第２４８話　攻略動画

　というわけで翌日――俺達の水上コテージ。

「うおおおおぉぉぉ――！　急げ急げ急げ急げ――！」

　俺は必死に夏休みの宿題と格闘していた！

　まさかこの先の『アーズワース海底遺跡群』攻略に『夏休みの宿題を終えて提出している事』がクリア条件として必要だとは！

　これは完全に想定外、やられたと言わざるを得ない。

　大体夏休みってのはガッツリゲームするためにあるもので、宿題なんてやってる場合じゃねーんだよ！

　宿題など、始業式から各教科の夏休み明け一発目の授業までの１、２日のタイムラグの間に無理やり仕上げるものであって、むしろ始業式の日がスタートだ。

　授業の時間割を見つつ、提出が早いものから優先度を決めて、どうしてもダメな場合は何を落とすかを計画的に判断するタクティカルな儀式だろう。

　この夏休み真っ最中にやる事じゃねえ！

　――というゲーマーの生態を理解した上であの条件をぶち込んで来たんだな。

　夏休み中のイベントっていつもこうなのか？

　いやだけど、三年生の雪乃先輩とほむら先輩もトラップに引っかかってたっぽいしな。

「はぁ～疲れましたし。どうにもやる気が起きませんし～」

　矢野さんが欠伸をしながらコロンとソファーに転がった。

「おいそこっ！　ぼーっとしない！　急ぐ！　集中する！」

　ビシッと指摘する俺だが、矢野さんの反応はイマイチである。

「んな事言ったって、大声でわめきながら宿題してる奴がいると集中できませんし～」

「むっ……ああ溢れ出る俺の気合が声として出てたんだな――」

「うっさいから集中できませんし！」

「ほう――つまり静かになったらやるわけだな！　なら黙るから頑張ってくれ！」

「え～……」

「優奈のお尻を叩く前に、高代君――」

　と、前田さんが俺に言う。

　前田さんだけは宿題をキッチリ終わらせており、水上コテージで勉強合宿な俺達の監督役である。

「うん？」

「ここ、間違っているわ。ここと、ここと、ここも――」

「あれ……？」

「急ぎ過ぎね。早くしたいのは分かるけど、ちゃんと考えないと」

「ぐぬぬぬぬ……！」

「こーいうのは急ぎ過ぎてもそうなるですし。マイペースが一番ですし」

「優奈はもう少し手を動かしましょうね」

「うっ……でもほら、あっきーも手ぇ止まってるし！　ぼーっとしてますし！」

「え？　わたし？　あ、そ、そうだね～」

「おいおいあきらもかよ。急がねーと先越されちまうんだぞ」

「ああうん。でも、お爺ちゃんに見られたのに許してくれたでしょ？　だから、別に今のままでも大丈夫かも――とかね？　何か安心して、ちょっと気が抜けちゃったかなぁ。わたしが家の事怖がり過ぎだったんだね～」

「まぁ、子供の楽しみを無理やり奪うのは親の所業じゃないですし。それが普通ですし」

「そうね。あきらはいつも明るくて、楽しそうだもの。それを無理やりというのは、なかなかできないわよ」

「うんうん。びっくりしたけど、結果的にはお爺ちゃんにここでのわたしを見て貰えてよかったのかな」

「だがしかし！　攻略レースを放棄していい事にはならーん！　せっかくなら勝とうぜ！　俺も黙るからみんな集中！」

「うん、そうだね蓮くん！　よしやろう！」

「ふぇ～い」

　カリカリカリカリカリ――暫く宿題をこなす俺達の筆音だけが響いていたが――

「あ……!?　これは――！」

　ゲーム内ノートＰＣこと『ディールの魔卓』を覗いていた前田さんが、声を上げた。

「ん？」

「ことみー。どうしましたし？」

「琴美ちゃん？」

「みんなこれを見て――！」

　と、画面を俺達の方に向ける。

　画面に映されているのは、動画だった。

　それも見慣れた背景――『アーズワース海底遺跡群』のものだ。

　つまりこれはゲームのプレイ動画って事だな。

「皆さんこんにちは～♪」

　女の子の明るい声と共に、デンと画面にアップで映ったのは――デスチャリオット先生の姿だった。

　それがひらひらと手を振っているのだ。

　本家のデスチャリオット先生は、こんな動きはしないだろう。

　つまりこれは――

「デスチャリオット装備!?　しかもこの声、エミリーか!?」

　デスチャリオット装備の人影が、かぱっと頭を脱ぐ。

　すると声から予想通りのエミリーの顔が！

　エミリーは爽やかな笑顔を浮かべて、こう言うのだ。

「これから『アーズワース海底遺跡群』の攻略で皆の問題になっている、『ハーデスローズ』を倒しに行きたいと思いますっ♪」

「おお……エミリー達も攻略成功したのか――！」

「絶対そうですし！　じゃないと動画なんて上がりませんし！」

「だけどなんでこの装備なのかしら――？　他に同じ見た目のものはないわよね？」

「知らないなぁ。やっぱりデスチャリオットの装備だと思うよ？」

　って事は、エミリー達もあの装備集めたのか!?

　まあはじめにお兄様が装備を貰った時にエミリーもいたからな。

　俺と同じ推測くらい、エミリーならするだろう。さすがである。

「今回の攻略はこの装備と――コレがキーになりまーす。はい『エレメンタルサークル』！」

　と、再びフルデスチャリオット装備に戻ったエミリーが『エレメンタルサークル』を放つ。

　当然装備の隠し効果により、闇サークル確率１００％だ。

　黒紫っぽい色をしたサークルが展開される。

　おぉ……って事は紋章術師かこれ！