけの奴が、ちゃんと働かずに帰るなんてナイナイ。ここから働いてもらいますし」
みんな俺のスタイルを理解してくれているからか、前向きかつ楽観的だ。
まあ行けるかもって、俺も思ってるしみんなも思ってる。
「じゃあ行ってみようぜ」
俺達は奥に進む。少し行くと小部屋があって、その中にモンスターが一体。
敵の感知範囲外から様子をうかがう。
デッドリー・ジェネラル レベル81
アンデッドだな。フルアーマーで武装したスケルトンだ。獲物は両手斧。
結構でっかくて迫力がある。レベルも80越えで3倍近い。
ただ、攻撃力防御力はさておき、黒竜ディアブロ程のHPの高さはないだろう。
あれは大ボス系だ。こちらは通常配置のモンスター。
レアモンスターの証の王冠アイコンもついていない。
「APは満タンだよ。いつもの手で行く?」
あきらが『スカイフォール』を構える。
「ああ。衝撃波で釣って、向かってくるとこに奥義入れるわ」
俺はあらかじめ『ディストラサークル』を明後日の方向に展開、MPを空にしておく。
「入ったらヘイト抜くよ?」
矢野さんは銃を背負うと両手で盾を構えていた。
「で『剣の舞い』入れてもう一発だよね」
「おうあきら、よろしく」
「私は優奈と高代くんの回復ね」
「余裕があったら、あの敵にも回復魔法かけてみてくれるか? アンデッドだからダメージになると思う。それがどのくらい通るのか気になるし」
前田さんが普通の攻撃魔法を撃ったら、多分ダメージは殆ど通らない。
かなりレベル差がある相手だから、ステータス差によるダメージ減衰がきつい。
しかし回復魔法でアンデッドにダメージなのはもはや常識だ。
極端な弱点であることが多い。
つまり、レベル差をものともせずがっつり削れるかもしれない。
そこは見ておくべきかなと。
「分かった。やってみるわね」
「じゃあ行くよー。みんな、準備OK?」
「「「おっけー」」」
あきらは俺達の返事を聞くと『スカイフォール』の衝撃波を放つ。
デッドリー・ジェネラルにヒット。だがダメージはたった12。
やはりレベル差が凄いから、ダメージが通っていない。
攻撃を受けた敵は、あきらの方に猛然と突進してくる。
俺は敵とあきらの間に立つ。
後ろで前田さんが回復魔法の詠唱を開始していた。
さーて、とりあえず一発行ってみよう!
「こんにちわ! 死ねえええぇぇ!」
「ヒドッ!? どこの悪役だし!」
矢野さんのツッコミを背に受けつつ、俺は奥義を構える。
一歩早く前田さんの回復魔法が敵に着弾した。
それが、レベル差を感じさせないダメージを発揮する。
琴美のエクス・ヒールが発動。デッドリー・ジェネラルに253のダメージ!
直後に俺の奥義が火を噴いた!
蓮のデッドエンドが発動。デッドリー・ジェネラルに2401のダメージ!
そうログ表示され、デッドリージェネラルのHPバーが一気に削れた。
HPが0になった敵は、呻き声をあげて倒れて消えていく。
よっしゃ撃破。やられる前にやれたぞ、完封勝利きたー!
「きゅきゅきゅー!」
リューも何か興奮気味に喜んでいるみたいだ。
まあ思った以上にさくっと行けたよな。これなら先進めるかも。
と思った矢先の事だった――
「「「「ウオオオオォォォン!」」」」
この扉奥のフロアも上と同じで、あちこちの壁にミイラっぽいものが埋もれていた。
それが、一斉に動き出したのだ!
「んなっっ!?」
「「「きゃあああっ!?」」」
「きゅきゅきゅきゅきゅーっ!?」
マップのオブジェだと思っていたから、意表を突かれてめちゃくちゃびっくりした。
お化け屋敷とかで、壁から一斉に手が出てくるやつみたいだ。
女性陣は思いっきり悲鳴をあげ、リューも慌てふためいている。
クリムゾン・マミー レベル78 いっぱい
血まみれの赤い包帯に包まれたミイラ。恐ろしく狂暴そうな顔。
そいつらが一斉に、俺に向かって襲い掛かって来る。
その勢いは、まるでアイドルの握手会に群がるファンたち。
あきら達はびっくりしていて動けない。
その状態で、HP1の俺がレベル三倍の敵に囲まれれば――
「おうふ……!」
うんまあ当然死ぬよな。HP1だし。
奥義直後の素手ガードじゃ、ガード削りされるのは不可避なわけだし。
というわけで俺は、見事にさっきの先輩たちと同じ目に。
俺を討ち取ったマミー軍団は側にいるあきら達にも襲い掛かり――
はい全滅です。ここんとこよく全滅してる気がするな。
まあ、二年生の先輩でも十人がかりで全滅するようなダンジョンだ。
一筋縄じゃ行かないよな。これは何か打開策考えないとだ。
ククク。低レベル縛りはこうでなくっちゃあ! 燃えて来たぜ!




