第28話 ギルド設立許可証について
「あれ片岡? こんなところで何やってんだよ?」
B組の盗賊の片岡真一。Himechan好きの従者プレイヤーだ。
「決まってんだろ店番だよ。ギルド入ったばかりのペーペーだからな。雑用だよ」
「ああ、UWガイドブック出してるとこがやってるんだよなこの店」
「そそ。『知識の泉』な」
「昨日の人と違うね?」
「おう青柳さん。持ち回りでやっててさ」
「『知識の泉』ってそんないいギルドなのか?」
確かに影響力はでかいだろう。ガイドブックとかの情報にみんな頼る。
来年度のガイドブックに長打力最強ジョブとして紋章術師が載るようにしないとな。
「まあいろんなデータが集まるギルドだからな、ここにいれば俺もこのゲームの攻略法とかに早く詳しくなれるだろ?」
「ああ、そりゃそうだな」
「そうすりゃ、Himechanのために役立てる引き出しが増えるだろ?」
「従者としてのレベルが上がると?」
「そういうこと。Himechanと一緒に手探りでゲームなんてーのは従者失格だからな。従者は全部知ってる上で適度に知らんぷりして、Himechanを楽しませるためだけに全力を尽くすべきなんだよ。分かるか? 分かるだろ?」
「いや分からん分からん。まあそれが楽しいなら止めんぞ俺は」
プレイスタイルは人それぞれだから、多様性は認めるべきかとは思う。
「Himechan? 従者?」
あまりネトゲ経験のない前田さんがきょとんとしている。
「ああことみー、それはね……」
と矢野さんが何やら説明していた。
「ふうん……? 何だか気持ちの悪い話ね」
と、ピュアな感じでばっさり切って捨てていた。
片岡は聞いていないのか無視しているのか、話を切り出して来る。
「んで、お客さん。何か欲しい情報あるんだろ?」
「ああ。新規にギルド作りたいから『ギルド設立許可証』が欲しいんだよ。MEP以外に入手方法ってねえかな?」
「分かった。えーと『ギルド設立許可証』の入手法を検索っと……」
片岡はカウンターに置いてある端末を操作する。
何だろう、見た感じアンティークなノートパソコン?
タイプライターと卓上鏡が合体したような感じだ。
「何それ、それでデータにアクセスできるの?」
あきらが興味津々に身を乗り出していた。
「そうだぜ。『ディールの魔卓』っつって、ゲーム内で使えるノートパソコンみたいなもんでさ。プログラムも組めるようになってんだよ。『知識の泉』では攻略情報のデータベース作って、それを元に情報屋だとかガイドブック発行とかしてるのよ」
「ほぉ~。確かに情報って資産だしな、それで商売にもなるわな」
世間一般に出回ってるゲームなら攻略サイトや攻略本もある。
しかし校内ゲームで閉じた環境のUWには、そういうものはない。
ネットに攻略情報載せたら停学処分って、校則にもあって注意されている。
だからこういう情報をウリにするギルドが成り立つんだろうな。
いや逆に、こういうギルドが成り立つように学校側がうまくバランスしているのか。
しかし俺もこれ欲しい。いろいろ役に立ちそうだぞ。
データベースくらいなら俺も作れるし。
ゲーム会社社員の息子だし、プログラミングとかは小さいころから遊びで習った。
装備やステ変えて奥義撃ち比べた結果とかを比較検討したいんだよな。
そこから具体的なダメージ計算式を解析とかしてみたい。
「俺もこれ欲しいな。ダメージ計算式の解析が捗りそうな……」
「う。何か嫌な予感が……」
「ん? どうかしたか?」
「わたし忘れてないからね! 前にEFやってた時、ダメージ計算式解析するとか言って、わたしに一週間同じ敵殴らせ続けたでしょ!」
「ああ。おかげで最弱って言われてたハンマー使いで、闇の王ソロ縛りタイムアタックの当時最速タイム達成できたよな? 今は抜かれたけど……」
「あ、それ動画サイトに上がってたよね? 見たし見たし!」
おうこんなところに視聴者が!
