第26話 自分たちのギルドを作ろう!
「すんません。せっかくですけどちょっと興味がないんで――これで失礼します」
俺は声をかけてきた先輩に頭を下げると、目的地に向かって歩き出した。
ふう……今日だけで何度目だこれ。
「きゅー?」
俺の頭の上のマウントポジションに陣取ったリューが覗き込んでくる。
「ああ大丈夫だぜ。あきらが待ってるし、早く行かないとな」
俺が向かったのは、学園内にある合成ルームだった。
基本的にゲーム内の合成はどこでもできる。
ただ、この合成ルームでは配置されたNPCからちょっと合成の成功率を上げるサポートが受けられたり、合成レシピの情報がもらえたりする。
「蓮くんおそーい」
中に入ると、既にあきらが待ちくたびれた表情をしていた。
「わりーわりー。また声かけられててさ。さあ合成やっちゃいますか? 材料用意できたんだよな?」
「うん! よろしくっ!」
あきらが『精霊銀』二個、それから『スチールインゴット』を俺に手渡して来る。
『精霊銀』も『スチールインゴット』もいい素材だ。
そのうち大量に集めて俺の『仕込杖』もバージョンアップする儀式が必要だな。
とりあえず今やるのは、『スカイフォール』の強化だ。
俺の合成スキルは多分ギリギリ。
だけど、この合成ルームのサポートで合成失敗時に指定一種だけは素材消滅しないという効果のものがある。
それをつけて『スカイフォール』を保護しつつトライだ。
『精霊銀』とか『スチールインゴット』が消えたらごめんねって事で。
さっそく部屋付きのNPCのお姉さんに頼んで合成サポートをもらう。
「よし、やるぜ」
俺はあきらから『スカイフォール』も受け取る。
「先生お願いします」
正座して見守るあきら。リューがその頭に乗りに行った。
合成開始。いろいろ手元を動かす作業を繰り返して――
途中失敗しそうになったが、何とか成功した。
さて結果について。はい使用前
スカイフォール(O)
種類:片手剣 装備可能レベル:10 攻撃力:20 獲得AP:12
ガード性能:44 ガードブレイク性能:51
特殊性能:HP100%時、剣が衝撃波を発する
そして使用後
スカイフォール+1(O)
種類:片手剣 装備可能レベル:25 攻撃力:39 獲得AP:14
ガード性能:56 ガードブレイク性能:64
特殊性能:HP85%以上の時、剣が衝撃波を発する
「よっしゃ成功!」
「おおー! ナイス蓮くんっ!」
「きゅーきゅー!」
リューも短い手で健気にぱちぱちしてくれた。地味に嬉しい。
「見た目変わらねえけど、純粋に攻撃性能上がったのと衝撃波の条件緩和されてるな」
「そうだねー。ますます使い勝手良くなった感じ。さらに鍛えるともっと緩和かな」
「その線は濃そうだな。さすがの激レア剣」
「また次も鍛えるときよろしくね」
「もちろん任せとけよ。けどよくこのレシピ分かったよな? ガイドブックにも載ってねえし、ここの係の人も教えてくれねえっぽいのに」
ガイドブックも万能じゃない。NPCはごく一部のレシピしか教えてくれない。
『スカイフォール』ほどのレア武器の強化レシピ、みんなが知っている事でもない。
「ギルドショップ街に情報屋があってね、そこで聞いてきたの。お金取られるけどね」
俺たちプレイヤーの拠点であるこの浮遊都市ティルーナには、普段授業を受ける学園をはじめとして、様々な施設がある。
ギルドショップ街というのもその一つ。
ゲーム内での正式名称はシウェン大通り沿いギルドハウスタウンだ。
この区域はギルドハウスを店舗改造したものが多く固まる文化になっている。
だからギルドショップ街と呼ばれている。
商売をするギルドは、シウェン大通り沿いのギルドハウスに入居するのが普通らしい。
逆に攻略やバトルメインで商売っ気がないところは、郊外の広いところに入居する。
ギルドを部活と考えるなら、ギルドハウスは部室だな。
「UWガイドブック出してるとこが情報屋もやってるみたいでね。前田さんが教えてくれたの。昨日一緒に行ってきたんだー。ついでに強化素材も仕入れてね」
