第234話 (仮)にはロマンが詰まっている
オォォォォ――……!
俺の渾身の『デッドエンドV』(無駄撃ち)を受けた黒水晶のネックレスは見事にコナゴナになった。
遠い断末魔のようなものを響かせつつ、黒っぽいキラキラが降り注ぎ、やがて消えていく。
「最後『ハヤブサの極光石』使う意味があったかは謎過ぎるが――まあこれで片付いたか?」
タイミングが悪過ぎたよなー。
『ハヤブサの極光石』を使えば一撃で片づけられそうな状況だと思ったのに、俺のAPスリップでリューのグローアップが解けるとは……!
まあ仕方ないのだが、あああああぁぁ勿体ない!
「ココールちゃん、蓮さん、もうこれで心配ないわコケ。助けてくれてありがとうコケ。あんなものに操られるとは――私とした事が、すっかり専業主婦に慣れ過ぎていたわコケね」
「元に戻ってよかったコケー! 蓮のおかげコケ! ありがとうコケ!」
「いやー……何と言うか、不完全燃焼感はあるけどな~。最後がグローアップの効果切れとかな……」
まあ魔人ヴェルドーが憑代を乗り換えたくなるような強いのを連れて来たのは、俺のファインプレイなのか?
確かに成長したリューは強かったよ。性格が直るまでもう使わんがな。
「蓮さんにはまたお世話になって……ココールちゃんを一人前にしてくれたお礼もまだ出来ていないのに。今度こそ何かお礼をしないといけないコケね」
「それはいいコケ!」
「いや俺は別に――と言うとでも思いましたか!? ありがたく頂きます! 出来るなら是非欲しいものがあって!」
そう、アレだよアレだ! それ以外ならいや俺は別に――って奥ゆかしい所をアピールするのが人の道ってもんだが、欲し過ぎるモノがあるので食いつかざるを得ない。
「あら? だったら何でもおっしゃってくださいなコケ」
「きっと金だコケな! 蓮は常に金を放出しながら戦ってるコケ! 貰えるものは貰った方がいいコケ!」
「いや、銭投げして戦ってるのは事実だが今回は違うぞ! マミールさん! さっき使ってた『鉄山靠』って俺も使えるようになりませんか!? 奥義書とか極意書とかないっすかね!?」
アレは強力だったからな!
単にマミールさんのステータスが高いってのもあるだろうが、それでも俺が持ってる格闘・当て身のアーツとは一線を隔する強さだろう。
そしてそれを俺の奥義に組み込めば――また一つロマン砲の火力が増すぞ!
もう別戦略であきら達が片付けているかも知れないが、ハーデスローズを攻略するのに足りなかった火力水準まで届くかもしれない!
それを見せられたら、喰いつかざるを得ないのだ。欲しい欲しいマジ欲しい。
「まあ、あれをコケね……」
「お願いしますお願いしますお願いします! この通り!」
俺はずさっ! と土下座を決めて見せる。
ロマン砲の火力向上の為なら、土下座でも何でもできるのである。
「そんな、やめて下さいコケ蓮さん。そうですねコケ――本来ならば門外不出のこの技ですけれどコケ……ココールちゃんには使いこなせないコケから、どうしようかと思っていたのコケ」
「まあ……オイラ敵に攻撃できないコケから――」
『ノミの心臓』持ちだからな。あらゆる行動で敵への攻撃がダメージを出せないという呪いのようなスキルである。
ただ、ココール本体が直接戦うのではなく、雇ったモンスターを使役する事で間接的に戦えるようにはなっているが。
「でしたら――私が出来なかった、ココールちゃんを一人前に育てるという事をして下さったあなたに託すのも一興コケね――」
「そうだコケな! 蓮ならきっと上手く使いこなしてくれるコケ!」
「おお……! マジっすか、ありがとうございます!」
やっぱあるんだな! 奥義書とか極意書! 食いついてみて良かった!
ナイスな限定クエストだったなぁ! 思えばギルド対抗ミッションでココールを指名してよかったぜ!
「さぁ蓮さん。これが『鉄山靠』の極意書ですコケ。お持ちになってコケ」
マミールさんが、俺に何やら動きの図解のようなものが記載された巻物をくれた。
蓮は鉄山靠の極意書を手に入れた!
格闘・当て身アーツ鉄山靠(仮)が使用可能になった!
キター! 覚えた覚えたよ! これで俺の時代が来る……!
ってでもこの(仮)は何だろうな?
「だけど気を付けてコケ。慣れないうちは、あなたの身体へのダメージも大きいコケ。何度も使って慣れていくしかないコケ」
「なるほど……」
つまり、まだ本来の性能ではなく仮免扱いだから(仮)表記なわけか?
使ってるうちに(仮)が取れて本来の性能で使えるようになる――と。
どれどれ、今はどんなだ?
鉄山靠(仮)(消費AP 200 使用後残りHP1)
<効果> 格闘・当て身 背部を使った体当たり。威力極大 1回攻撃
まだ技を完全に己の物に出来ていないため、身体への負担が大きい。
「使用後残りHP1!? なるほどこれが仮免効果……」
「うわぁ……使ったら殆ど戦闘不能だコケな」
「ええ。慣れないうちはねコケ。扱い辛いでしょうが修練を重ねて、自分のものにしてくださいコケ」
と、ココールとマミールさんは激励モードなのだが、とんでもない!
「なんて素晴らしい効果なんだ……! これすげぇ! すげえぞ!」
「コケ? どうしたコケ蓮」
「だってさ、今まで大範囲サークルでMP捨ててターンオーバーしてHP調整してたのがいらなくなるんだぞ! 奥義にターンオーバーを入れなくても、鉄山靠(仮)を入れてしまえばHP調整が出来るって事だ! スキルチェーンの三種類に全部ダメージ系のアーツを盛れるわけだ! 絶対かつてない威力の奥義になるぜ! フフフフフ――クククク!」
「蓮さんにとっては、デメリットもメリットになるという事ねコケ?」
マイナスとマイナスを掛け合わせてプラスにするのが魔改造の醍醐味ともいえる!
これはなかなかその本来の魅力を体現できているのではないでしょうか!
(仮)が取れたら使用後残りHP1が無くなってしまいそうなのが惜し過ぎるが――
その限られた(仮)期間を有効活用させて貰おう!
「はいそうですね! じゃあ俺早速試して来るんでこれで! ありがとうございました!」
(仮)が消えないように、撃つのは最低限の回数に留めつつ検証だ!
俺はダッシュでココールの実家の屋敷を後にしたのだった!




