第22話 ジョブチェンジ
全滅した俺達は、学園の教室に戻っていた。
「うーん。負けちゃったね」
と、残念そうにあきらが言う。
「そうね。でも半分くらいは削れたのかしら……凄いダメージだったわね」
「あの奥義のダメージ見たときは行けるかもって思ったけどぉ」
「申し訳ない! 真っ先に沈んじまった!」
俺はみんなに手を合わせてごめんなさいをした。
「仕方がないわ。あれだけターゲットが集中してしまったら。元々一回は様子見だったんだし……」
と、前田さんがフォローしてくれる。
「で、様子見した結果はどうかしら? 次は勝てそう?」
「そうだな……うーむ。今のままじゃ厳しいかもな」
「んだねえ。逆にダメージ稼ぎ過ぎてあたしが全然タゲ取れないし」
「また同じパターンでやられちゃいそうだよねえ」
矢野さんあきらと俺の感想に同意する。
突き抜けたダメージを叩き出すのは素晴らしいロマンだ。
しかし、盾役の許容量を越え過ぎるとこうなる。
前から感じていた懸念がモロに露呈した感じがする。
普通なら、盾役がタゲを維持できる範囲に攻撃を調節するのが良い攻撃役だ。
この場合は、自重せずヒャッホイし過ぎな俺が悪い。
ただ、この少人数縛りではそんな正攻法でやっていたらまず間違いなく勝てない。
こちらの回復リソースが先に尽きてジリ貧になるだけ。
やられるまえに速攻で『デッドエンド』四発ぶち込んで勝つ以外はない。
だけどダメージの稼ぎ過ぎで、四発撃つ前に俺がやられると。
さて困った――っていうのが現状だな。
俺達の意見に、前田さんはしゅんとしてしまう。
「そう……やっぱり諦めるしかないのかしら……」
攻略リーダーだし、クラスのみんなのために何とかしたかったんだろう。
責任感強いよな、前田さんは。
「ごめんね前田さん。変に期待させちゃったかも……」
「まま、ことみーは悪くないっしょ。基本衰弱ボムまき散らしたやつが悪いし」
「あ、待った。今のままじゃ厳しいってのは、お手上げって意味じゃなくてさ」
俺は女性陣の悲観ムードに水を差す。
「お!? 蓮くんまだ何か奥の手があるの!?」
「マジマジ!? なら早く早く!」
「聞かせて、高代くん」
「ああ。その前に、みんなMEPって何ポイントある? 俺141しかねえけど……」
「わたし465」
「私は480だったわ」
「ことみーもあっきーも凄っ!? 頭良すぎない!?」
これ入試の五教科の合計点だからな。二人ともすげーな。
「おぉ~さすが! 何とか1250確保できんかなってさ。今1086だな」
目標まで残り164か。
「優奈は? もう使っちゃった?」
「いや使ってないよぉ。なんぼだろ? ちょっと待って、ひゃく――」
「うぇっ!? ちょっ……!? えっ!?」
100代来た! これは予想外だぜ。急に先を聞くのがドキドキしてきたぞ。
「何だよーしゃーないじゃん、頭良ければこんなファッションしてないし!」
「いやそれは関係ないような……少しは勉強もしなきゃだめよ優奈」
「へいへーい」
清々しいくらいに生返事。
「それで、ひゃくいくつ?」
「んー166でしたー」
「よっしゃギリギリ足りた!」
「高代くん、MEPを使うの?」
「ああ。一つはアイテム。『転生の翼』。それとタレントで『AP限界突破』」
『転生の翼』が800で『AP限界突破』が450だったはず。
MEPはプレイヤー間で譲渡できる。
余裕がある人は1ポイントいくらかで他プレイヤーに売ったりする事もある。
とりあえず、全員のを集めれば行けるな。
「『AP限界突破』はわたし?」
「ああ。限界突破つければAPの上限が1.5倍の450になる」
「『剣の舞い』を二回打てる?」
さすが察しいいな。
「そうそう」
「転生の翼は……ジョブチェンジ用のアイテムよね?」
「そう、経験値引継ぎでジョブ変えれるってやつだな。今はレベル戻しなんてやってる場合じゃねえし、ジョブ変えるならこれしかない」
このゲームでジョブを変えるのは、実は割とハードルが高い。
転職自体は簡単なクエストで出来る。しかしレベルは1からになる。
しかも、元やっていたジョブにその後戻したとしてもレベル1から。
つまりジョブを変えるイコール経験値全リセットという事になる。
また1からレベルの上げ直しになるから、その分時間をロスすることになる。
なかなか勇気のいる決断だ。
このMEP800の『転生の翼』は、元のジョブの経験値をそのまま引き継いで別ジョブに変えることができる。
もちろんいいアイテムには違いない。ただその分高い。800だし。
平均80点でも定期テスト二回分だ。
「誰をどう変えるのかしら?」
「ああ、矢野さんに空賊やってもらえねーかなって」
あきらにもオススメした第二候補のジョブ。まあボンクラーズの一員にはなるが。
簡単に言うと盗賊に似た盗賊系のジョブで、盗賊が軽戦士系でDEXとかAGIが高いのに比べて空賊はパワー型でSTRやVITが高い。
扱える武器は銃と機械弓。
飛空艇がある世界観だから、メカニック的なことに詳しいイメージのようだ。
しかし銃と機械弓の威力はSTRに依存しない。
ステータス的な長所が、装備系統と噛み合ってないという……
そして銃と機械弓は矢弾を消費する。
盗賊に比べてランニングコストが高いのもネックだ。
盗賊と同じく敵からアイテム盗んだりもできて、そこはいい。
しかし、なら盗賊使うわって感じになりがち。
また盗賊は『スケープゴート』を使ってタゲ維持のフォローもできる。
空賊には『スケープゴート』はない。
まあ沢山ジョブがある上で、日の目を見ないジョブがあっても仕方がない。
こういう存在も必要だ。負け組もいないと勝ち組が勝つ相手がいないから。
ただこのボンクラーズの一員だけど、俺の紋章術師との相性はいい。間違いない。




