第232話 母ちゃんの本気
しかし――!
「うふふふ。ココールちゃん、あまり大きな声を出すと、蓮さんが驚いてしまうわよ?」
炎の中からは、とても落ち着いたマダムボイスが返ってくる。
炎が消えた後――オーラに包まれたココールの母ちゃんが平然と立っていた。
「すげー! 母ちゃん無事だったコケ!」
「心頭を滅却すれば火もまた涼し、ね。こんなもの効かないわ」
「…………」
どういう理屈だ――!?
いやしかし、俺は先ほどまでの魔人ヴェルドーとのやり取りを思い出していた。
ココールの母ちゃんからリューに寄生先をスイッチした時、リューの方が操り易い的な事を言ってたような……? こっちの方が力が出せるって――
それって、ココールの母ちゃんが弱いと俺は解釈したが、別の捉え方も出来るかもしれない。
つまりココールの母ちゃんが強すぎて、こいつでは上手く操り切れないという事だ。
ココールの母ちゃんを操ってた時はコケコケ言ってたが、リューに移るとエセ外人口調じゃなくまともになったからな。
それはつまり、こいつの力が及んでいない部分があったというわけで。
なら――ここは任せていいのか!?
ココールの母ちゃんは、コケ族特有のトテトテ歩きでヴェルドーに近づく。
「き、貴様――! よくも――!」
「それはこちらの台詞よコケ。よくもやってくれたわねコケ。許しはしないコケ」
間近に接近すると、ココールの母ちゃんがすっと構えを取る。
コケ族の短いて手足だと構えてもちっとも決まらないのだが――
ホント全然強そうには見えないのに――なぜか異様な迫力がある。
「死ねええぇぇ!」
巨大な鋭い爪が振り下ろされる!
「そうはさせないコケ!」
バシィィィン!
「!? 受けたコケ!」
「すげえ――!」
魔人ヴェルドーは攻撃。マミールは攻撃をガードした!
おぉ完全にガードしてる!
って言うか名前マミールさんなんだな――!
だがそれだけではなく、ココールの母ちゃんは一撃を受けた後、それをぐいと横に押しやり、力をいなして向こうの体勢を崩した。
「ぬぅぅ――!」
「今ねコケ――!」
ギラァン! とマミールさんの瞳が輝く。
体が敵に密着するくらいに踏み込む。
で、肩だか背中だか分からない丸いところを、相手の脇腹に向けた。
そしてそのまま、すごい勢いで飛び跳ねる。
ズダアァンッ! と爆発するような音さえ残る。
弾丸のように飛び出したマミールさんの体当たりが、魔人ヴェルドーに突き刺さる。
そして、その巨体が「く」の字になりながら後方にぶっ飛んだ!
「ぐおおぉぉぉぉ~~!?」
ボゴオオォォン!
それは壁にぶつかって穴が開いた音である。
恐ろしい威力の体当たりが、デカくなった守護竜の体をぶっ飛ばした!
「おおおぉぉぉ~~!? 母ちゃん凄いコケー!」
「や、やっぱそうなのか――!」
マミールさんが強すぎて、ヴェルドーが操り切れてなかった説!
これが当たりだったのか……!?
マミールの鉄山靠が発動。魔人ヴェルドーに6888のダメージ!
なんだその威力は!? 銭も投げずに体当たり一発でそのダメージっすか!?
「うぐううぅぅぅ~~」
壁にめり込んで呻く魔人ヴェルドー。
大ダメージを貰って、すぐには動けないようだ。
今のあれに一時的に動きを止める効果でもあるのかな?
「結婚して家庭に入り、もう二度とこの拳は使うまいと思っていたけれどコケ――拳聖の血は争いを引き寄せるものなのねコケ……」
マミールさんは、何がかよく分からないが深いバックボーンがありそうな感じなことを呟いている。
まあそれはいいとして――つえええ~~!
鉄山靠ってアレだろ? 格ゲーとかですげー有名なアレだよな!?
このゲームにもあるんだな!
ってかアレだろ、コレ絶対アーツの系統としては格闘・当て身だよな!?
当て身アーツとか奥義として習得できねーのか!?
金ピカ最強アンデッドのデッドリーキングさんは赤き災厄の奥義書とか持ってるらしいし、マミールさんも鉄山靠の奥義書とか極意書とか持ってねーのかな!?
倒せばドロップするのか!? いやでも流石に倒すのはな――でも覚えてぇな!
この威力とロマン砲のコラボが見たいんですけど! 何とかなんねーのかな!?
「蓮さん。どうかしら? これで何か――?」
マミールさんが俺を振り返る。
「あ、ああ――ええと……!」
ヤツのHPバーに注目!
HPが4割くらい減っている感じだ。
これなら残りHPは推測するところ1万弱くらいか?
なら、『隼のダマスカスソード』を仕込んだ奥義で一撃必殺できる範囲か……!?
例の『ハーデスローズ』のようにボコボコ子分を産むわけではないので、大分こいつの方がやりやすいな!
「久しぶりに全力を出して、少し体が痛むわコケ。後はお願いしてもいいコケ?」
「分かりました――!」
なら行くぜ――!
俺はすかさず『隼のダマスカスソード』を合成して仕込杖を生成する。
「リューを返してもらうぞ! 元の可愛い姿でな!」
そして、奥義の『朱雀一閃』を発動させようと構える。
いや、二回攻撃の仕込杖を使うので、『デッドエンド』が『デッドエンドV』になったように『朱雀一閃』は『朱雀双刃閃』になるっぽいですが――!
さぁ見ろ! 過去最強の奥義を!
「喰らえ! 『朱雀双刃閃』!」
しかし――
APが足りないため、奥義を発動できなかった!
そんなメッセージが! えぇ!? どういう事だ!?




