第25話 二人と一匹でピクニック
「ふんふーん♪ ふふーん♪」
俺はあきらのご機嫌な鼻歌を聞きながら、レジャーシート代わりの絨毯に寝っ転がっていた。横には守護竜のリューが丸まって寝ている。
背の高い木々の葉の間から漏れた光が暖かくて、眠気を誘う。
ほんとに日向ぼっこしてるみたいだな。リアルすぎるけどこれもゲーム内だ。
ここは精霊樹の森。その中にある小さな泉の側でこうしている。
ガイドブックには、景色のいい場所もいくつか紹介されていた。
いくつか回ってみようかという事で、この精霊樹の森に来ている。
落ち着いたきれいな場所だなー。
クラス対抗ミッションが終了すると、選択できる飛空艇の航路が結構追加された。
そうなると絶景マニアのあきらが色々な場所を見て回りたい! と言うのはもはや必然で、俺も当然のようにそれに付き合っている最中だった。
珍しくあきらがお茶とお菓子を用意すると言うから、俺は大人しく待っている。
お茶とお菓子は、料理の合成スキルで作ることになる。
あきらはあんまり合成には興味ない派だったはず。
それが興味を持ったのは、ゲーム内の料理が本当に味がするから? らしい。
どんなものか作ってみようと思ったそうだ。
俺も料理はやっていないから初体験だ。
「蓮くんもうちょっと待ってねー。もうすぐできそうだからー」
合成道具? にあたる簡易キッチンセットの前に立つあきらが、こっちを振り返ってにこにこ笑顔。
「おお了解ー。焦らずゆっくりやってくれていいぞー」
寝転がる俺の角度からは、料理するあきらの後ろ姿が見えていた。
ちょっとあきらがフライパンの火加減見るためにかがんだりすると、絶対領域? ってやつがチラチラしている。
ソードダンサー装備にエプロン姿で裾短いから、もうほんとギリギリだ。
うわーい。いい眺めだなー……
何故にソードダンサー装備かは気になるが、わざわざ指摘などするはずがない。
しかし、ガチのリアルだとこんなに堂々と見ていられない気がするなー。
ゲーム内って分かっているからか普通に楽しめる。半分キャラとして見れるからか?
それに衣装がファンタジーだからか、見ていい気がしてくる。
「ここは静かでいいねー♪」
ここに着いたら他に誰も人はいなくて、貸し切り状態だった。
「だなー、最近周りが騒がしいしな。落ち着くわ」
クラス対抗ミッションが終わって一週間が経つ。
俺は、次から次にやって来るギルドのスカウトに悩まされていた。
クラス対抗ミッションの終了とともに、一年生もギルドへの所属が解禁になった。
ギルドはこの学校における部活みたいなもの。
リアル部活もそうだろうけど、有望そうな新入生はどこも欲しがる。
自分で言うのもなんだが、クラス対抗ミッションの優勝アイコン付きでしかもMVPの証である守護竜を連れている俺は、一目で分かる有望株という事になる。
期待の新人。ゴールデンルーキー。複数球団競合のドラフト一位って感じ?
だから、新入部員獲得に熱心なギルドの先輩方のスカウトが集まりまくっていた。
「ここんとこ毎日だもんね。わたしでも結構スカウトが来るのに、蓮くんはリューくん付きだからもっと目立つしねえ」
「声かけてくれるのはまあ嬉しいけどな。けどみんな俺のジョブ見て、えって顔するからなあ。何かの間違いじゃねってさ」
「紋章術師は世間的にはボンクラーズの王だしねー」
「それ見ると何か微妙な気分なんだよなー。ボンクラーズ縛りのギルドがあったら興味あるんだが……」
「どうなんだろ……あるのかなあ?」
俺達がこうして観光スポット巡りをしているのは、騒がしい周囲から少し距離を置くためでもあった。ちょっと落ち着いてのんびりしたい時もある。
「よっし出来た~」
ああ俺のスーパー目の保養タイムが終わってしまった。
あきらがお盆にお皿とティーカップを載せてやって来る。
「お待たせー♪ はい召し上がれっ」
お皿に盛られているのは、パンケーキだった。
カットされたフルーツと生クリームでトッピング。
「おおーいい感じだなー! うまそう!」
「『フルーツパンケーキ』だって。まだ料理スキル低いからこの位しかできないけど」
「充分充分。じゃあ、いただきまーっす!」
「うんっ」
ぱく。
「おお! 甘い! うまい! ほんとに味するぞこれ!」
「ほんとだ、食感もちゃんとパンケーキだねー。すごーい!」
ただもぐもぐ食べていざ飲み込むと、お腹に貯まらずスッと消える感じ。
さすがに本当にお腹が膨れることはないか。味を楽しむものなんだな。
「ああなるほどなー。飲み込むと消える感じがするな」
「その一歩手前までは完全に実写な感じだねこれ」
「だな。謎の技術力だなー。VRMMOってすげー」
俺もあきらも感心しきりだった。普通のネトゲでは全く味わえない感覚だ。
「料理作る過程もすっごいリアルだったよお。スーパーリアルおままごとって感じ? 何か普通にリアル料理スキルも付いちゃいそう」
「細かいところに異様に凝ってるわなー。このゲームは」
「私的にはリアルなのはいーなーって思うよ。普段料理なんてやらせてもらえないし」
やらせてもらえない? 何でだ?
