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第247話 夏休みの宿題

「そ、そういえばわたし……シズクさんって何だか懐かしいって言うか、どこかで会ったような気がしてたの――! 今分かった! 若い頃のおばあちゃんにそっくりなんだ!」

「む……! まあな、仮にも一国の大臣がそのままの姿でこちらにログインするのも……という事でな。好きな人間の見た目を再現できるというから、こうさせて貰ったのだ」

「骨折して動けなくなって暇だったから?」

「ま、いい機会だと思ってな。それに、大臣としての視察も兼ねている。ここは最先端の技術を取り入れた教育現場でもあるからな」


 なるほどなあ、確かに仲田先生もシズクさんにヘーコラしてたし、偉い人なんだろうなあとは思っていた。

 お兄様や赤羽さんに、家の人が泣くとダメ出しもしていたし、リアルに知り合いなんだろうな、とも――

 んで、思えば初めからシズクさんは特にあきらに好意的だった。

 貴重な『超級転移石』をポンとくれたりもしたしな。価値が分かってなかったというのもあるだろうが――


「だ、だったら先に言ってよお! そしたらわたし――!」

「言えばお前は尻尾を見せんだろう。そのくらいの取り繕いはして見せる子だ」

「ううううぅぅぅ……」


 何だか怯えている様子のあきらである。

 これ本気で辞めさせられるとかそういう流れになるのか?

 だとしたら、いかーん!


「すいませんでしたあああぁぁぁぁっ!」


 俺はシズクさんことあきらのお爺ちゃんの前に立ち、体を直角に折り曲げるくらいに頭を下げる。


「別にあきらの趣味ってわけじゃなくて、俺がやってくれって頼んだからなんです! ソードダンサーってああいう装備しかないのは分かってて、でも性能的な意味でどうしてもって……! ごめんなさい!」

「ほう――? 見た目には何の感慨も沸かないか? うちの孫娘はそんなに魅力が無いだろうか……?」

「いやそれはそっちの意味でもバッチリでしたけど!」

「では性能的な意味だけとは言い難いな?」

「え、えーと……はっはっはっは!」

「ちょっと蓮くん……! そこは否定しとかないと――!」

「ま、別に構わん。君がどう思っていようと、結局受ける受けないはこの子の判断だ。自覚があるかないかの問題だ」


 ちらり、とシズクさんがあきらを見る。


「うう……ごめんなさい――」


 そのあきらとシズクさんの間に、すっと赤羽さんが割って入る。


「自覚がどうのはお家の問題でしょうが、やり口は気に入りませんわね。正体を伏せて近づいて、粗を探そうというんですもの。デリカシーがございませんわよ」

「黙っていてもらおう、君には関係のない話だ」


 と、シズクさんが赤羽さんをあしらおうとするが、赤羽さんの横から変な格好をした奴が顔を出した。


「だが待って欲しい! 青柳巌氏よ!」

「人の本名を大声で呼ぶな! しかもその見た目でな!」

「フッ――どうしても一言、尋ねておかねばならぬ事があってな……!」

「何だ? 知り合いだと思われたくないので、早く済ませろ」

「ではゆっくりと話すために、こうさせてもらおうか!」


 お兄様が『バニッシュフリップ』で姿を隠した。

 ……いやー。姿を見せずに話しかけて『無礼者、姿を見せろ!』って怒られるパターンはいくらでも見るけど、姿見せて話しかけてるのに『無礼者、姿を見せるな!』のパターンは人生で初めて見たなあ。今後もこんな事ないだろうな。

 いやまあ、俺も消えててくれる方が話聞きやすいからいいけどさ。

 姿を見せられるとどうしても、絡んではいけないという本能が働いて逃げたくなる。

 まともに話すって感じにならないのだ。


「……で?」

「あなたは確かにあきら嬢の許し難い所を見てしまったのかも知れないが――だが、見たものはそれだけだろうか? もっと他のものも見られたのではないのだろうか?」

「む……?」

「そう、これはこの学園であきら嬢を見て私も思った事――この世界での彼女はとても楽しそうで、伸び伸びとしておられる。笑顔が輝いている。世間体や社交辞令など抜きに、心の底から笑っているのがよく分かるのですよ。あなたは、このようなあきら嬢の姿を見たことがおありか?」

「……」

「私は無いな。幼き頃より時々顔を合わせてはいたが、いつも何かを抑えつけたような、籠の中の鳥のようだった……! それがどうだ、この世界での彼女はとても自由で楽しそうだ。まるで別人。明るく、朗らかに、その姿は人間的な魅力に溢れている! あなたはそれにお気づきにならなかったか……!?」

「……これでも家族だぞ。気づかないはずがないだろう」

「ならば――! 小さな拘るのは止めて、もっと大きなものを見るべきだ! 彼女が彼女らしくあるために、過激な衣装が必要ならば――思う存分脱げばよい! そして輝けばよい! 大丈夫、最終的にはこれはゲームなのだから問題ない!」


 と、ジャストタイミングでポーズを決めながら現れるな!

