第236話 約束
さて、俺達が向かったのは浮遊都市ティルーナの王宮エリアである。
普段は厳重に警備されていて、何かイベント事が無いと入れないのだが、俺達はギルド対抗ミッションで優勝した時に得た『好きなアイテム三つ貰える権』が残っているので、それを貰いに行くために入れて貰えた。
んで、三つ貰える権のうち一つは同盟を組んだほむら先輩に譲り渡し、もう一つはココールが俺達の所に遊びに来るための移動用アイテムになった。
なので残るは一つ――
で、それを『ハヤブサの極光石』に交換しました!
ほむら先輩から貰った分は、不幸なボタンのかけ違いにより無駄撃ちする羽目になったからな!
次をどうにかして手に入れなきゃってトコにまだもう一個貰える権が残ってたのは幸いだった。
本来もっと使い道はあるんだろうが、可能な限り迅速に『ハーデスローズ』を攻略するとなると話は別である。
買い直す金も無けりゃ、それを稼いでいる時間も無いのだ!
いや、金が無いのは俺のせいだが……ギルドショップの方をもっとテコ入れして、莫大な金を稼げるようにしないとダメだな。
雪達磨式に増えて行くロマン砲のランニングコストに付いて行けなくなる。
これが終わったら考えねーとな。
……というわけで、『ハヤブサの極光石』をゲットした俺達は、王宮の外に出て来た。
「あざっした! 失礼しまーす」
上機嫌で門番さんNPCに挨拶する俺を横に、あきらはちょっとため息をついていた。
「良かったのかなあ……なんかもっと使い道があったような気が――」
「いいんだよ! 前田さんも矢野さんもいいって言ってたろ?」
一応前田さんと矢野さんには連絡してちゃんと話はしてある。
ま、まあ別にいいんじゃない的な反応だったが。つまりまあ、あきらと同じような反応って事だ。
「これさえあれば――『ハーデスローズ』も倒せる!」
「ホントかなあ……? また無駄になったりしない?」
「あれ? 何か心配事でも?」
「っていうか、さっき『超級転移石』使って失敗してるしね……また失敗したら流石にみんな辛いんじゃないかなぁとか。わたしは慣れっこだから別にいいけど」
と、言いながらジト目なのはなぜだろう。
「えーと? なら何故そんな顔を?」
「いや、別にいいけどEFとかで、散々検証に付き合った挙句無駄でしたのパターンが続きまくった時の事とか思い出してたかなぁ?」
「ああ、なるほど。そういう時、画面の前でそういう顔してたんだな……」
「そうだね~。ゲーム内では地団駄踏むモーションとか、目をビカビカ光らせるモーションとか、オーガの仮面の装備被ったりして表現してたね」
「あーそうだったなあ。ガチムチ獣人だから怖かった怖かった」
「……という割には、何ら遠慮してなかったような気もするけどね――それは今でも一緒かぁ」
「――まあな。一つの成功の裏には、十の失敗が隠れてるってもんだぜ! 悔やんではいけません!」
「いやそれ巻き込んだ人の言う台詞!? まぁいいけど、すっかり普段の蓮くんだね~。さっき死にそうな顔してわたし達だけで攻略行って来いって言ってたのに」
「ふっ……色々ありましたが俺は元気です!」
「はいはい――ホント急に元気だからテンションに付いて行くのが大変だけど……でも、次で決めてね? あんまりピリピリし続けるのも、ちょっと嫌だし――」
「ピリピリしてたのか?」
「ん~ほら、さっき蓮くんらしからぬ感じで送り出されたから、みんな絶対クリアしないとって意気込んで逆に緊張してたと言うか――」
「あ~なるほど……」
「でもそれって、そもそもわたしのために『レインボーガード』取ろうとしてくれてるからなんだよね? なんか申し訳ないなぁって――ごめんね、皆が純粋に楽しめないよね」
「いやいやそこはあれだ、あきらが退学とかになったらもっと嫌だからさ。俺だけじゃなくてみんなそうだぜ? だから真剣になるんだよ。家の事情なんて子供には選べねぇんだから、あきらが悪い事なんて何もないと思うぞ」
「ふふふっ。そう言ってくれると嬉しいな。これ終わったら、みんなに何かお礼しないとだね」
「おーじゃあみんなを家にでも呼んでくれよ、きっと食ったことないような美味い飯が出てくるんだろ? 最近夏休みだからかカレーか素麺が多くてさ――たまには何か美味いもん食いたいなと!」
「えええぇぇっ!? リアルのわたしの家に興味あるの!? 来てくれるの!?」
「ま、まあ――迷惑だとは思うけどさ」
「う、ううん! いいよ! そんなのむしろわたしへのご褒美……あ、いや――とにかくじゃあ今回のこれが終わったら、お礼にみんなをうちに招待するね。美味しいものいっぱい用意しておくから!」
「おお! でも大丈夫なのか?」
「いいよいいよ、全然いい! 絶対ダメとは言わせないから! じゃあ約束だよ?」
「ああ。楽しみにしてるぜ」
「うん、こちらこそ! じゃあそうと決まったら早速『ハーデスローズ』狩りだね! 早く行こ! 早く早く!」
あきらはにこにこ笑顔で、俺の手をぐいぐいと引っ張ってくる。
いつの間にか、俺よりあきらの方がやる気に満ち溢れていたりするのだった。




