第20話 黒竜ディアブロ1
俺は広場に佇むドラゴンを観察する。
名前は――黒竜ディアブロか。結構迫力あるぞーこれ。
怪獣映画の登場人物にでもなった気分だ。目の前に怪獣がいるぞ。
頭の高さがビルの三階くらいあるか。
がっしりした胴体に、前足後足には極上の剣のような鋭い爪。
巨木のような尻尾には、凶悪そうな棘があちこちに突き出ている。
そして、呼吸をするたびに鼻や口から炎がチロチロと漏れ出ていた。
滅茶滅茶怖い。そして強そう。とんでもない存在感だな。
「おお……さすがVRMMOのドラゴンは迫力すげーな!」
「うわー! かっこいいー! スクショスクショ!」
あきらは嬉しそうにカメラでボスの撮影会をしていた。
「……とりあえずいきなり襲っては来ないみたいね」
事前に支援効果をかけたりする準備は許してもらえそうな感じだった。
「じゃあ、あっきーのAP待機っしょ」
「うん。じゃあ今のうちに着替えも」
ああ、今の今まで制服だったもんな。あきらは。
あきらがソードダンサーのバトル用装備(露出度高い)に着替える。
「うっわー。なんてーか……ぶっちゃけこれエロくね?」
「だ、大胆……学校でやるゲームなのに、これは教育上いいのかしら」
二人とも、自分には真似できないとでも言いたげな微妙な反応だった。
「うん。みんなソードダンサー選ばんワケが分かった」
「そうね……百聞は一見に如かずだわ」
「ううう、わたしだってやだよお。でもこっちの方が性能いいし……まともな性能で露出度低い装備がないんだよね……」
「ああ、ごめんごめんあっきー。でも似合ってるは似合ってるよ? あっきーおっぱいも立派だし、すごい映えて可愛いと思うよ? 可愛いけど――」
「ええ、決して駄目じゃないわ。駄目じゃないけど――」
「真似はしたくない」
「そうね」
「うううううううっ! 蓮くんがやれっていうから!」
あきらがすっごい恨めしそうに俺を睨んでくる。
「高代がソードダンサー勧めたん? うわー鬼畜ー!」
「もっと真面目な人かと思ってたけど――」
「いや性能考えたら仕方ねーの! 必然なの! コンビネーション的な意味で!」
なんて話しつつ、あきらのAPがフルの300になるのを待機した。
途中で前田さんが守備力強化の魔法『プロテクション』を全員に配ってくれた。
学者というジョブは、一応魔道士の攻撃系と僧侶の回復強化系の魔法を両方使える感じになっている。
勿論全部ではなく、上級クラスのものは無理だし対象が単体のもの限定になる。
これが結構ネックで、大量の敵を一斉に範囲攻撃で倒す戦術には向いていない。
範囲回復もないため、瞬間的な回復力にも劣る。
それから魔道士や僧侶が持っているMP補給系のスキルを持っていない。
武器攻撃も俺の紋章術師並みに弱い。
ジョブのユニークポイントとしては、学者専用の竜言語魔法という魔法群がある。
これが魔法スクロールが店売りされておらず、竜言語だけにドラゴン系の強敵からのドロップ限定となっている。要するに入手のハードルが高い。
そのうえ、肝心の性能がぶっちゃけ低いらしい。
最大のウリが機能していない点で、劣化魔道士か僧侶にしかならない。
当然行き着くのは、不遇ジョブ。ボンクラーズ入りだ。
回復が使える分、紋章術師よりはまだましではあるけど。
「よし――AP300溜まったよ!」
「お。それじゃあ、行くか! じゃあ矢野さん、頼むぜ!」
「おっけー! できるだけタゲ取るし! お任せ!」
聖騎士の基本スタイルは盾と片手剣。ヘイト獲得スキルと回復魔法も使える。
他の盾役と比べても、回復持ちな分一番持久力があってしぶといのがいいところ。
優遇ジョブと言われるだけの安定感がある。攻撃力も結構あるし。
矢野さんが先頭に立って、俺達は黒竜ディアブロに接近。
向こうがこちらを感知して、大きく威嚇するような唸りを上げる。
空気が振動してビリビリ震える。
すっげー! ますます迫力あるな! これは嫌が応にもテンションが上がる。
「っさすがVRMMOのドラゴン、すっごい迫力ーっ! よーし燃えて来たあっ!」
あきらも俺と同じで、何かみなぎってる。
「そしたら、いくよー!」
スキルの射程圏内に入ると、矢野さんが即ボスにヘイト獲得スキルを仕掛ける。
これでひとまずボスのターゲットは矢野さんに。
あきらはボスの側面、前脚のあたりに近づいて『スカイフォール』で攻撃開始。
前田さんは距離を取って下手に近づかない。
そして俺は、ボスの真正面に立つ矢野さんと側面のあきらの間くらいに入る。
まずはSTRを下げる『ディストラサークル』を範囲マックスで展開。
一気にMPは空になる。
……よし、いける!
「挨拶代わりに一発ぶち込む! みんな準備いいか!?」
「いいよ蓮くん、やっちゃえ!」
「オッケー!」
「ちゃんと見ておくから……!」
なら行くぞ!
「奥義――『デッドエンド』!」
紫色の凶悪な光に包まれた一刀が、黒竜ディアブロの巨体を薙いだ。
グギャアアァァ! 黒竜がダメージに大きくのけぞって苦悶を表現する。
どのくらい効いたか――? ダメージは2148。
HPバーの減りは!?
「25%くらい! 凄いダメージだわ……! 信じられない!」
後方の前田さんが声出し確認。俺の見た感じも同じくらいだった。
四発叩き込めば勝てそうな感じに思える。これは希望があるかも知れない。
あきらにダンス貰ってもう一発に『ミュルグレの秘薬』が二個ある。
更にもう二発あるってこと。合計四発。撃ち切れれば勝てる!




