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第24話 守護竜のリュー

 そして翌日の朝のホームルーム――


「はーいゲームバカども、おっはよー!」


 いつも通りのテンションで先生がやって来るけど、クラスの雰囲気は暗い。

 伝説の衰弱ボムのショックがまだ続いているようだ。


「はい注目ー。みんなにお知らせでーす。昨日、クラス対抗ミッションの優勝クラスが決まりましたー」


 そう言ってクラスを見渡す先生と、俺の目が合った。

 先生はにやりと悪戯っ子のような笑顔を浮かべていた。


「優勝はE組! うちのクラスでーす! みんなおめでとうっ!」


「「「えええええええっ!?」」」


 とクラス中がびっくりしていた。


「でもみんな衰弱だったよなあ……?」

「何があった!?」

「何かの間違いじゃ――?」

「うんうんまあそう思うわよね。実は高代くん、前田さん、矢野さん、青柳さんの四人だけで十層ボス撃破に成功したのでした!」


 まあ先生の言う通りで――あの後急いでもう一回準備してボスと再戦したら、バッチリ狙いがハマって撃破できた。

 俺があきらたちに説明した想定シーケンスの通りになったぜ!

 拍子抜けするくらい、実にスムーズに『デッドエンド』四連打で終わったという。

 四打席連続ホームラン、イコール相手は死ぬって事だな!

 やっぱあれだ。戦いっていうのは準備で決まるんだなと。準備大事。工夫も大事。


「!? マジか!?」

「すげえええぇぇ!」

「野郎ども! 何人で倒そうがこの勝ちはクラス全員の勝ちよ! よって全員にボーナスがありまーす! タレント枠を参照っ!」


 おお? あ、タレントのリストに『マジックエンゲージ』なるものが。

 確か『マジックエンゲージ』持ち同士で合体魔法が撃てるようになるものだ。

 奥義エディットする『スキルチェーン』の魔法版とでも考えればいい。


「物理ジョブの子には『スキルチェーン』魔法ジョブの子には『マジックエンゲージ』が支給になってまーす。リストに出てない子は言ってねー」


 合体魔法かー。ロマンある響きだ。どんな感じか今度検証しよう。


「前田さんありがとう!」

「俺達諦めちゃったけど、前田さんは諦めてなかったんだな!」

「流石リーダー頼りになる!」


 とみんなが口々に言っていた。


「私よりもお礼は高代くんに言って。作戦を立ててくれたのは高代くんだから」


 前田さんはそう言いながらも嬉しそうだった。

 うんよかったな。面倒見てもらった恩は返せたか。


「それからこれはボス撃破した四人だけになっちゃうけど、次のクラス対抗イベントまで優勝フラッグがキャラアイコンに付くようになりまーす」


 おお、ほんとだ。いつの間にか隣の席のあきらの簡易ステータスに旗のアイコンが。


「これついてると店での買い物がちょっと安くなったり、MEP(メリットポイント)の交換レートが安くなったり、タダで飛空艇とか騎竜に乗れたり、モンスターからのドロップ率が上がったり、システム的に色々メリットありまーす」


 ふむふむなるほど。でも俺達MEP(メリットポイント)すっからかんだけどな。ちょっと惜しい。

 でもドロップ率アップとかは嬉しい。

 常に『仕込杖』の素材集めは必要だからなー。

 準備の手間が楽になるかな?


「最後に今回のイベントのMVP発表でーす。はい高代くん前に! みんな拍手!」


 おお? MVPとかもあるのか、しかも俺だし!

 ぱちぱちぱちっ!

 とみんなの拍手の中、少し恥ずかしい気もしつつ俺は教壇のところに。

 先生が小声で耳打ちしてくる。


「いやー助かったわ、ありがとうね。あのままだとクラスの雰囲気最悪なままバラバラになっちゃったかもしれないし。あんな理不尽なアクシデントじゃあね」

「誰がやったか分からないんですか?」

「分かんないのよそれが。強いて言えば、だれもやってないのが分かったって感じ? サーバーのログを追ってもね、突然降って沸いた感じにしか見えないの。原因不明なのよねえ。何かのバグかも知れないわ、継続調査させてね」

「あ、はい」


 結局衰弱ボムの出どころは分からずじまいか。勝ったし別にいいか。

 確かにあのままの空気だと、後に尾を引きそうだったしな。


「はい! それではMVPのご褒美でーす!」


 先生がぱん! と手を打つと、空中に小さな影が現れた。

 きゅーきゅーきゅー!