俺が家で料理とかしてたら、助かるって母さん喜んでくれるけどな。
あ、ひょっとしてすっごいメシマズなのでは?
「やらせてもらえないって、なんで?」
俺が聞いてみると、あきらは珍しいものを見たように目をぱちくりとさせる。
「あ、蓮くんがわたしのリアルに興味持ってくれたあ。興味ないのかと思ってたよ」
「え? いやそんなことは……」
「だって蓮くんずっとゲームの話しかしてなかったよお? 常に魔改造と検証と縛り攻略の事ばっかじゃん。まあそれはそれで楽しいけど」
「いや、あんまプライベートなこと突っ込むのも悪いかなってさ」
「実は女の子でしたって最大の秘密を自分から暴露してるんだから、今更隠したい事なんてないし、遠慮なんていらないよ?」
「そんなもんなのか?」
「うん。もちろんは人は選ぶけどね。蓮くんは特別だから」
うおー。ちょっとはにかんだ笑顔がすっげー可愛い。
「で、わたしが家で料理させてもらえない件についてだっけ?」
「ああ」
「じゃあ、何でだと思いますか?」
「すっげーメシマズだから!」
「ぶぶー! 正解は、うちのコックさんに仕事を取らないでって言われるからでした」
「何ィ!? 専属のコックさんが家にいる!?」
「うん。まあ一応三人くらい」
「へぇー……実は相当なお金持ちのお嬢様だったのか……」
前もちらっと思ったが、当たっていたみたいだ。
しかしそのお嬢様に何か色々まずいことをしてきたような気がするぞ、俺は。
絶対領域ガン見して喜んでいる場合ではなかったのでは……?
「普通に見ればそうなんだと思う……昔からある華族の家系なんだって」
そういうあきらは、あまり嬉しそうな顔はしていなかった。
「華族って……えーと?」
「明治時代の貴族階級の事だよ」
「ほー……」
「お父さんとお兄ちゃんは会社経営しててね。おじいちゃんは国会議員さん」
「うお凄っ!? 正真正銘のお嬢様だわなー……」
「でもね、わたしを箱入り娘にしたがるんだよね。すっごい過保護だから自由に外出なんて出来ないし、生きててすっごい窮屈!」
あーまあ、大事な娘だしって事なんだよな。きっと。
一般人にはわからない世界がそこにはあるんだろう。
「でもゲームだったら好きなとこ行けるし、自由に冒険できるじゃん? だからゲームって楽しいんだよね。VRMMOだったら臨場感凄いしなおさらね」
「あきらが絶景マニアなのってそういう事なんだな」
今明かされた真実。
「そうなの! それに蓮くんと一緒にやってると楽しいしね。わたしが行ってた学校ってお嬢様学校だったから、みんな素直ないい子なのはいいけど、ただ周りに従って満足してるだけって感じでつまんないの。とにかく変化がないんだよね」
「何かまったりした時間が流れてそうなイメージだな」
「うんそんな感じ。でも、蓮くんってそうじゃないじゃん? あえて地雷に突っ込むし、魔改造とか言って人と全然違う事やろうとするでしょ? 次何し出すか分かんないから読めなくてすっごい新鮮なの。だからずっと楽しくフレやってこれたんだと思う」
そんな風に思ってたのか。
長年フレでも、直接顔を合わせて話し込んでみないと分からない事は結構あるよな。
これもゲーム内だけど、まあ今はどうでもいい。
「俺そこまで深く考えずに、楽しんでやってただけだったな……気が合うしいいやつだなって思ってさ。なんかふわっとしてて申し訳ない」
「いいよ。蓮くん基本ゲームバカだもんね。熱中したら周りが見えないタイプ」
「ははっ。まあそうかもなー」
親からも自分の好きなことをとことん突き詰めろって言われてきたからな。
「でもゲームに対する考察とか論理は凄いから、単なるバカでもないんだよね。何ていうか――そう、頭のいいバカだよね?」
「褒められてるようなけなされてるような……」
「褒めてる褒めてる。六対四でね」
「うわ微妙だなー」
「ふふふっ。あー、自分語りしたらスッキリしたあ!」
あきらは座ったままぐぐっと伸びをした。
木漏れ日がぽかぽかと、気持ちいい感じ。
何か欠伸が出てくる。ちょっと眠い。
「蓮くん眠そうだねー。誰もいないし急いでやることもないし、お昼寝でもしていく?」
「あーそれもいいな」
別にゲーム内で普通に寝ても問題はない。
リアル午後十時で強制ログアウトだけれども。
とりあえず俺達は、寝っ転がって昼寝モードに入った。
たまには、こういうぐうたらも悪くはない。
ここまででクラス対抗ミッション編は終了です。次回より別展開になります。
それに伴い、ストックの量的問題から更新頻度が少し落ちます。。ごめんなさい。
別途活動報告にも書きますが、月水金の週三回更新予定になります。




