第222話 デスチャリオット着替え
俺とココールは親父さんからもらった呪符を手に、結界の中に踏み込んだ。
さっきは触れると内側から押し返されるような抵抗を感じたが、呪符を持っていると逆に吸い込まれるような感じがした。
「よし、行くぜココール、リュー」
「コケーッ! 任せろコケ!」
「きゅ~! きゅきゅ~!」
うむ、二人とも気合入ってるな!
実際あきらがのソードダンサーと組まないと俺の瞬間火力は大分落ちるから、ココールには頑張って貰わないとな。
ロマン砲をロマン砲たらしめる俺の奥義だが、必ず『ファイナルストライク』が組み込まれて大ダメージを叩き出している。
本来の『ファイナルストライク』は再使用時間が5分もあり、連打は出来ない。
そこをあきらのソードダンサーに『剣の舞い』を貰って即使用可能にすることで、奥義を連打し瞬間火力を跳ね上げているのだ。
俺とココールだけの今は、一発奥義を出したら次は大分待たざるを得ない。
なのでうかつには使えない。使い所は考えないとな。
奥義が無ければ、紋章術師は全ジョブでも最低クラスの火力しかないわけで――
ここは『エレメンタルサークル』を使ってボチボチやって行くしかないわな。
この魔法はこういう時にちょっとした攻撃能力を与えてくれるのが、多分本来の用途のはずだ。
その役割を果たして居らうとしよう。
ブルウウゥゥゥ――!
庭を進む俺達の前に、早速立ち塞がるモンスターが。
巨大な一本角の牡牛って感じだ。物凄い目が血走っている。
名前は――ホーンバッファローというらしい。
何をそんなに怒り狂ってるのかは知らないが、怒り狂ってそうな感じである。
「来たな、コケ! うちの家を好きにはさせないコケ! 来いコケ! インフェルノアーマー!」
ココールが全身オレンジの派手な全身甲冑を呼び出す。
中身は空っぽで、不思議な力でふわふわと動いている。
所謂リビング・アーマー系のモンスターだ。
「合体だコケ―!」
ガシャンガシャン! ガチャン! ガキイィィィィン!
カッコいい金属音と共に、ココールが鎧を纏ってフルアーマー化する!
リビング・アーマー系のモンスターが持つ能力『装着憑依』である。
コケ族の特徴的な丸っこいボディに合わせて変形するあたり、親切な奴である。
これによって、ココールのステータスはインフェルノアーマーと互角まで引き上げられる。
インフェルノアーマーより強いものがくらえば大幅な弱体だが、リビング・アーマーより弱いものがくらえば劇的なステータスアップでもある。
これをどう捉えるかはその人次第になって来るが、ココールの場合は劇的な強化である。
素のココールは戦えるステータスしてないからなー。
インフェルノアーマーを『装着憑依』する事により、ココールは真の力を発揮できるようになるのだ――!
……特撮ヒーロー番組的に言うとこんな感じか?
「コケーッ!」
鎧の強度に任せて、頭から突撃して体当たり! ドゴォ! と痛そうな音が響く。
インフェルノアーマーの攻撃。ホーンバッファローに163のダメージ!
おお効いてる効いてる!
そこから、ココールとホーンバッファローの格闘が繰り広げられる。
状況はココール優勢だ。ビシビシと攻撃がホーンバッファローのHPを削っていく。
よし、じゃあこっちもやるぜ! ココールに丸投げも悪いからな!
「装備変更、セットD!」
今日のセットDはつまりあれだった。デスチャリオット装備一式!
いきなり小さなデスチャリオットと化した俺は、早速魔法を発動する。
「『エレメンタルサークル』!」
発動のターゲットはいつものようにうちの守護竜さんに。
リューの持つ『ターゲットマーカー』のスキルにより、本来は設置したら動かせないサークルが、リューの動きに追従して動くようになるのだ。
そして現れる真っ黒な闇属性のサークル。うん、意図通り意図通り。
「こ、コケ―ッ!? れ、蓮! 何だコケその妙な恰好は!?」
ああ、ココールはデスチャリオットに会ってないし、デスチャリオット装備も初見だよな。
そりゃまあこの迫力満点のミニ・デスチャリオットにいきなり着替えたら驚くよな。
「これに着替えて『エレメンタルサークル』したら、闇属性に絞れるんだよ!」
闇属性サークルはHP吸収の追加効果もあるからな。
HPを回復しながら戦えるのは、俺たち二人にはありがたい。
どっちも回復魔法みたいなのは持ってないからな。
ココールは別の回復のできるモンスターをストックしている可能性もあるが。
「装備変更、セットA!」
これで、俺は普通の姿に戻る。
デスチャリオット装備はとんでもないステータスダウンが付いているし、動きも遅くなる。
あくまで闇属性サークルへの固定用着替えオンリーのものである。
元に戻った俺は、ホーンバッファローに近寄り攻撃を繰り出す。
唯一まともに当てられる通常攻撃、単なるショルダーチャージである。
一撃大ダメージのロマンの為、DEXを完全に捨てている俺の通常攻撃は基本スカスカである。
仕込杖での通常打撃など単なる飾り! 唯一当てられるのは、必中のこれである。
格闘・当て身の攻撃は暗器アーツと同じで回避無効なのだ。
その代わり威力は大して強くないし、モーション的にコンボ性能に難ありだし、当て身アーツはAPに加えてHPも消費してしまう。
当然不人気だが、DEXを捨てVIT極振りの俺でも攻撃を当てられるのは唯一無二である。
蓮の攻撃。ホーンバッファローに81のダメージ!
蓮の攻撃。ホーンバッファローに60のダメージ!
蓮のHPが60回復した。
蓮のHP上限が60増えた。
うむぅ。こういう事だな!
しかし俺の通常攻撃のダメージを考えると、『エレメンタルサークル』の追加攻撃分の60ダメージはでかい。削り能力が激増していることになる。
しかもHP回復するしな。
追加効果1撃ごとにMPを5消費するのだが、紋章術師には現HPMPの値を入れ替えるスキル『ターンオーバー』がデフォルトで装備されている。
普段は強制的にMPを0にして暗器アーツの組み込まれた奥義の威力を跳ね上げる用途に使われるが、本来の用途であるMP回復用に使えば、追加効果のMP消費はあまり気にしなくても大丈夫だ。
うんうん、こういう時は悪くないよ、『エレメンタルサークル』!
無いよりあった方が全然いいよ!




