第21話 黒竜ディアブロ2
「蓮くん回復!」
奥義でHPの減った俺に、あきらがすかさず『ヒールステップ』を飛ばしてくれる。
同時に前田さんと矢野さんからも回復魔法の『エクス・ヒール』が飛んでくる。
一気にHPが満タンに。
ドラゴンは極大ダメージを喰らってのけぞっており、その隙に楽々間に合った。
俺もその間に、できるだけドラゴンから距離を取っておく。
ここまでは、いい感じ。問題はこの後だ。
硬直から回復したドラゴンは、俺に向き直ってぎろりと視線を向けてくる。
やはりタゲを取ってしまった。あれだけのダメージを出したら仕方がないか。
グオオォォォッ!
黒竜ディアブロは唸り声と共に身を捻る。
俺の方に背を向けると同時に、超質量の棘フレイルに等しい尾が高く振り上げられる。
――これは予備動作が大きい! かわせる!
俺は尾が高く上がった瞬間には、回避行動に移っていた。
ドオオォンッ!
俺が横っ跳びに転がった一瞬後に、元俺がいた場所を物凄い衝撃が襲っていた。
ギリギリのタイミングだった。予備動作があるとはいえ、攻撃速度が早いな!
俺は身を起こして更に距離を取ろうとするが、ドラゴンは大きく一つ吠える。
ルオオォォォン!
それが突風を起こし、俺は巻き込まれて踏ん張るしかできなくなる。
その隙に、ドラゴンは猛然と俺に詰め寄って来た。
前脚の鋭い爪が俺に向かって降って来る。巨体だけど早い! 避けられない!
『仕込杖』の再合成が間に合っていない俺は、素手でガードせざるを得ない。
けど紋章術師は格闘の適正はないから、ガードしたところでガード性能がそもそも紙。
せっかく極振りしたVITも空しく、ガード削りでHPが半分持っていかれる。
「くううぅぅ……効くなあ!」
ガードしてなきゃ一撃死もあり得たな。
だけどこういうギリギリの状況こそ、面白い。テンション上がって来た!
減ったHPは即反応したあきらのダンスで回復。さすがの反応速度。
「『剣の舞い』!」
さらに連続でスキルリキャスト回復のダンスも飛んでくる。
これで次が撃てる――けども、今俺はドラゴンに絶賛タゲられて攻撃され中だ。
このままじゃアイテムウィンドウが開けん! 早く次の『仕込杖』補充がしたいのに。
続く爪の一発をまた素手ガード。
ずしんと物凄い重量感と衝撃と共に、俺のHPバーがまた半分近く持っていかれる。
「高代! 一歩下がって!」
矢野さんが俺と黒竜ディアブロの間に割り込む。
「『ガーディアンフォース』!」
背後の味方への攻撃を代わりに受けるスキルだ。少しの間この状態が持続する。
矢野さんが盾防御しながら、俺への攻撃を代わりに喰らってくれる。
流石金属鎧と盾で固めた聖騎士は固い。俺の三分の一も喰らっていない。
そうやって耐えながらも、ボスの攻撃の合間を縫って俺に回復を飛ばしてくれる。
敵のヘイトは、味方を回復することでも稼げる。ヒールヘイトというやつだ。
聖騎士の盾役としての振る舞いは、ヘイト獲得スキルだけでなく、こうやって味方を回復するヒールヘイトを稼ぐことも重要だ。
これで少しは俺からタゲがずれてくれれば――
そう考えつつも俺の手は動いていて、アイテムウィンドウを開いて合成開始。
『アイアンスタッフ』と『アイアンソード』を材料に『仕込杖』を。
よし完了。即座に装備。
ぱっと俺の手の中に、鉄で補強された杖が現れる。
「『ガーディアンフォース』の効果切れたし!」
「わかった!」
次は直接俺に攻撃が飛んでくる。杖でガード。さっきよりは痛くない。
「こんのっ! こっち向けってば!」
矢野さんが改めてボスにヘイト獲得スキル発動。
それから俺に回復魔法。それでもボスは俺への攻撃を止めない。
「『フラッシュスピアー』!」
矢野さんの片手剣アーツ。光を纏った剣による神速突きだ。
176ダメージ。でもダメージヘイトを足しても、まだ俺からタゲがはがれない。
やはりダメージヘイトが半端ないことになっている。
一撃大ダメージの弊害だ。
矢野さんは全力で頑張っている。しかし、盾役が稼げるヘイトをぶっちぎっている。
だけど手を止めるわけにはいかない。速やかに撃てるだけ撃たないと。
こちらは少人数だから、長期戦はMPが持たない。勝ち目がどんどんなくなる。
「矢野さん! 『ガーディアンフォース』のリキャストは!?」
「あと二分!」
俺の問いに矢野さんは焦ったように返す。
そんなに待っていられないか。
「このままもう一発撃つぞ!」
俺は何発目かのボスの打撃をガードしつつ、宣言する。
ボスの打撃と打撃の合間を縫って、『デッドエンド』発動!
グギャアアァッ!
再びボスが一瞬硬直。HPバーは約半分に。ヒールシャワーが飛んできて俺全快。
しかしダメージヘイトがさらに増大し、もうボスのターゲットは俺に釘付け。
殴られている間はアイテムウィンドウを開けない。
もう『ガーディアンフォース』のリキャストまで、ガードで耐えるしかないか。
ただ、ガードしても俺の被ダメージは大きい。
衰弱している前田さんのMPは早々に無くなり、矢野さんのも残りわずか。
あきらの回復はMPではなくAPだが、それもギリギリになって来る。
何とか次の『ガーディアンフォース』まで耐えれば――そして何とか耐え切った。
「よしリキャスト来た!」
即スキル発動して、俺の前に立ってくれる矢野さん。ギャルパラディン頼もしいな。
よし受けてくれるうちにまた合成だ。
しかし――
黒竜ディアブロはダークブレスの構え!
ボスの特殊技だった。首をうねらせ、黒い炎の帯を放射してくる。
これは単体技ではなく、範囲攻撃の技だった。
俺と矢野さんがモロに巻き込まれる。
「うわああっ!? うぅ~効いたしー……!」
重装備に盾防御の効いた矢野さんですらHP六割削られる。
ということは、盾もなくローブで軽装な俺は――
「きゅう」
うん、一撃死。あーやられると体に力が入らなくなるんだな……
で、ばったり倒れる俺。む、無念……
一撃死では、タイミングバッチリで回復をくれるあきらも手の出しようがない。
「うを!? ちょっと主砲が落ちたんですけど!?」
「あちゃ~! こ、これはまずいね……!」
「くっ。これまでなの――?」
前田さんの言う通りだった。その後、ボスに一人ずつ撲殺され俺達は全滅した。
うーんこれは、あれだ。
俺の密かなる策略を実行する時が来たかもな。
戻ったらみんなに相談だな。




