第217話 冷静な判断
「れ、蓮くん……! 蓮くんが変な事言い出すのはいつもの事だけど、今回は方向性が違うよ! 本当にそれでいいの?」
と、あきらがちょっと寂しそうな顔をした。
「イエス。エミリーが言ってただろ? 持久戦狙いなら俺を外すって。まぁその通りだなって思ってさ。まぁ今までは俺も行く方向でしか考えてなかったけど、勝ちに拘るならそういう前提も外すべきだなということで! ま、他に手が思いつかないんだから仕方ないよな」
「でも――それで楽しい? つまんないって思いながらゲームするのは、大前提を踏み外してるっていうか……何て言うか蓮くんらしくない気がするよ?」
「まあなぁ。でも今回は仕方ないだろ。それに俺は行けないとは言え、上手く作戦が当たったら俺のおかげって事でドヤ顔出来るから、まあそれで我慢するぜ!」
「でも……わたしのためにって考えてくれてるんなら、蓮くんにそんな思いさせてまで――っていうのは……」
「そんな深刻なもんじゃねえよ。一回だけだろ。どの道『超級転移石』は一個しかないしさ。まぁここで『レインボーガード』が取れずに、後であきらが家の人に怒られて退学になるとかゴメンだかしな。楽しくゲームやれる環境を守るためには仕方ないって事で」
「蓮くん――わたしと一緒だと楽しい?」
「あたりまえだろ。何を今更!」
「そう――うん、分った。じゃあ頑張って来るよ! 確かにフレ補正抜きに冷静に考えたら、雑魚狩りしまくりの持久戦ならそっちの方が向いてるだろうし!」
「ふっ……改めてあきらに言われるとちょっと傷つくぜ! ちくしょう見返してやるからな!」
「あはははっ! 全然元気だね、じゃあ心配ないかな? すぐ行って来るから、ちょっと待っててね」
「ああ。行ってらっしゃい!」
俺は水上コテージで皆の帰りを待つぜ。何かできる検証でもしながらな。
「冷静な判断だと思いますわ、高代君。きっとわたくし達で『ハーデスローズ』を倒して来ますわよ。あきらさんの事はわたくしにお任せなさい。あなたの犠牲は無駄には致しませんわ」
と赤羽さんは何だか嬉しそうに俺に言って来る。
「……いや、死んだみたいに言わないでくれますかね!?」
「ですが、攻略したがりのあなたが自分が外れるだなんて、少々思い切りがいったことでしょう? その決断を尊重いたしますわ」
何だ何だ、本当に機嫌良さそうだな?
でもまあ、この子は別にそんなに性格が悪いわけでもないから、俺が困ってて嬉しいとかそういう事は無いだろう。
あれか、俺抜きであきらとキャッキャウフフできるのが嬉しいのか?
何せ元はと言えばあきらと友達になりたくて向こうから近づいて来たわけだしな、赤羽さんは。
最近はデレ期に入っているようで、あんまりツンとした様子も見せず、普通にあきらと絡んでいる様子である。まあ、いい傾向だよな。
それに赤羽さんの場合、お兄様がお兄様なので彼女自身が何か変な事をしていても、お兄様に比べれば可愛いものと何でも受け流せてしまうからな。
何でも大目に見れるというか――
「何か嬉しそうだなー、赤羽さん。俺抜きであきらと遊べるのがそんなに嬉しいのか?」
俺的にはこう、ツンデレっぽいリアクションを期待していた。
ち、違いますわよ! わたくしは真面目に言っていますの! 的な事を言ってくれるのかなと。
しかし、赤羽さんはなんだか呆れたような目で俺を見てくるのだった。
「はぁ? 何を言っていますの? 人と人との関係は変わっていくもの、わたくし達はいつまでも初めのわたくし達ではありませんわ。だけど、あなたは変わりませんわね?」
「お。おう――? なんかよく分からんけど哲学的だな?」
何が言いたいのかはよく分からんが。
「ふう――まあ構いませんわ。今あなたのお気持ちは見せて頂いた所ですものね? 協力は惜しみませんわ。あなた方にはお世話になっていますからね。何でしたらお兄様のお力もお借りしましょう」
「ありがたい――けどできるだけ頼りたくはないなぁ」
だってお兄様だし。絡むの大変だからな。
デスチャリオットから装備をいただけた件については、お兄様がいなけりゃ条件を思いつきもしなかっただろうから、間違いなくファインプレイだったし、感謝をしなきゃいけないというのは分かっているが――
だがそうやって装備をゲットした上で、俺は今回はベンチウォーマーなわけで。
如何せん作戦と俺の相性が悪すぎだからなー。
片岡なんかは俺より最大火力は劣るが、そこそこの威力をノー銭投げで繰り出せたりするからな。俺みたいな、火力を出すために色々複雑な前提条件も特にないし。
ボスをが涌かせる雑魚を狩りまくる戦いなら、絶対俺より向いている。
俺がその役をこなそうとしたら、途中でMPが尽きて何もできない棒立ちになってしまう。あ、MPとはマネーパワーの事ですが!
ちょっと希望が見えてた分、質悪いよなー。思考がそっちに引っ張られてしまった。
初めから何の希望も見えなけりゃ、もっと早くこっちの作戦に行っていただろう。
だがまあ、まだ遅くはない。
他パーティーからのゲット報告の話は聞かないし『超級転移石』が量産されているという事もない。
今ならまだ他チームの先を行ける――はずだ!
「とにかくみんな頑張ってくれよ! 応援してるからな!」
俺はそう皆に声をかけて、『アーズワース海底遺跡群』へと送り出した。




