第250話 ブームのきざし
「ははは……そういう反応は蓮くんらしいね~。自分が満足できたらいいんだよね?」
「そうそう! そー言う事!」
と言っている間に動画の舞台は『ハーデスローズ』のいるB80Fに。
バトル開始。
エミリーとルーカスが同時に突っ込んで行き――
二人の奥義が同時に炸裂! そして倒れる『ハーデスローズ』。
あっさり倒されたように見えるが、それに至るまでの過程が重要なのであって、いざ成功した時の映像なんてこんなもんだろう。
だがそれでいい。これなら自分にも真似できる――そう思われた時にこそ、ブームってやつがやってくる!
「はい! というわけでクリアしました♪ ちなみに紋章術師については、本校の1-Eの高代蓮くんの組み立てたセッティングを、殆どそのまま参考にさせて貰いました! スペシャルサンクス! 蓮、ありがとね~!」
「どういたしまして!」
と、俺は動画内のエミリーに答える。
「あ、よかったぁ。そう言ってくれると助かるわね~。事前に連絡したかったんだけど、昨日連絡したけど繋がらなくって――」
「ん? ああ――悪い。ちょっと忙しかったからなあ」
と、サラッと応じてから俺は気が付く。
リアルエミリーが目の前にいるじゃねーか!
「おぉ!? エミリー! いつの間に!?」
「今よ今! やっぱり蓮には一言断っておかないとってね。蓮のやってた事殆どそのまま使っちゃったし」
「ああ全然いいぜ。これを機に紋章術師が流行るかも知れねえしな」
「だけど二人も紋章術師にしちゃうのは思い切ったねえ」
と、あきらがエミリーに話しかける。
「『転生の翼』は持ってたからね! ルーカス達には反対されたけど、あたしは蓮の事見てたし、絶対行けると思ったわ! 不人気ジョブが大活躍の方が見てて楽しいしね!」
うんうん、その通りだお目が高い!
「で――攻略法パクったんだから代わりに教えて欲しいですし。あの先の宿題の壁を越えたら、『レインボーガード』が貰えるですし?」
「え? ああ、蓮達もクリアしてたのね! さすが早いわね!」
「ああ、つい昨日だけどな」
「じゃ殆ど同時ね、きっと!」
「で、その先の宿題の壁で足止めですし。先が知りたいですし!」
「うんうんそれはね。実は――」
「実は?」
「あたしもわかんない!」
「ええっ!? どういう事ですし!?」
「そっちと一緒よ! あたし達も宿題終わってないもの!」
「ええぇぇぇぇっ!?」
「だから急いで帰ってやらないとなのよね! ゲームのクリア条件にリアル宿題持ってくるとはやってくれるわよね!」
「それなのに動画公開しちゃったら、宿題既にやってる奴らに真似されて、追い抜かれるですし!」
「それはそれ、これはこれよ! 動画作るのはスポンサーからのオーダーでもあるし。とにかく皆宿題がんばろ! じゃあ、またね!」
と、わたわたと忙しくエミリーは帰って行く。
「おお! じゃあまたなエミリー!」
エミリーを見送ると、俺達のやる事は決まっている。
「結局これしかねえ――うおおおおぉぉぉ――! 急げ急げ急げ急げ――!」
「だからうるさいって言ってるですし! 集中できませんし!」
「……振り出しに戻ったわね――」
「あ、そうだ! ねえせっかくだから明日は気分変えてやらない? 今日中には終わらないだろうし――」
「ん? ギルドハウスでやるですし? それか、学校の図書室とか……?」
「ううん。リアルわたしの家とかはどうかなって……」
「おぉ! そういや何か美味いもの食わせてくれるって言ってたっけか」
「うんうん! 今回のイベントが終わったらッて言ってたけど、まぁまだ完全には終わってないけど、『ハーデスローズ』は倒したわけだしキリはいいよねって事で!」
「招待してくれるですし!? あっきーの家凄そうですし! 楽しみですし! でも遠かったんだっけ?」
「横浜だろ、確か? 移動には多少かかるわなー」
俺は東京で、前田さんと矢野さんは千葉だ。
横浜に行けないことはないが――
「移動時間考えるとアレか……宿題いそがねーとだからなあ」
「大丈夫だよ。お迎えの車の中で宿題できるように、大きな車で行くから!」
「お迎えの車!?」
何それ聞いたことないワードだな!
少なくとも友達の家に遊びに行くのに、そんなものは聞いたことがないぜ。
やっぱあきらってガチンコのお嬢様なんだなと、改めて思った。
「うんうん。明日みんなの家までお迎えに行くからね!」
「おぉ、行く前から既に凄いですし……聞いたことないパワーワードですし」
「で、でもそこまでしてもらっていいの?」
「いいよぉ! お爺ちゃんも連れておいでって言ってくれてるし、宿題は急がないといけないでしょ? だったら移動中もやらないとね!」
「ならまあせっかくだし、行かせてもらうとしますか!」
「おー! 楽しみですし!」
「そうね。お邪魔させて頂くわ」
「やったぁ! あ、あと今日はいないけど希美さんも多分来ると思うから」
「おう了解!」
というわけで、明日の宿題の舞台は水上コテージではなくあきらの家だ!