 いい事言ってたような気がするのに台無しだろ!


「おじいちゃん! わたしね! この学校すごく楽しいから、だから辞めたくない! お願い――!」


 あきらが懇願すると、シズクさんはふうとため息をつく。


「何を勘違いしているのか知らんが――別にそんな事を言うつもりはない。ただ少し小言を言いたくなっただけだ。確かにそこの変質者の言う通り、傍から見ていて余りにもお前が楽しそうだからな……それもそこの高代君のおかげだろう? 感謝をしないとな。あきらがいつも世話になっている」


 と、シズクさんが俺に頭を下げる。


「ああいえ、こちらこそおかげで楽しくやらせて貰ってます――」

「まあ、あの格好は見咎めたが、この子の父親程私の頭は固くないつもりだよ。これからそれが必要無くなるようなものを、あきらのために用意してくれるんだろう? で、あれば今回は目を瞑ろう」

「お、おじいちゃん……! ありがとうーーーーっ!」

「はっははは! お前に抱き着かれるのも何年ぶりかな?」


 それを見て、お兄様がフッとニヒルに笑っていた。


「どうやら杞憂だったようだな――」

「いいえお兄様、お兄様のお言葉でお気持ちが変わられたのかも知れませんし――どうもありがとうございました」

「なぁに。仲良き事は美しきかな! だ、私も彼等を見ているのは好きなのでな――ではこれにて失礼しよう」


 と、また姿を隠してどこかに消えて行った!

 ……まあいいか、ほっとこう!


「ねえねえお爺ちゃん! せっかくクリアできたし、続きも見に行ってみようよ! 少しでも先に進めたいし!」

「ああ構わんぞ。こちらも隠し事がなくなってすっきりしたのでな、楽しませて貰おう」

「おっ! そうだなぁ! 行くか!」


 いろいろ問題も解決したっぽいし、気持ちよく攻略できますな!


「さんせー! 行くですし!」

「そうね、行きましょう!」

「ですわね――!」


 というわけで、もう一回だ!

 『上級転移石』ももうないが、先の様子見とあわよくば『上級転移石』自体をゲットしたいねという事で!」


 んで、俺達はB81Fにワープした!


「よっしゃ、行くぜ!」


 セーブポイントに転送され、『アーズワース海底遺跡群』の石壁に覆われた風景に。

 広場のような場所に、奥に通路が続いている。


「ふむ……って言うか、ピンポーンが来ねえな」


 いつもピンポーンからのクリア目標発表があるはずなのに?


「まあ道はあるし、先行ってみよ!」


 俺達は通路を奥に進む。

 やがて、入口にあったライオンヘッドのデカい版のようなものが埋め込まれた壁に行き当った。

 行き止まりか――? 分かれ道なかったよな?


「ここまでよく来たね――選ばれし勇者よ……!」


 お? 入口と同じアニメ声がライオンヘッドから聞こえる。


「この扉は文武両道を極めし者のみが通れる試練の扉――だけどここまで来た君達の武力を疑う余地はないよね?」


 ほう、分かってるな!


「だったら次は文だ! 君たちの夏休みの宿題を終えたあかしを持ってきておくれ!」

「「「「えええええぇぇぇぇぇっ!?」」」」


 前田さんとシズクさん以外が悲鳴を上げる。


「宿題を学校に提出して支給されるQRコードをここに翳してね♪ そうすれば先に進めるよ」


 宿題だと!? そんなもんやってるわけねー!

 終盤に一気に片付けるでしょう、普通!


「……君達は持ってないみたいだね。じゃあ強制送還! バハハ~イ♪」


 んで強制排出されて俺達は――


「「「「ち……ちくしょ~~~~!」」」」


 そう声を上げる! あまりにも卑怯でしょう!?

 ガチンコの攻略レースに宿題を持ち込むなんてさ!


「……やれやれ、あきらもやっていないとはな――」

「みんな宿題は早くしておかないと……」

「くっそーくっそーくっそー!」

「と、とにかく急がないとだね!」

「うえええぇぇぇぇぇ~~~何てこったですし! クソゲーですし!」

「してやられましたわね……!」

「ええいこうしてはいられん! 速攻でかえって宿題を片づけるしかねえ!」

「だね――!」


 と、あきらと頷き合って、俺達ははっと気が付いた!


「ああああああ! 俺達と似たような事言ってる人がさっきいた!」


 ちくしょーとか、こうしてはいられん帰るぞとか!


「雪乃さんとほむらさんだ――!」


 そう、タッチの差で先にハーデスローズが倒されたのか!?

 流石先輩達だな! レベル帯が違うから難易度は何ともだが、こっちがまごついてる間に先行かれた!


「うおおおおおお! 急げえぇぇぇぇぇ!」


 俺達は急いで水上コテージに帰ったのだった!

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