 と、何か可愛い鳴き声を上げてる。

 子犬くらいのサイズの、子供のドラゴンだった。

 顔つきもなんかマスコットみたいに可愛いぞ。

 小さい翼をパタパタさせて、俺の頭の上をくるくる飛んでいる。


「君専用の守護竜よ。今は子供だけど、段々成長していくわ。成長すればバトルの助けにもなってくれるし、大事に育ててあげて。餌あげたりもできるから」

「きゅーきゅー!」


 嬉しそうに俺の肩の上に着地してくる。

 か、可愛い……これは嬉しいなー! こういう育成要素好きだぞ俺は!

 バトルにも役立つって事だから、育てがいもありそうだ。


「名前とか好きに付けていいからね。君の育て方次第でこの子の性格も変わってくるようになってるわ」

「はい! ありがとうございます」


 うーん。どんな風に育つか楽しみだ。


「はいそれじゃあ朝のホームルーム終わりまーす! みんな授業頑張ってねー」


 先生が教室を出ていき、俺が席に戻ると、あきらが子ドラゴンを見て喜んでいた。


「うわー可愛いー! ねえねえ蓮くんこの子なんて名前にするの?」

「ん? んーそうだな。成長すれば、バトルも助けてくれるんだよな。つまり俺にとっての助っ人……助っ人――?」

「駄目だからね。プロ野球の助っ人外国人の名前とか駄目だからね」


 冷たい目で見られた。バレてた!


「んーならどうするかねー」

「やっぱりそのつもりだったんだ……」

「何かいい名前あるか?」

「あ、わたしが考えていいの? じゃあやっぱり強くなって貰いたいし、強そうな名前がいいと思うな。ハルックとかゾーとかエルヴァリンとか!」

「いやそれ俺と大差ねえし」


 元々この子、別のノーマルのネトゲじゃガチムチ獣人キャラ愛好家だからな。

 期待した俺が悪かったか。


「ダメよ。こんなに可愛いんだから、可愛い名前を付けてあげないと」

「おお、前田さん」

「ねえ高代くん、この子抱いてみてもいい?」

「ん? いいぜ。どうぞ」

「ありがとう。ねえこっちにおいでおいで」


 前田さんが手招きすると、子ドラゴンは素直に応じて大人しく抱っこされた。


「きゅきゅきゅー!」


 あ、何か喜んでるっぽいな。女の子好きか、お前。オスなのかな。

 でも何かそれ以上に前田さんも喜んでるっぽかった。


「あああああ! か、可愛い……! いいなあいいなあ――私も欲しかった欲しかった欲しかった……」


 物凄い恨めしそうに見られた。

 結構クールなのかと思ってたけど、可愛いものには弱いみたいだなー。

 なんかこう、熱というか圧というか、結構感じるぞ。


「あ、ああ――こういうの好きなのか?」

「ええ。家でペットとかは飼ってくれないから、昔から憧れで……」

「あれだったら、先生に前田さんに譲れないか頼んでみるか? 何か前田さんが一番こいつを愛してくれそうな気がしなくもないというか……」

「それは良くないわ。高代くんがMVPなのは私も納得してるし、この子は高代くんの子であるべきよ。ただ何だか一目惚れしちゃって……守護竜って他の入手方法もあるのかしら――」

「どうだろ。MEP(メリットポイント)の引き換えリストにもなかったよなー」

「ガイドブックにも載ってないよねえ、すっごいレアなのかなあ」


 あきらがガイドブックをパラパラめくりながら言う。


「先生に聞いてみればよかったね」

「あ、そうね。あとで聞いてみようかしら」

「何かのクエ報酬とか、レアモンスターのドロップだったりするのかねー。入手法が分かったら取るの手伝うから、一緒に行こうぜ?」

「ありがとう! 約束ね、高代くんが来てくれるなら心強いわ!」


 ペット絡みだといつもより表情が柔らかくなるな、前田さんは。

 純粋に喜んでいる笑顔が何か可愛かった。


「ところで前田さん的には、こいつの名前何がいいと思う?」

「そうね……ミカンちゃん、メロンちゃん、イチゴちゃん――とかはどうかしら? 可愛いと思うんだけど」

「なるほど……ファンシーですなあ」


 うーんでも弱そうなんだが。

 将来ごっついドラゴンになったらミカンちゃんもどうかと……俺は心の中で却下する。


「ほれほれほれ」

「きゅきゅっー!」


 矢野さんもこっちに来て、前田さんが抱いている子ドラゴンを突っついてた。


「矢野さんは何かいい名前思いつかねえ?」

「んー? 竜なんだしリューとかリュリュとか適当でいいんじゃない?」

「優奈、そのまんまね……」

「それでいいですし。分かりやすいじゃん」

「おお。リューがいいかも! そのまんまだけど、シンプルイズベストっていうしな」

「お? やたー採用されたし」

「じゃあ今日からお前はリューな! よろしくな、リュー!」

「きゅっー!」


 何か頷いてるっぽいぞ。気に入ってくれたか?

 強いドラゴンに育ててやるからよろしくな! リュー!

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