第19話 作戦会議
転送ルームを使う人は多いから、ちょっと順番待ちの間にPT組んだり編成作業。
ちなみにジョブ構成は俺紋章術師、あきらソードダンサー、矢野さん聖騎士、前田さん学者。レベルはそれぞれ23、23、29、25。矢野さんが一番高い。
「しっかしこの短い間によくここまでレベル追いついてるし。二人とも凄くね?」
「まあ運もあるけどな。一月間色々準備できたってのもあるし」
「ねえ、前田さんってなんで学者にしたの?」
「あ、俺もそれ気になる」
矢野さんの聖騎士は、これは盾役の代表格だし特に疑問もない。
けど学者はぶっちゃけ不遇ジョブの一つだったりする。ボンクラーズの一角だ。
何でわざわざこれを選んでるのかなと。
ひょっとしたら俺と同じ不遇ジョブ好きか? 仲間か?
「現実に両親が学者をやっているから、何となく親近感があって」
何かこう、ピュアな答えだった。
「へー。なるほどなるほど」
「評判があまりっていうのは分かっているけど、先生も好きなのを選びなさいって言っていたし……」
「ことみー式だとあたし商人になるのかな? んーヤダなー」
「あ、お家が商売やってるの?」
「そそ。ちっこい美容院ですし」
「へぇ、いいじゃん! 家で髪やって貰えるよねえ」
「いやいや、ファッションに関しては反りが合わないし、常に外オンリー。若い子はナチュラルが一番とか知らんし」
「あー矢野さんちょっとギャル入ってるもんね。親と趣味合わないんだ?」
「そーなんよね。あ、優奈でいーよー青柳ちゃん。あたしもあっきーって言っていい?」
「うん。オッケー」
って笑顔を交わす二人。
「うーむ。俺は特に該当するジョブなしだな」
うち、親父がゲーム会社勤務で母さんが作家なんだよ。
「わたしも蓮くんと同じで該当なしだなあ」
まあそんな感じで、順番が回って来たのでトリニスティ島ラストの十層へ。
十層に街は無く、中央の結界に覆われたエリアの側に移送方陣の出口があった。
この中にトリニスティ島のラスボスがいるのか。どんなやつだろ?
「ここで『光の鈴』を使えば、中に入ってボスと戦えるみたいね。高代くん、青柳さん。どう偵察するの?」
「とりあえず少人数攻略が成立しそうか一戦で見切る。できそうならもう一回チャレンジしてもいいし、だめそうなら諦めてクラスのやつらが復活するのを待つしかねえよな」
「やっぱ蓮くんの奥義頼みだよね。あれを何発当てれば倒せるか次第じゃない?」
「だな。一発二発で倒せるなら、初見でも倒せるな」
「そんな凄い火力あるのん?」
「うんすっごいよ! その代わり一撃の火力以外死んでるけど。準備もすごい面倒だし、一回ごとに武器壊れるから銭投げでもあるし」
とのあきらの証言。おおむね正解です。
「とりあえず矢野さんにボスのヘイト取って貰って、俺が『デッドエンド』撃ち込んで、そこで何割HP削れるか要チェック。これが一番だな」
全員頷く。
「で、一発で沈むのは無い気がするから、撃てる限り連打。あきらから『剣の舞い』貰ってもう一発撃つと。ダンスの消費AP200だしAP溜めとかないとな」
専用のバトルフィールドに入ると、支援効果は切れるしAPは0スタートになる。
ここもそうなる前提の話だ。
「じゃあ、初めは優奈と青柳さんだけでボスと戦ってAPを溜めるほうが?」
「いきなり襲われるならそうするしかないな。向こうからは来ない感じだったら少し待てば問題なし。あきらは『闘神の息吹』でAP自然回復するからな」
「えええーっ!? 羨ましっ!? めっちゃいい初期タレント当ててるし! あたしなんか『皆伝の証<盾>』で意味ないのに!」
ああ矢野さんはそうなのか。
悪くはないけど聖騎士にはいらない。何せ元々盾装備できるから。
「最上級クラスのタレントよね? ちょっと羨ましいわ」
「へっへー。前田さんは初期タレント何だったの?」
「私? 私は『タクティカルマジック』ね」
「あ、それも結構いいやつじゃん。魔法使うと消費MPに応じてAPが溜まるってやつ」
「ええ。確かに悪くないけどね」
「まあそういうわけで、AP溜めたあきらにダンス貰ってもう一発撃つと」
「『ミュルグレの秘薬』も使う? まだ取ってあるよね?」
「状況次第。倒せそうなら使うかも。問題は『デッドエンド』撃った後に俺が生き残れるかな気がする。二発目も打てずに終わる可能性もあるぞ」
「あーすっごいダメージ出す分ヘイトも凄いもんね。しかもHP1になるし。一応前みたいに奥義の後すぐ回復は飛ばすけど」
あきらだけでなく、矢野さんの聖騎士も前田さんの学者も回復魔法を持っている。
俺以外は全員回復持ちだから、結構手厚い構成ではある。
とはいえクラス総がかりで倒すようなボスは、攻撃力も半端ないだろう。
「あー。実は結構あたしが重要? 高代からボスのタゲ取れるかどうかにかかってる?」
「ああ、そうなると思う。できる限りタゲ取ってくれよ、頼んだぜ」
「おっけ。まあやるだけやりますし!」
「じゃあまとめると――」
と前置いて俺は整理する。
中に入ってボスがすぐ襲ってこないなら、待機してあきらのAPを待つ。
襲ってくるなら最初は矢野さんとあきらで戦って、あきらのAPを溜める。
あきらのAPの準備ができたら、俺がボスに奥義を撃ち込む。
これでどのくらいHP削れるかを要チェック。
そして、あきらにダンスを貰ってもう一発奥義を撃つ。
その後もあきらはボスを殴り続け、APが溜まり次第ダンスを貰って俺が奥義を撃つ。
注意点。ボスのタゲが俺に張り付き過ぎたら、途中でやられる可能性高し。
そこはもう矢野さんに頑張ってヘイトを稼いでもらうしかない。
前田さんは衰弱だし、様子見て回復や強化魔法使う程度で。
「ざっくりとこんな感じか。初見だしガチガチの対策は無理だしな」
多少流れ任せだが、仕方ない。
「うん。それで行ってみよ!」
「おー。ドキドキしてきたし!」
「それじゃあ、『光の鈴』を使うわね」
前田さんが鈴を出して使うと、結界の一部に穴が開いた。
俺達PTはその穴に吸い込まれるようにして、中に移動させられた。
一瞬目の前が暗転。ワープ後――円形の広場に一体、黒い鱗のドラゴンが佇んでいた。




