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第27話 情報屋へ

「ところで、確かギルドって最低四人だったよな? あと一人は矢野さん?」

「ええ。優奈もやるって」

「よーしよし、そうなると図らずも不遇ジョブを愛するボンクラーズ縛りギルドが誕生するわけだ! ボンクラーズ軍団によるジャイアントキリングとか燃えざるを得ない! 大好物の展開だわ俺!」

「いやー前田さん以外は、蓮くんがそっちの道に引き込んでるだけなんだけどねー……優奈ちゃんなんて元聖騎士(パラディン)なんだし……空賊になってから野良のレベル上げPTで蹴られるって悲しんでたし――」


 確かに普通の構成のPTなら、空賊では盾役(タンク)出来ないよなー。

 『ギルティスティール』の再使用時間(リキャスト)が3分もあるのが厳しい。

 レベル上げPTでは、基本どんどん敵を釣って連戦していく。

 盾役(タンク)はそのターゲットをどんどん取って行く必要があるが、その手段が再使用時間(リキャスト)3分のスキルでは全く追いつかない。

 聖騎士(パラディン)や重騎士のヘイト獲得(タウント)スキルは再使用時間(リキャスト)が30秒で、連戦に耐え得る回転数を持っている。


 俺にとっては最高の盾役(タンク)と化すんだが、それもあくまで局地戦の話。

 ボスを相手にダメージを出し過ぎる奴をフォローするため、ソードダンサーの『剣の舞い』を貰いながら強引に『ギルティスティール』連発するという特化戦術だった。

 空賊、ソードダンサー、ロマン砲の3人コラボによる団体芸である。


 レベル上げPTには全く通用しない方法論だ。


「まあそれはそれとして」

「うわ豪快にスルーした」

「あとは『ギルド設立許可証』がいるよな。それをどうするかだ。MEP(メリットポイント)すっからかんだよな……」


 『ギルド設立許可証』は、MEP(メリットポイント)の引き換えリストにあったはずだ。

 MEP(メリットポイント)2500ポイントと相当お高い。


「そうね。テストまで待つのも芸がないし、別経路の入手方法がないか調べてみようと思うの。またギルドショップ街の情報屋だけど。一緒に行かない?」

「おう。じゃあ行きますか」


 というわけで俺達は、ギルドショップ街に出かけることにした。

 向かう途中で、レベル上げに出かけて帰って来た矢野さんも合流して四人に。

 ギルドを作ろうという話には、何となくではなく結構乗り気みたいだった。


「ねえねえギルドハウス貰えたらさあ、それぞれの一人部屋あるんじゃん?」

「ま、見た感じギルドハウスは結構でかいし、その位の余裕はあるんじゃね?」


 俺はギルドショップ街の光景を眺めながら答えた。

 大体どのギルドハウスも最低三階建てくらいある。

 下層が店舗になっている感じだ。

 一階が店舗だとしても、残り二階で四部屋は余裕で入るだろう。


「うち四人兄弟だから一人部屋無いし、ゲームの中でもいいから一人部屋欲しー! ここは絶対ギルド許可証ゲットするべし!」


 おお矢野さん気合入ってるな。


「兄弟と一緒の部屋も楽しそうだけどな。俺一人っ子だからちょっと憧れるな」

「ないない。そんなん五秒で飽きますし。やっぱ個人個人のプライバシーって重要だし、守られるべきなわけで。なんて言うの基礎的人権? ってやつですし」

「いや、そこは基本的人権よ。優奈」

「んー? 違った? まま、意味は通るし問題ないっしょ」


 大らかだ矢野さん。そして悪びれねえ。

 でもテストに書いたら間違いになっちゃうぞ。五教科166だもんな。

 まあ俺は人の事大して言える立場でもないが。


「優奈、ギルドを作って大きくしていくにはMEP(メリットポイント)も重要になるわ。少しでも稼げるように私が一緒に勉強するから、次のテストはしっかりね」

「うげええぇぇぇ」

「それもゲームに還元されるんだから、我慢して頑張りましょう」


 浮島の領地獲得を目指す前田さんは、何か燃えてるっぽい。


「蓮くんも英語と国語は頑張ろうね? 特に英語は20点なんだよね?」

「うーん……あんま興味ねーんだよなー……」


 どうせ将来使わんしなー。そもそもあんま外国に興味がない。

 学校で点取れたからって英語が喋れるようになったなんて話も全く聞かない。

 つまり全く身にならない教科って事だ。

 無駄でしかないと分かっているものは切り捨てたいというか……

 そもそも何がグローバル化だと、日本語だけで生きて何が悪いと思うわけで。


「わはははは! 勝ったし! バーカバーカ!」


 矢野さんに嬉しそうに指をさされるとちょっともやっとするな。

 くそう。次俺が本気出したら知らんぞ。


「合計241よね? 他は?」


 と前田さんが聞いてくる。


「えーと数学100、理科63、社会31、国語27」

「す、数学満点は凄いわね……! あのテストは難しかったけど」

「まあ数学は得意なんだわ。ちゃんと理論と法則があるしな」


 ロジックがちゃんとある勉強は、楽しくできていい。

 逆に知識をとにかく覚えるだけの教科は苦手だった。

 これがゲーム知識ならいくらでも覚えられるんだけどなあ。


「数学特化なのね。高代くんを見ていたら、何となく分かる気がする」

「ん? そう?」

「考え方とか作戦がね。このゲームの王道からは外れているのかもしれないけど、理論立っているもの。結果も残っているんだから、それも正しかったわけだし。凄いと思う」


 まあボンクラーズで突き抜けた結果を出すテンプレはないしな。

 ないからこそ、その可能性を試行錯誤するのが楽しいわけだ。


「今回はたまたま何とかなる材料が揃ってただけだけどな。運がよかったわな」

「その材料の組み合わせを見つけて実行できるのが凄いのよ。ゲームに限らずだけど、人真似じゃない新しいことを考え出せるって、価値のあることだと思うの」

「ほほーう。ことみー、めっちゃ高評価じゃあん? ひょっとして惚れたぁ?」

「!? そ、そういう話じゃないでしょう……!? わたしは純粋に敬意を……!」

「あーそうなんだぁ。いやーお堅いことみーにも春が来たかあ。結構結構っ」

「だーかーらー! 違うって言ってるでしょ!」

「わーことみーが怒った! 図星だ! きゃーっ!」


 ばたばた追いかけごっこが始まった。おうおうはしゃいでるなー。


「優奈ちゃんもすぐそういう話に持っていきたがるから、困っちゃうよね?」


 そう言ってくるあきらの笑顔が何か微妙に怖かった。妙な迫力。


「そ、そうだな――」


 暫くそんな感じで歩き、俺達は目指す情報屋に到着した。


「おっ。蓮くん目的地あそこだよー。着いた着いた」


 ギルドショップ街のはずれ、結構老朽化したような外観のギルドハウスだった。

 一階の入り口に『情報屋 ビッグスマックス』の看板が掛けられてる。


「こんにちわー」

「あ、いらっしゃい!」


 そこにいた店員は、俺の知っている顔だった。

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