第235話 無限湧き
「ふう……いい検証だったぜ――」
ココールの母ちゃんことマミールさん、いやマミール師匠から教えて貰った鉄山靠(仮)の検証を終えた俺は、すっかり満足して異世界サーマルの水上コテージに帰った。
さっき一人で水上コテージを出た時のしょんぼり感などすっかり忘れ去り、気分爽快である。
俺はパワーアップして帰って来たぞ!
ちなみに検証に時間はそんなにかからなかった。と言うよりかけられなかった。
あまり使うと鉄山靠(仮)の間だけ付いている性能、使用後残りHP1が無くなってしまいかねないからだ。
使い込んで(仮)が取れたら使用後残りHP1が無くなって、むしろ弱体化するからな。
本当ならもっと時間をかけて隅から隅まで性能を検証したい所だが、撃つ回数は最低限に留めないといけない。
さて、あきら達はもう帰っているだろうか――?
「ただいまー」
とリビングに入って行くと、あきら達が既に帰っていて、何だか疲れた様子でぐったりしていた。
「あ、蓮く~ん……おかえりなさい」
「おぅ。みんなもお疲れさん! で、どうだった? 『ハーデスローズ』は倒せたか?」
俺達、いや『アーズワース海底遺跡群』を攻略しようとする全てのパーティに立ち塞がった壁である。
放っておいたらどんどん雑魚を呼び出し、攻撃を加えてもカウンターで雑魚を呼び出し、更に呼び出した雑魚の攻撃で与えたダメージで本体が回復するという凶悪ボスだ。
『アーズワース海底遺跡群』という時間制限制のダンジョン内では、その特性はよりクリアを困難にさせる。
総合して、このゲーム内で遭遇した敵の中で一番強いと言っていいだろう。
あきら達はシズクさんにもらった『超級転移石』を投入し、ダンジョンの滞在時間を二時間も確保して攻略に臨んでいた。
『ハーデスローズ』が呼び出す雑魚を枯れるまで狩ってみよう作戦である。
あれだけボコボコ生み出すのだから、トータルで出せる数には限界があるのではないかという推測に基づいた作戦だった。
「ごめ~ん……だめだったよ~」
あきらがしょんぼりとして、肩を落としている。
「おおぉぉっ!? マジで!?」
「マジだよぉ! わたし達一生懸命『ハーデスローズ』が呼んだ『ブラックローズ』を狩りまくったんだけどね――一全然止まらなかったの……」
「『ハーデスローズ』の所に行くまでは順調でしたわ、残り一時間四十五分残して到達できましたけれど――全く召喚が止む気配がありませんでした」
と、あきらに続いて赤羽さんもため息を吐いた。
「ごめんなさい高代くん。多分『ブラックローズ』を生み出す上限とかは無いんじゃないかしら」
「そうですし、絶対無限湧きですし、あれは!」
前田さんと矢野さんの言う通りかもな。
もしくは何か雑魚の出現を止める条件があるとか?
「もしくは、我々がもっと早く大量に敵を倒していれば、止まったのかも知れんが――これでも相当急いだ方だ。皆一生懸命やっていたよ」
「そうだぜ~……マジ疲れたわ。ノンストップでひたすら急いで狩り続けてたからさー……」
疲れを見せないシズクさんに、ヘロヘロの片岡。
シズクさんはタフなんだなー。皆疲れてそうなのに一人平気そうである、
ともあれ、単に雑魚を狩り続けただけでは、出現は止まらないという情報は得られた――と。
これはこれで一つの攻略情報だ。こういうのが積み重なって攻略法と言うものは確立されて行くわけで。
このみんなの努力を無駄に――今からしてやろう! 全く違う攻略法でなぁ!
「そうかそうか――やってくれるなぁ、あいつ!」
「蓮くん、何で嬉しそうなの……?」
あきらが不審そうな目で俺を見て来る。
「いや――こんな事もあろうかと、次の手を用意しておいたからな! そいつが日の目を見そうでちょっとテンションが上がっております!」
「ええっ!? 何かまだあったの!? わたし、『超級転移石』が奥の手だと思ってたんだけど――?」
「そうですわ。何だかとっても思いつめた顔をして、わたくし達を行かせたではありませんか?」
「それは何時間か前の俺だ! ゲームキャラなんだから数時間あれば成長するんだよ!」
主に限定クエストで得た報酬のアーツとか、そういうのでな!
あれは本当にいい限定クエストだったな――
「わたし達がいない間に、何かあったの?」
「ああ。ちょっと限定クエストが発生してココールの実家に行っててさ、それでパワーアップして来たぞ!」
「きゅ~! りゅー、ぱわーあっぷした~! おっきくなるぅ~!」
あ、こらこいつ――!
ココールには口止めしたが、リューが自ら言い出すとは。
「えっ!? リューくんおっきくなれるの? あああの、前に出てたグローアップってやつを覚えたのかな? ねえねえどんな感じなの? 見せて見せて!」
そんな事言ったらこうなるだろう! しかし見せんぞ、誤魔化す!
あれは女の子達に見せていいモノじゃないと判断しました。自主規制します!
「いやいやいや! 気のせい気のせい、イベントで一瞬そうなっただけなんだ。何も覚えてねえし!」
「ふぅ~ん? ほんと?」
「ああ、ほんとほんと!」
「じゃあ蓮くんが別の何かでパワーアップしたって事?」
「そうそう! マミール師匠のおかげで、俺の奥義も生まれ変わるんだぜ」
「マミール師匠って?」
「ココールの母ちゃん。めっちゃ強くてさ! いい技教えて貰ってな! これで俺も『ハーデスローズ』と戦える――って事で、もう一回『アーズワース海底遺跡群』行こうぜ! フフフフ……今度は絶対勝てるぞ! 覚醒した俺の本気を見せてやるぜ!」
「えっ!? 今からまた行くの!?」
「わたくし少々疲れてしまったのですが――」
「そうね、ちょっと休憩が欲しいかも……」
「高代と違ってあたしら、めっちゃ働いて来ましたし!」
「ああ分かってる。俺もまだちょっと準備がいるしな。ちょっと言って来るから、皆休憩しててくれ! んじゃ行ってくる!」
と、出て行こうとする俺をあきらが呼び止めた。
「あ、待って蓮くん、わたしも一緒に行くよ!」
「休んでなくていいのか?」
「んー。テンション上がって暴走しそうな蓮くんは、わたしがちゃんと見とかないとなあ――とかね?」
「大丈夫だと思うけど――まあ、なら行くか!」
という事で俺とあきらは水上コテージを出ることに。
出口の所で、あきらがにこにこと笑いかけて来る。
「いつも通りの蓮くんに戻ったね~。元気出て良かったね? ちょっと安心したよ」
何だか凄く嬉しそうな顔である。




