第214話 団体芸
そして、俺たちは縁日の会場にやって来たわけだが――
前回やって来た夜の風景も良かったが、明るいのは明るいので別の印象になるので悪くはない。
まだ朝の早い時間だが、活気もあって、あちこちのゲーム屋台には長蛇の列が――
待っている奴等ももう、イライラしてきて微妙にギスギスした雰囲気がそこかしこから――
って何だこれは!? 混み過ぎだろ!
これは親父に見せてもらったドラ○エ発売日の資料映像みたいだぞ。
もしくは、超人気テーマパークの目玉アトラクションだな。
「うっは、何だこれは……!」
「凄い行列だね!」
朝っぱらからこんな事になってるとは――これはあれか、あれだな。
「これは何事なのかなぁ――」
「まあそうだよなあ、攻略が『ハーデスローズ』のせいで止まってるから、その間『上級転移石』を集めようって事だよな」
『アーズワース海底遺跡群』の中でも交換アイテムが出るようだが、こっちならゲームクリアすれば確実に貰えるわけだしな。
こちらに人が集まるのも分かる。
「なるほどだけど……これじゃゲームできないね――並ぶの凄い時間かかるよこれ。よく皆並んでられるね」
「……前のギルド対抗ミッションの時と同じノリを感じるな」
「――どういうこと?」
「ほら見ろよ、あれ」
と俺が指を差した屋台はこの間矢野さんとやったガンシューティングのコーナーだが、今まさにハイスコアを出して『上級転移石』をゲットしたプレイヤーがいた。
「おぉ。『上級転移石』ゲットしてる! すごい!」
「その後が問題だぜ――」
そのプレイヤーは、『上級転移石』を受け取ると再び列の最後尾に並ぶのだ。
「あ! また並んでる! 確か同じゲームでは一回しか『上級転移石』貰えないはずだよね? もう取れないのに――」
「そう。なのにまた並ぶのは――」
「よっぽどあのゲームが好きでハマりまくってるか……」
「わざと行列を増やして、他の奴がやり辛くする妨害工作か――だな」
「だよね……確かに蓮くんの言う通りだね、ギルド対抗ミッションの時もレベル上げの狩場潰されたもんね」
「そのあたり容赦ないよなー。確かに無駄にゲームに行列させれば、他のギルドのやつがゲットできるチャンスを減らせるもんな」
打てる手は何でも打ってくるな、他のギルドの連中は。
人数を掛けられる大規模ギルドならではの団体芸だろうが――
俺達は人数が少ないから、そういう大掛かりな妨害工作は物理的に出来ない。
なので、そもそもそういう事を思いつかないのだ。
「しかしこりゃとても並んでられねーなぁ。何時間も並んで失敗したら心折れるぞ」
「だねぇ……」
「まあ『上級転移石』が勝負の決定的差になるとは思わねえけどな」
B51Fからはセーブポイントの配置が10層おきになる。
ノーマルの『転移石』はダンジョンの滞在時間が30分で強制退場だが、30分とは概ね5層進むのに丁度いい位の時間である。
浅い階層では5層おきにセーブポイントがあるからいいが――
B51F以降は制限時間1時間の『上級転移石』が欲しくなる。
ただこれは進行に必要な時間を確保するためのものであって、『ハーデスローズ』攻略のための時間が十分に用意されるわけではない。
例えば、『ハーデスローズ』本体は放置して、生まれてくる子分の『ブラックローズ』だけをひたすら狩り続けたら打ち止めがあるのかとか、そういう持久戦を試そうとすると流石に時間が足りないのだ。
あれが時間制限なしのエリアにいるのなら、間違いなく持久戦で挑む奴らも現れただろう。しかし、残念ながら『アーズワース海底遺跡群』はタイムアップ付きなのだ。
その事が、『ハーデスローズ』攻略の難易度をさらに上げている。
そんな中で、持久戦をやらかすために必要な時間を与えてくれるのは――
『超級転移石』である。あれなら制限時間は二時間もある。
進行にたっぷり一時間使ったとしても、もう一時間『ハーデスローズ』と戯れる時間を与えてくれるのだ。
「もっと時間がいるってこと?」
「そうそう。一時間だけじゃいろいろ試せねえから」
「となるとあれだね――『超級転移石』」
「ああ。あれがあれば、時間的にいろいろ試す余地は出来るよな」
実は俺たち、これ持ってるんだけどな。
この間シズクさんがゲームで取ったのをくれたのだ。
今のところ、まだ使おうとは思っていないが――
確信もなしに投入したくないというのもあるし、そもそも俺的には短期決戦狙いなのでまだ温存しておきたくはある。
持久戦には向いてないしな、俺たちは。
というより俺が! もっと言うと俺のお財布が!
一時間も銭投げし続けるとか無理です、すいません!
そしてそれができないなら、俺たちは弱い。
構成がロマン砲ありきになってるからな。
『ブラックローズ』をひたすら狩り続けろとか言われても、きつい。
エミリーの重騎士のように、パッと敵のターゲット取ったりできないからな。
雑魚連戦には全く向いていないパーティ構成である。
「わたし達が使う――のもなんかピンと来ないね。持久戦に向いてないし」
「だよな。無駄になりそうで怖いな。まぁシズクさんが他のギルドの奴に『超級転移石』を渡さなくて良かったよな。興味無さそうだったからなぁ」
「そうだねえ。でもこれ『上級転移石』のコーナーでこれだと、『超級転移石』が貰えるロボ格ゲーの所はすごい事になってるんじゃ――」
「だろうなあ、仁義なき奪い合いになってそうな……」
「見に行ってみようか?」
「ああ、行くか」
というわけで、ロボ格ゲーの会場へ!




