第225話 魔人ヴェルドー
「コケー! さすが蓮だコケ! とんでもない威力だコケー!」
ココールがフロストイーグルの背から降り、ぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。
俺も続いて降りて、ココールに応じる。
「まぁ、これだけが取り柄だからな! あきらもいねえし、連発はできないから次は最速で五分待ちだな。ここでちょっと待って、また使えるようになってから進もうぜ」
「そうだコケな。分かったコケー。安全第一だコケな」
「ああ。あきらがいてくれりゃあ、待たなくていいんだけどな」
まああきら達は大事なダンジョン攻略中だし、仕方ないけどな。
「ククク――それはいい事を聞いたコケよ……!」
コケ族の口調だが、ココールの声ではなく女性の声だ。
という事は――!?
俺は声をした方、ホールから続く階段の上を見る。
「か、母ちゃん!」
ココールが声を上げる。そう、ココールのお母さんだった。
首から大きな黒い水晶のネックレスを下げている。
そしてそれが異様な黒いオーラを発し、ココールの母ちゃんの全身を包んでいた。
「何だあれは――!? あれのせいでお前の母ちゃんが変になったのか!?」
「き、きっとそうだコケな! 黒いオーラが出てるコケよ! いかにもって感じコケ! 母ちゃん大丈夫かコケー!? 正気に戻るコケよ!」
「クククッ! そういうワケにはいかんコケー! せっかく久しぶりに得た体コケ、ここを根城に、この魔人ヴェルドー様の恐怖の帝国を作り上げてやるコケー!」
魔人ヴェルドー? そいつが黒水晶のネックレスに憑りついてたってことか?
「魔人!? よく分からんコケが、それがそのネックレスに眠ってたコケか!?」
「そういう事だ! 遥かな昔に我は肉体を滅ぼされ、この黒水晶のネックレスに魂だけを封印されたコケ! 依頼宿主を転々とし、完全な復活の時を待っておるコケ! お前らに会うのも初めてではないコケ! その節はフロイ・ヤシンが世話になったコケ!」
「!? フロイだと!?」
ココールのいるミシュリアの国と敵対するカラナート教主国の幹部の敵キャラだったやつだ! 何度かクエストやらのボス戦で戦ったことがある!
あのフロイはこいつが操ってたってことか?
で、フロイが倒されたから、黒水晶のネックレスの持ち主がいなくなり、それが売りに出てココールの親父さんが買ったと……!?
こんなところで設定が繋がってくるとはな――よく練られてるイベントだな!
「……魔人って感じもしねえんだけどな。コケコケ言ってるし」
「フフン……! まだうまくこの体を扱えんだけだコケ! 馴染めばじきに心も体も魔人の姿を取り戻すコケ! 数百年この黒水晶で力を蓄えた我は、かつての肉体を蘇らせるほどの力を蓄えたコケ!」
「コケ!? そうなったら母ちゃんはどうなるコケか!?」
「二度とは戻らんコケ! 我の肉体の素体となれることを光栄に思うがいいコケ!」
「コケーッ!? そんなことはさせんコケよ! 母ちゃんを返すコケ!」
「ココール! とにかくあの黒水晶のネックレスを引き剥がすぞ!」
「了解だコケ!」
「ククク……! 奥義の撃てないお前など怖くはないコケ! 今のうちにぶっ殺してやるコケが! 覚悟するコケ! 来い! モンスターども!」
グオォォオォ――!
ギャギャギャギャ――!
キシャアアアア!
ギギギギギギ――!
玄関ホールの中に、モンスター軍団が大挙して押し寄せてきた!
どの出入り口も、すっかり固められてしまっている!
「コケーッ!? すごい数だコケ! 父ちゃんが張り切り過ぎてモンスターを集めまくったからコケな!」
「愛情が痛いってやつだなあ……! さぁてどうするか――!」
「蓮! もう一回乗るコケ! とにかく奥義を使えるようになるまで時間を稼ぐコケ!」
「よし、そうだな!」
フロストイーグルは再び俺達を乗せて飛んでくれる。
「逃がしはせんコケーッ!」
黒いオーラを纏うココールの母ちゃんが、魔法を詠唱し、解き放つ。
「シャドウフェニーックス!」
黒い炎のフェニックスがフロストイーグルを追ってくる。
誘導弾か! しかもフロストイーグルよりも早い!
フロストイーグルも必死に避けようと飛んでくれたが、あえなく敵の魔法が直撃する。
キュエエェェェェ――――ッ!?
全身の羽毛が焼け焦げ、床に墜落する。俺達も投げ出され、床で体を打った。
蓮は落下ダメージ! 300のダメージを受けた!
ココールは落下ダメージ! 300のダメージを受けた!
あんまり高すぎると即死するし、ダメージで済んでよかったとも言える。
「フロストイーグル!? もういいから帰るコケ! 代わりにインフェルノアーマー! 合体だコケーッ!」
二体目のインフェルノアーマーが現れる。
「ココール! あいつはいないのか……!?」
そう、あいつだ! 雇うのはお高いが、切り札に相応しい広域破壊をぶちかましてくれる――!
「デッドリーキングコケか!? 流石にいないコケよ! またあんなダンジョンの奥まで行くのは大変だコケ」
「そっか――ならそれ無しでどうにかしねーとな!」
「オイラが時間を稼ぐコケ! 蓮は防御に専念しててくれコケ!」
フルアーマーココールが、俺を庇うように魔物たちの矢面に立つ。




