第233話 無駄奥義
『朱雀一閃』は『ターンオーバー』『爆炎タックル』『抜刀術』で構成する奥義だ。
この三つのうち『ターンオーバー』は単なるHPとMPを入れ替えるためのスキルで、APは必要ない。
『抜刀術』はAPの消費が0のアーツだ。
『爆炎タックル』は格闘・当て身のアーツで、消費APは75。
つまり『朱雀一閃』としてはAPが75必要なはずで、俺は前哨戦でAPはかなり溜まっていたはずなんだが――?
よく見ると今、|APは20になっていた。
あれ――そんなに少なくないだろうに。
あ、また減った! 今度は10になってる!
「ど、どういう事だ――!?」
いやしかし、今はそれよりも魔人ヴェルドーを仕留めないと!
何だか分からないがAP不足で『朱雀双刃閃』が撃てないと言うなら、『デッドエンドV』がある!
あれならAP消費は0だ!
俺は走ってヴェルドーとの間合いを詰める。
『朱雀双刃閃』の方はかなり前方に移動して斬り込む奥義なので、遠目で撃とうとしていたのだ。
しかしの間に、向こうもただ黙ってやられるのを待っているわけではない。
「うがああああっ! おのれ――! こんな丸いトリ肉にあんな力が……!」
壁を壊しながら起き上がり、血走った目でマミールさんを睨み付ける。
「強さを推し量るのも強さのうち――あなたもまだまだ未熟という事よコケ」
……俺もです、サーセン!
それはさておき、とどめは俺が!
下手にHP回復とかされないうちに決着をつけるぞ!
「お前の相手は俺だ! その体はうちの子のもんだからな! 返してもらうぞ!」
「ふん! フロイとして戦った時に、お前の手は分かっている! 奥義の届かない所に退避して、体力を回復させてもらおうか!」
言って翼をばさり、と広げる。あ、こいつ逃げる気か!
だとしたらまずいな――! 体力回復されたら、俺の奥義一撃で倒せなくなる。
あくまでもマミールさんが削った後の残りが、一撃で倒せそうなだけだからな。
成長したリューの巨体が、ふわりと宙に浮く。
APが足りないため、成長状態が維持できません。
グローアップは解除されます。
「んぉ!?」
いきなり流れたシステムメッセージ。
同時に魔人ヴェルドーに操られていたリューの体が光って、小さくなって行く。
首に巻き付いていた黒水晶のネックレスが外れてしまい、元の可愛いリューとネックレスとが、バラバラに床に転がった。
「も、戻った……!?」
それにあのメッセージ――という事は!
「そうか、操られてる間も俺がグローアップしてた扱いなんだな……!」
で、グローアップには発動時の消費APが200と、更に状態維持用のAPがいるわけだ。
『朱雀双刃閃』が撃てなかったのも、気づかない間にAPが減っていたせいだ!
グローアップの性能には消費APが200で効果時間が900秒と書いてあったが、発動後APのスリップも発生して、それが払えないとその時点でグローアップが切れる、と。
なるほどフルに維持しようと思えば、俺もAPを稼ぎ続けなきゃなわけだ。
確かに成長したリューはファッキン野郎だったが強かったもんな、そのくらいの制限はあって当然か。
それに、今スキル欄から確認したがグローアップの再使用時間は1時間っぽいな。
1時間のうちに15分だけ使えるボーナスタイム(APスリップ付き)って感じか。
確かに便利だが強すぎない感じに収まってるな。
――これなら封印してもそんなに惜しくない!
超性能過ぎたら、如何にファッキン野郎といえども頼りたくなるかもしれんからな!
ともあれ俺のAPが尽きてグローアップが解除され、体が縮んだせいで黒水晶のネックレスも外れてしまったと。
つまり――
「おいこれ奥義いらなくなっただろ!? せっかく『隼のダマスカスソード』を投入したのに!」
奥義撃たないと次の仕込杖が作れないんだが!?
でも雑魚に打つのも勿体ねえし、どうすんだよ!
「はははは。でも片付いたみたいで良かったコケよ~。リューも無事みたいだしなコケ」
「ああまぁそうだな」
「きゅ~?」
気が付いたらしいリューは元の可愛い守護竜さんに戻り、きょろきょろとしていた。
「リュー。こっちだこっち、おいでおいで~」
「きゅ~! れん~!」
「よーしよし、お前はこっちのほうがいいぜ俺は」
「そうだコケなー。あんなのになられるくらいなら、たまに頭に噛みつかれるくらいなら許してやるコケ~」
「ココール。でっかくなった時の事はあきら達には内緒だぞ。グローアップの事もな。無かったことにしよう。下手に言えば見せろって言われるし、見せたら俺の人格まで疑われるからな」
「オッケーだコケ。確かにアレは女の子たちはドン引きだコケ」
「ああ。分かってくれて助かる」
と、話し合う俺達にマミールさんが声をかけてくる。
「ココールちゃん、蓮さん。まだよコケ。あの黒水晶のネックレス、完全に破壊してしまいましょうコケ」
そう言って、床に転がるネックレスを指さす。
「そうっすね……じゃあ俺が! 華々しくいくぜ! 『デッドエンドV』!」
ズシャズシャアアアアアァァァ!
紫色の光に包まれた剣閃が、Vの字に奔る!
この野郎無駄に作らせやがって!
悲しみを込めた俺の二連撃は、黒水晶のネックレスを粉々に破壊したのだった!
メデタシメデタシ!




