第230話 リューの黒歴史
「クックク――中々素晴らしい憑代だ。先程までのこのトリ女よりも扱いやすく、それでいて強靭! このままこの国を席巻し、恐怖の魔竜と恐れられるのも悪くはない! 今の我ならばそれも容易いに違いない!」
乗っ取られたリューが、ギャオオオォォォン! と大きな咆哮をあげた。
「……ふっ――」
と俺は思わず笑ってしまう。
恐怖の魔竜とか言っているが、操られる前の方がある意味よっぽど恐怖だったからな!
リューのやつ、あきら達に見られたらやべえぇ奴になってしまったからな。
親としての俺の人格まで疑われる所だったからな。
今魔人ヴェルドーに操られたリューは普通の悪役ドラゴンっぽくなってくれたので、俺としてはやりやすいと言うか――
まぁ強そうは強そうだが、倒せばいいんだろ!?
あきら達にドン引きされるとか、白い目で見られるとか、そういう恐怖は考えなくて良くなったのだ。
ある意味やりやすい――!
これでリューを子竜の姿に戻った形で助け出し、その後はグローアップを封印するんだ!
さっきのあれは黒歴史! 見なかった! 俺は何も見なかった!
――という俺の内心が分かるはずも無く、向こうは侮られたと思ったようだ。
「何が可笑しい!?」
怒らせてしまったようだ。
太い尾がバシィィィン! と床を叩いて威嚇して来る。
「いや――今のお前の方が何かまともっぽいから、ある意味安心しただけだ」
「ははははは……わからんでもないコケなー。リューのやつ何か恐ろしい事になってたコケー。あの恐ろしさは、希美の兄ちゃんのアレと同じ種類の恐ろしさだコケー。あきら達が見たら絶対ドン引きだコケ」
「……そう、そしてそれを育てた俺の人格も疑われちまう――」
「だコケな~」
「リューを助けて子供に戻して、そしてもうグローアップは当面封印する。俺達は何も見なかった。いいなココール?」
「オーケーだコケ!」
頷き合う俺達。
リューを乗っ取った魔人ヴェルドーの方は、まだ怒りが収まらない様子だった。
「何をわけのわからぬことを! 我は気分を害したぞ……! この用済みのトリは捨ておこうかと思ったが気が変わった、こうしてくれる――!」
床に転がって気を失っているココールの母ちゃんを蹴り飛ばそうと、足を振りかぶる。
「母ちゃん! やらせんコケーッ!」
ココールが弾かれたように飛び出す。
そしてヤツが母ちゃんを蹴り飛ばす寸前に割り込み、身を盾にして自分が蹴られた!
「コケエェェェ~~!? ぐはああぁぁぁ~~!?」
ぶっ飛ばされて壁に猛スピードで激突!
一気にHPがギューンと減って、瀕死状態である。
一撃でやられなかっただけで良しとしよう――
しかしさすが、リューの身体を使っているだけあって、凄い攻撃力だ。
ちょっと見ただけだが、成長したリューは強かったからな。
俺から見たらそこそこ手応えがあるはずのモンスター達を、ゴミクズデースとか言いながらどつき倒していたわけで。
「ココール! よく頑張った、母ちゃんは無事だぞ!」
俺は無事だったココールの母ちゃんに駆け寄り、助け起こしながら言う。
一旦安全な部屋の隅にでも運んであげないと――
「れ、蓮! 母ちゃんを安全な所に運んでくれコケ~! それまでオイラがこいつを引き付けるコケー!」
「ああ分かった!」
俺の返事を聞くと、ココールは即座に次のモンスターを召還していた。
「クレリックバニー! 来てくれコケ~!」
召喚されたのは、アイランドバニーの色違い系のモンスターだ。
だがこいつは結構有能な奴で、名前の通り回復魔法が使える。
登場して早速使ってくれた回復魔法が、ココールのHPを回復させる。
「こいつに回復して貰いながら粘るコケ!」
ココールが考えているのは、自分が前に出てサンドバッグになりつつ、後ろから回復を貰って耐えるという事だ。
だがしかし――
「小賢しいっ!」
黒いオーラに覆われたリューが、大きな火球を吐き出した!
それが一直線に、クレリックバニーに飛んで行く。
ズゴボオォォォォッ!
着弾すると火柱が巻き上がり――クレリックバニーは跡形も無く消し飛ばされた!
「ぎゃー!? いきなりやられたコケ! そこを狙うとは酷いコケー!」
「フン――! 黙れ!」
……まあ今のはヘイト関係を考えれば当然か。
回復ヘイトでクレリックバニーがタゲを取ったって事だもんな。
魔竜はココールに近づくと身を捻り、猛烈な勢いの尾撃で弾き飛ばした。
「コケーーーー!?」
ココールが吹っ飛ばされて、俺達の前に転がされた。
HPもまた瀕死くらいまで減らされている。
「ココール! 大丈夫か!?」
「だ、大丈夫ではないコケな……い、今にも死にそうだコケー……!」
「よし俺が代わる! お前は下がってろよ。まだ回復は使えるか?」
「クレリックバニーはもういないコケ~! まずい事になったコケ……!」
「しゃあねーな……とにかく、一発ぶち込むしかないわな」
「奥義コケな? だけど倒せるコケか?」
「分からん――あいつのHPも想像つかねえからな。ある程度ダメージ与えて、バーがどのくらい減ったか観察しておおよそを推測するんだが、それも出来てねえ――」
となると、今出せる最大火力をぶち込むしかないわな。
それがあいつのHPを上回れば御の字って事で!
ほむら先輩からデスチャリオット装備の情報と引き換えに得た『ハヤブサの極光石』を使う時が来たな!
本当なら『ハーデスローズ』対策にブチ混むはずだったが、結局使わない方針になった。
それがここで生きるなら、躊躇わずに使うべし!




