第216話 俺、ベンチ!
水上コテージに戻ってから、小一時間後――
俺達の呼びかけにに応じて、皆が集まってくれていた。
ちょうど出かけたりはしていなかったらしい。助かった助かった。
集合したのは俺とあきらに加え、前田さん、矢野さん、赤羽さん、シズクさん、片岡だ。
都合七人になっております。
「んで、俺まで呼んでどうすんだよ高代? 何か情報でも欲しいのか?」
と、片岡が聞いてくると、皆もうんうんと頷いていた。
今日は中止と言っていたのに速攻で招集されたんだから、何があったのかと思うよな。
「――いや、そうじゃねえんだ。いよいよシズクさんに貰った『超級転移石』を使ってやろうと思ってさ。急遽思いついたんで、急遽集まって頂いたわけで」
「ほう。あの時のあれが役に立つのか――ならば結構な事だ」
と、シズクさんが頷く。
「はい。すげー助かります! それから、急に呼び出して済みません」
「いや、構わない。いつでもこのように応じられるわけではないが、今日は手が空いていたからな」
「あざーすっ!」
「んじゃ俺は何すればいいんだ? 何か持ってくるか? 情報収集とか?」
と片岡が言う。
「何言ってんだよ。『超級転移石』を使うって言っただろ? だったら、ダンジョン攻略に決まってるじゃねえか。『超級転移石』で時間はたっぷりあるから、『ハーデスローズ』本体には攻撃せずに、あいつが呼ぶ『ブラックローズ』が打ち止めになるまで狩り続けてみる作戦な。もし打ち止めが来たらそのまま倒せばいい」
持久戦的アプローチでは、まず真っ先に試したいのがこれだろう。
あの尋常ではない子分のバラ撒きっぷりから、弾切れがあるくらいの抜け道は用意されていてもおかしくない。
問題は、それを試すのに必要な『超級転移石』が、恐らく全然出回っていないという事だ。
もしかしたら、俺達しか持っていない可能性すらあり得る。
今の所判明している唯一の入手ルートは、さっき見てきた通りで各ギルドの妨害工作や何ややらが混ざり合って潰されてる状態に近い。
もしかしたら、エミリーがあのまま勝ち抜くかもしれないが――
それにしたって、まだ時間は結構かかるだろう。
ならば今のうちだ。
もし『ハーデスローズ』が持久戦に弱いなら、俺たちが他のパーティの先を行ける。
そこにロマン砲がいる意味は無くなってしまうが、基本的に今回の俺はガチである。
勝ちに行っているのだ。絶対に負けられない戦いがそこにある的な!
なら、普段やらない送りバント的な作戦も取るべし!
「『超級転移石』ぶち込んで勝負に出るなら、確かにそれを試してみるのがいいと思いますし」
「うん。私も賛成。『超級転移石』の数が少なすぎて、どこも試せていないんでしょうけど、勝ちに行くなら使ってみるべきね」
矢野さんと前田さんも頷いてくれた。
「ですわね。よろしいのではないかしら。そのために『超級転移石』というアイテムが存在するのかも知れませんしね」
「分かったよ、蓮くん。蓮くんのわりにちょっと真っ当な作戦過ぎる気がするけど、今の所他に手はないんだよね?」
「ああ。そう思う」
「で、それは分かったんだが俺は何すればいいんだよ?」
「だから決まってるだろ? 『超級転移石』使うからボス戦手伝ってくれ」
「え? 俺もそっちに入るのか? じゃあどういうパーティで行くんだよ?」
と、片岡が首を捻る。
皆も同じようなリアクションだ。確かに今この場には七人いる。
パーティは六人までなので、一人あふれる事になってしまうのだ。
それが分かっているのに、なぜ七人集めたのだろう――
そんな風に、釈然としない様子である。
「はいそれでは攻略メンバーを発表します! まず今言ったように片岡! それからシズクさん、前田さん、矢野さん、赤羽さん、あきら! 以上です! みんなガンバッテ!」
パチパチパチパチ!
と俺は景気づけに拍手をした!
「「「「えええええぇぇぇ~~!?」」」」
と一斉に皆が驚いて声を上げた。
「だから俺まで呼んだのかよ!」
「高代なしで行けって言うですし? 確かにまあ、あのダンジョンの中じゃ見てるだけの置物化してる時も結構あったけど……」
「でも何かあったら作戦を考えてくれるのも高代君だったし、いないとなると――」
「うん。ことみーの言う通り、ちょい不安ですし」
「大丈夫だ。やる事は明確だし、それにあきらがいるんだから」
俺がいなけりゃ、あきらがちゃんと皆を引っ張ってくれる。
そこは太鼓判を押せる。マイベストフレンドはできる子ですから!
普段は俺のやる事を面白がって見てるから、俺に合わせてくれてるわけで。
「今回は絶対に勝ちに行きたいからな――魔改造も覚醒もジャイアントキリングもないけど、作戦の内容を考えたら俺が入らない方がいいんじゃないかと。作戦の内容に合わせてベターな人選をしたらそうなるんだよな」
一撃必殺の短期決戦で挑むのではなく、持久戦で『ハーデスローズ』の雑魚召喚の弾切れを待つなら、俺は余り戦力にならない。
基本奥義は一戦闘に一回で、武器破壊からの再合成でその判定をすり抜けることはできるのだが、雑魚を狩りまくる戦いで一発ごとに武器破壊していたら、雑魚が弾切れになる前に俺の懐が弾切れになる。
レベルが上がってくると、毎回破壊される『仕込杖』の金額も高くなってきており、資金繰りは非常に厳しいのだ。
今回は俺がベンチに回る――それがいいと思うんだよな。
この際、仕方なし!




