第251話 夜空に向かって叫べ!
その日の夜遅く――
わたしはUWにログインしていた。
明日蓮くん達を家まで迎えに行くための準備もして、聞いておいたみんなの好きなものを出してくれるように家のコックさんたちにもお願いしたし、あの場にいなかった希美さんに連絡をしてお誘いもした。
うちの家と希美さんの家は関係が良くないけれど、お爺ちゃんは希美さんがうちに来ることをオーケーしてくれた。
多少苦い顔はしていたけれど、ダメとは言われなかったのは、今までの事を考えたら凄い事かなと思う。
とにかく、明日はリアル蓮くんに会えるんだ!
ゲーム上で知り合ってからはもう何年にもなるけど、リアルに会うのは初めてだ。
ずっと会ってみたいなと思ってて――それが明日、現実になるんだ。
そう思うと嬉しいんだけど、何だかきゅっと胸が閉まるようなドキドキも感じて――
とにかく念入りに明日の準備をしようと思って、いつもより長めにお風呂に入ったり、明日のメイクに使う道具に新品を下ろしたり――
とにかく明日はお迎えの車に私も乗って行くから、とびっきり綺麗にした笑顔で蓮くんをお迎えに上がらないとね!
ゲームの中よりリアルの方が可愛い――とか思ってもらいたいし……!
そんな風にふわふわした感じで明日のシミュレーションをしている所に、希美さんからの呼び出しだった。
この間夜中に二人で話した時は、最近のわたし達の活動拠点である水上コテージだったけれど、今回は異世界サーマルではなく通常世界の浮遊都市ティルーナだ。
それもわたし達のギルドハウスではなく、ギルドショップ街を出た所にある臨空公園。 その名の通り、街の外縁にある公園で空に面している。
見晴らし最高で、今の時間は手すりつきの柵の向こうに、絵に描いたように綺麗な星空が広がっている。
そんなロマンチックな光景の中――わたしを呼び出した希美さんが口を開く。
「――高代君をお宅にご招待差し上げたのは良くやりましたわ。褒めて差し上げます」
「はぁ――ど、どうも。お爺ちゃんも連れておいでって言ってくれたし、良かったです」
「お兄様も仰っておられましたが、高代君と楽しそうにしておられるあなたは、いい顔をしていらっしゃいますもの。それを見てしまえば、多少問題があっても簡単に退学になどできませんし、あなたにいい影響を与えて下さる高代君を丁重にお招きしようというのも分かりますわね」
「蓮くんのおかげ――ですよね」
「本当にそうですわよ? 高代君と一緒にいないと、あなたは暗いですもの」
「あははは……そうかも――」
「だからこそ、あなたにとって高代君は必要な人ですわよ? お分かりですわよね?」
「それは――はい、勿論」
「でしたら――! あなたには明日、やるべき事がありますわ!」
「分かってます。とびっきり綺麗にして――」
「手ぬるい! 手ぬるいですわ!」
びしいっ! と希美さんが私を指差してくる。
「えぇっ!? じゃあどうしろって……!」
「やはりお気持ちを告白すべきですわね! 善は急げと言いますし、あなたにとって高代君は必要ですもの! 他の方に取られてからでは遅いのです! お爺様も高代君をお認めになって下さっているのですから、何も問題は無いでしょう?」
「で、でででもそんないきなり――明日はそこまでのつもりじゃないって言うか、まだ心の準備が……」
「ではその準備とやらはいつできるのです?」
「そ、それは……分かりません」
「でしょうね。それはただの逃げ口上ですものね。準備は自然とできるものではなく、するものですわ! わたくしが付き合ってあげますから、予行演習をなさい! そうしておかないと、いざという時に尻込みしてしまいますからね!」
「予行演習ですか……?」
「そうですわ! ほらこの空に向かって、高代君への気持ちを思い切り言葉にしてみなさい! ここならば高代君も来ませんから、思いっきり声が出せますわ! 周囲に人もいないでしょう?」
確かに。夜の公園はわたし達以外に誰もいない。
目の前に広がる星空に思いっきり叫んでも、わたし達だけにしか届かないだろう。
「こ、これをさせるためにここに呼んだんですね……!」
「水上コテージやギルドハウスでは、下手すれば見つかってしまいますからね」
「で、でも……!」
「気持ちを声に出す練習は必要です! いざという時のためです! さぁ言ってごらんなさい、それが自分の気持ちをより確かめる事になりますわ。意外と気持ちのいいものでしてよ?」
「え、ええと……れ、蓮くん――いつもあ、ありがとう……だ、大好きです……?」
うわぁ。口に出しちゃった!
これ言ったら、蓮くんどんな顔するんだろう――? 喜んでくれるのかな?
もしも俺も好きだよとか言ってくれたら――うわぁ! それいいなぁ……!
「どうですか? 思っていることを口に出して見たご感想は?」
「……結構いいかもしれません――なんかドキドキして、体が熱くなりますね」
「でしたらもっと続けましょう! もっと大きな声で、はっきり口に出すのですわ! いざ本番の時の台詞も考えませんとね!」
希美さんに促されて、わたしは暫く告白の予行演習をしていた。
だんだん大胆になってきて、大声で好きだーって叫ぶくらいはできるようになった。
確かにこれ、ちょっと気持ちいいんだよね――恥ずかしいは恥ずかしいけど。
暫くして少し休憩して――
「実際、どう言うのがいいんでしょうね……?」
「わたくし、とあるお話で見て、大好きになった情熱的な告白の台詞がございますわ。試してご覧になりますか?」
「へえ……どんなのですか?」
と、わたしは希美さんに尋ねた。




