第212話 ミスマッチ
さて翌日――――
俺は朝起きると、最速で準備して速攻でログインした。
攻略レースの壁である『ハーデスローズ』の攻略方法の目処はまだ立っておらず、そういう意味では焦っても仕方ない。
前田さんや矢野さん、シズクさんにも今日は攻略のための集合はナシでとメッセージを送ってある。
だが、俺のやる気だけは満々だからな!
こういう停滞を魔改造でぶち抜く事こそ快感!
ましてやこの攻略レースは、全校生徒の注目の的!
エミリー達のような海外の分校の生徒や、シズクさんのように完全外部の人まで見ている。
ここでやらかしたら、絶対目立つぞ!
あきらのためにもなるし、やるっきゃねえ!
「っし! 今日はどうしますかねえ――!」
気合十分で水上コテージに現れた俺に、リューが嬉しそうに纏わりついてくる。
「きゅ~! れん~! おはよおはよ~!」
「おーうお待たせ! いい子にしてたか?」
そしてそれに続いて、あきらも。
「蓮くんおはよ~! 今日も頑張ろうね!」
おお、あきらもやる気満々だな!
「おぉ、なんか昨日よりやる気に満ち溢れてるな~」
「え? そんなことないよ! わたしはいつもやる気満々だよ!」
ふんふんっ! って感じで鼻息荒く、目もキラキラしている。
「さあさあ今日はどうする!? 早く攻略法見つけないとね!」
お~マジでやる気だな。
何だか知らんが、やる気があるのはいい事だ!
「とはいえアテがあんまりないんだよなあ」
「HPをブーストできればいいんだよね? その心は奥義のダメージアップ――と」
「そうなんだけど、今の俺たちのレベルじゃ、いいモノが無いんだよなー」
装備には装備可能レベルってものが設定されてて、それに達していないと装備不可だ。
HPブーストによさげな装備とかは存在するのだが、俺たちのレベル帯だとちょっと装備できない感じだった。
「あれだよね? 『命のドレス』だったっけ――」
「ああ」
ソードダンサーの専用装備なんだが、どうもソードダンサーの使う回復ダンスに、『エレメンタルサークル』の闇サークルと同じような、回復が最大HPを超過した場合に上限をブーストするような効果があるらしい。
しかもまた、見た目も『エンジェルチャーム』に負けず劣らず、エロ可愛くて素晴らしいのだが――
しかしこれ、装備可能レベルが150を超えているのだ。
今の俺たちのレベルは80前後。一気に倍近く上げるのは時流石に時間がかかる。
装備できるレベルなら、手に入れてどの程度まで最大HPブーストできるのかとか、いろいろ検証して確かめたい所ではあるんだが――
奥の手としてレベル200超えのソードダンサーであるあのお方に検証してもらうというのも、嫌々ながら視野に入れるべき所なのかもしれないが、残念ながらこの『命のドレス』は女性専用装備だったりする。お兄様も装備できないのだ。
「惜しいなあ、見た目も性能も最高なのにな。俺たちのレベルが足らんとは……」
「もっと高ければねー……」
「ああ。まあレベルが高ければ、その分『ハーデスローズ』も強くなって出てくるだろうから、また別の問題が出るかもしれないけどな」
『アーズワース海底遺跡群』の内部の敵は、こちらのレベルに合わせて調整されて出てくる。今俺たちのレベルが80前後だったので敵の強さもあんな感じだったが、例えば雪乃先輩達のようにレベル200もあるようなパーティならば、敵もそれに合わせたレベルに調整されて出てくる。
誰が挑戦しても似た難易度になるように、全員で攻略レースができるようにとの配慮なのだろう。全員でやるお祭りには相応しい。
『ハーデスローズ』が問題になっているのは同じようなので、出てくる敵の種類には変わりがないのだろうが、敵もレベルが上がる分、まだ見ぬ新技を使ったりしている可能性もある。
俺たちくらいのレベル80で戦うのと、レベル200で戦うのと、どちらが楽なのかは分からない。だが雪乃先輩達も苦戦していたようだから、レベル200のあいつも相変わらず凶悪なんだろうな。
「まあレベルが上がったら、あれは取るべきだよな! 着てるとこ見せてくれよ!」
「え~? いいけど、ずっとは着ないからね。取れたら基本『レインボーガード』で生きる予定だから! あれも着るの恥ずかしい系だし……」
「大丈夫大丈夫。あきらならきっと着こなせるし似合うぞ!」
「ふふっ。いつもそう言ってくれるのは嬉しいけどね」
「そういや暫くあきらのソードダンサー姿も見てないなあ」
「そうだね。ここの所、戦う時は浴衣だし」
異世界サーマル限定装備だが、浴衣は性能がいいのだ。
高い浴衣(♀)
種類:鎧 装備可能レベル:1 防御力:1
装備可能ジョブ:ALL
特殊性能:MPMAX+50 MP自動回復(5MP/S)
こんな感じだ。
俺の『エレメンタルサークル』は、サークル上にいる味方の通常攻撃に、属性に応じた追加ダメージを付加する。
が、追加効果の発動一発一発にその人のMPを食ってしまうデメリットもある。
浴衣装備ならそれが相殺され、純粋にメリットのみを受け取れて、全体の攻撃力向上につながるのだ。
だからまあ、浴衣ばかりになるのも仕方がない。
シズクさんもソードダンサー装備にはいい顔をしないからな。
赤羽さんの格好を見て言っていたが。曰く、青少年には相応しくないと。
まあそういう事なんで、シズクさんの前では遠慮し置いた方がいいという判断もある。
「あ~。ひょっとして、ソードダンサー姿が見たいなあ、とか思ってる?」
あきらがつんつん、と俺を突っついてくる。