まあ矢野さんは別ゲーでの俺の事を知ってるみたいだったし、あり得なくもないか。
「あのちょっとの動画だけのために、わたしがどれだけ検証に付き合わされたか……!」
「まあまあ。過去を振り返るより未来志向で行こうぜ。過去に囚われても未来は変わらないんだよ」
「加害者が言う台詞じゃないよねぇ、それ!」
「高代お前それはダメだぞ! 従者がHimechanをこき使うなんて許されねーぞ!」
いやお前はその発想から一回離れろってば!
「えぇっ!? 高代くんも従者って人種なの? ご、ごめんなさい! 気持ち悪いとか言ってしまって……知らなかったから」
ああ生真面目だな前田さんは!
「いや違うから! 片岡が俺を勘違いしてるだけだから!」
「そ、そうなの?」
「とにかく! 色々脱線したけど『ギルド設立許可証』の情報くれ!」
「お、おう。んじゃまあその前に情報提供料な。3000ミラね」
「ん」
俺が代表して払っておく。
「MEP以外の入手法って事だから――えーまず、うちのギルドのショップに在庫があるっぽいな」
「お。いくら?」
「500万ミラ」
「「「「高っ!?」」」」
全員ハモったし。
「そりゃお前MEP2500もするアイテムなんだぞ。そのくらいするぞ?」
「んー……別の入手法は?」
「いくつかのダンジョンの宝箱からのドロップが確認されてるな。かなりの高ランクダンジョンばっかりだ」
と、前置きしてから片岡はいくつかのダンジョンの名前を上げて行く。
「飛空艇の墓場、クリスタル・フォレスト、アウミシュール大古墳――かな。ちなみに飛空艇の墓場とクリスタル・フォレストは、入るための前提条件が結構厳しいぜ。モンスターのレベルも飛空艇の墓場とクリスタル・フォレストは100越えてる」
「じゃあ実質アウミシュール大古墳一択って事か」
「だと思う。あそこは飛空艇でミシュール大陸に渡ってちょっと行きゃいけるし、許可証が出る宝物庫への通路の鍵もうちのショップで扱ってるぞ。本当ならかなり面倒なクエストがいるけど」
「ふぅん……ちなみに鍵はいくらだ?」
「『古代王族の鍵』な。10万ミラね」
それでも結構高い。無くはない感じだが。
「俺は5万ちょっとくらいなら手持ちあるけど……みんなどうするよ?」
「2万5千ずつ出し合いましょう。私も5万くらいしかないから多少痛いけれど」
「うんいーよぉ」
「おっけおっけ。さっさと一人部屋欲しいし! 金で解決できるとこはしとこ」
「あ、ちょっと待った! アウミシュール大古墳も奥は敵レベル80くらいあるわ。それでもいいか?」
と、片岡の警告。俺は少し腕を組んで考える。
「ふーむ……少人数縛りの次は低レベル縛り攻略ですね。分かります」
「いやいや蓮くん、そんな必然性は別に……」
と言うあきらに、俺は断言する。
「縛りプレイに必然性などないッ! やりたいからやるんだよ! 趣味だッ!」
「うわー……目がキラキラしちゃってる! また蓮くんの病気が始まったよー!」
「ぷっ。んーまあ、鍵自体は持ってればずっと使えるし?」
と、矢野さんが片岡に尋ねる。
「ああ、そうっぽいぜ」
「んじゃ買っといても損じゃないはないっしょ?」
「そうね。ダメだったらレベルを上げて、また挑戦すればいいし。見に行くだけ行ってもいいかも知れないわね」
「よし! じゃあ鍵買うわ。大古墳に行ってみるぜ」
「おう! まいどあり~!」
というわけで俺達の次の目的地は決まった。
大古墳に乗り込んで『ギルド設立許可証』探しだ!