「ほぉーう。ギルドショップ街ってまだ行ってねーな俺」
昨日は用事があって、授業終わってすぐログアウトだった。
「蓮くんも何か聞きたい事あったら行ってみる?」
「聞きたい事ねえ……うーむ。取りあえずこのスカウトされまくるのを何とかしたい件について。落ち着いてゲームしてられねえし――」
「それなら――どこかのギルドに入ってしまうのが一番簡単だと思うけど」
ふっと横から会話に入って来たのは、前田さんだった。
リューの事がすっかりお気に入りな彼女は、よくリューの顔を見にやって来る。
「おお前田さん」
「ごめんなさい、聞こえたものだから。リューちゃん、ごはんを持って来たわ。食べるかしら?」
と前田さんは木の実やら果物やら草やら魚やら――何かいろいろどっさり取り出してリューに見せた。この物量が前田さんの入れ込みっぷりを物語っている。
「はは……凄い量だな――」
「食べ物なら何でも食べるって話だけど、性格の設定もあって好みが違うみたいだから、何にするか迷っちゃって」
「前田さん昨日ね、情報屋で守護竜育成について聞いてたんだよ」
「お、そうなんだ。そりゃ助かるなー。守護竜の入手方法も聞けたのか?」
「ええ。基本的にかなりレアで、クラス対抗ミッションみたいな大規模イベントのMVPにしか貰えないんですって。例年通りなら次のイベントは別のものが貰えるみたいだから次のチャンスは二年生にならないとないって」
「あー……そりゃ残念だな」
「ええ。でもそっちとは別にもう一つ入手経路があるらしくて」
「ほうほう?」
「ギルドを作るとギルドハウスが貰えるんだけど、そこからギルドの名声値を高めていくと浮遊都市ティルーナの周りの浮島をギルドで領地として所有できるらしいの」
そういうシステムがあるのか。自分の浮島とか面白そうだな。夢がある。
「で、自分たちのものにした浮島に漂流物が流れ着くイベントがあるそうなんだけど、その中に守護竜の卵が出るときがあるんだって」
と、あきらが前田さんの後を続けた。
「どう蓮くん、どうせならわたし達でギルド作ってさ、大きくしてみない? 結構おもしろそうだと思うんだ、わたし。前田さんもやりたがってるし」
「自分たちで作ってしまえば、興味のないところからのスカウトも減ると思うわ。ギルドに所属していればアイコンで分かるし」
「ああ、それは言えてる。確かに減るかも」
「それにね。次の大規模イベントって、ギルド同士の対抗戦らしいよお?」
「へえ。そうなのか」
「うん。これも昨日教えてもらったの。でもそれって入ってないと参加できないし、でも元々あるところに入っちゃったら先輩いるし好きにやれないじゃん?」
「あーギルドを部活と考えるなら、それあるかもな。体育会系の上下関係的な?」
「うんうん。そこで、ですよ。自分たちでギルド作っちゃえば好きに動けるし、何より出来たばっかりの一年オンリーの無名ギルドが大活躍! っていい響きじゃない?」
「おおう確かにいい響き……」
そこで紋章術師が世の中に認められて、巷にはそれに憧れたにわか紋章術師が急増するんですね。いいよいいよー。実にいい。明るい未来だな。
「そう。蓮くんの大好きなジャイアントキリングってやつですよ~?」
あきらはそう俺の耳元で囁いた。
「おお! いいねその言葉は大好きだぞ! 好きな言葉のうちの三本の指には入るな!」
あとの二つは覚醒と魔改造かな!
「ジャイアントキリングやりたくな~い?」
「やりたいやりたい!」
「じゃあ一緒にギルドつくろっか~?」
「はい、お願いします!」
「おっけー。じゃあ仲間に入れてあげるね」
「ありがとうございます!」
「あ、操ってる……」
俺達のやり取りを見た前田さんの感想でした。
「うん。フレ歴長いし、蓮くんの乗せ方の一つや二つくらいは――ね?」
ニコッと笑うあきら。
俺だってあきらの操り方は心得ているつもり。お互い様なので何ら問題はない。
とにかく次の目標がはっきりしたな。
ずばり『自分たちのギルドを作ろう』だ!




