第192話 あきらとエミリー
早朝の水上コテージで――
俺とエミリーは、難易度の上昇した『アーズワース海底遺跡群』のB51F以降の攻略について検討していた。
「うーん――今の所、出現するゲート解放条件について法則性は見られねーなぁ……」
どの層でどの指令が出たかは完全に記録してあるのだが、そこに法則性は今の所見られなかった。
『空の裂け目』でゴールデンバニーを乱獲した時みたいな、分かりやすいフラグが見えれば楽だったのだが――
ちなみにゴールデンバニー乱獲方法は設定ミスだったらしく、後で修正されていた。
まあ使いたいだけ使わせてもらったので、別に構わないが。
「そうねえ。多分、B51F以降は通常の『転移石』じゃなくて『上級転移石』や『超級転移石』で進むのが王道なんでしょうね。そのためにわざわざ『転移石』が複数種類あるのね」
「まぁそうなんだろうな――『上級転移石』は『転移石』の倍でタイムリミットが一時間になるから、進むべき階層も倍の10層になる感じかな」
「恐らくそんな所よね。『上級転移石』の入手先は限られているから、各パーティーの進行速度は鈍くなるわね、きっと」
「ああ。屋台のミニゲームか、『アーズワース海底遺跡群』でとったアイテムとの交換だよな」
「ええ。屋台のミニゲームはハイスコアを出さなきゃならないし、貰える個数も一ゲームあたり一人一つ限定でしょ? 入手のハードルは結構高いわ。しかも一日に一個しか取れないし」
「けど、無いよりあった方が全然いいわな。俺とエミリーは全屋台で『上級転移石』は取ろうぜ。一日一個ずつな」
「そうね。まああたしと蓮ならやれるでしょ!」
「おう! で、それはそれとして、後の入手先はダンジョンに潜って交換アイテムと引き換えか――」
「『上級転移石』の交換アイテムを探すために『転移石』でダンジョンに潜るって事が増えそうね」
「実際、屋台でハイスコア出せない攻略班はそうするしかないよなー。意外と重要な意味を持つよなあ、屋台」
「そうね。『上級転移石』を取るためにダンジョンに潜るなんてタイムロスだもの。別口の供給ですべて賄えればそれが早いわ」
「問題はダンジョンが何層まであるかだよな……」
「そうよねー。そこは分からないから取れた分だけ『上級転移石』を突っ込むしかないんじゃない?」
「……それか、ただの『転移石』で10層ぶち抜けるくらい攻略スピードを上げるかだよなー」
「今のあたし達の構成と装備じゃあ、良くても7~8層が限度じゃないかしら? かなりゲート解放条件に恵まれたとしてもね」
「今日からあきらが帰って来てくれるから、もうちょっと火力は上げられるはずだ。なんせあの人攻撃しねーからな」
博愛主義者でベジタリアンだから、敵に攻撃しないらしい。
どうやってレベル上げたんだというのが謎だが、まあ誰かのPTに寄生して経験値を頂いたんだろうな。
あの人を寄生させてくれるPTがいる事が驚きだが……
「……まあそれが竜太郎のプレイスタイルだものね。何のロールプレイかは知らないけど、そういう楽しみ方もまたゲームだわ」
「んー何のロールプレイだろうな……はははは」
露出狂のロールプレイに決まっているのだが、そんな事をわざわざエミリーに言うのも憚られるのでお茶を濁しておいた。
「あたしにはできないから、あの自由さにはちょっと憧れるわね。勿論あの格好を真似したいわけじゃないけど」
「あープロとして金貰ってる以上、それなりに結果がいるって事だよな?」
「うん、そうよね。トッププレイヤーの一角にはなっておかないとまずいわよね。あたし自身の名誉のためにもね」
「それはそれで大変そうだなぁ」
「何でもそうだろうけど、プロとして仕事にしてしまうと、それなりの大変さはあると思うわよ? だけど自分で選んだことだし、充実もしてるわ。この異世界サーマルはバカンスだから、羽根を伸ばさせて貰ってるけどね」
と、エミリーはぐっと腕を上に持ち上げて背伸びをする。
それからこてんと、俺に背を預けてもたれかかってくる。
「蓮も一緒のチームでプロゲーマーやってくれたら頼もしいんだけどなー。本気で考えておいてね。あたしチームに蓮を紹介できるから」
「いやムリだ。俺英語出来ねえし」
「大丈夫よ。ウチは日本語出来るし――」
などと他愛もない会話をしているところに――
「おはよ~う♪」
猫なで声と共に、制服姿のあきらが俺達のいるソファーの対面に座った。
声と笑顔に反して荒っぽく腰掛けたため、ぼすっ! と大きな音がしていた。
よく沈むソファーだなー……わーい……
「お、おう。おはようあきら」
「あら、おはようあきら! 久しぶりね!」
「うん、久しぶりだね。今日はよろしくね? 楽しみにしてたの」
ゴゴゴゴゴゴゴ……!
あ、やべえぇまた闇のオーラが見える!
しかしエミリーは闇のオーラの無効化スキルを持っているので、平然としていた。
「あのね、あきら。あたしと蓮に嫉妬する必要なんてないわよ? あたし達幼馴染だからこうなだけなんだから。それに――」
「何言ってるのかな? わたしそんなこと思ってないよ? 平気だから気にしないで?」
にこにこ笑顔なのだが、頑として聞く耳は持たないという姿勢。
……うーむしかし、エミリーとあきらの相性が良くなさそうなのは、俺としてはちょっと悲しいものがあるなあ。
これから『アーズワース海底遺跡群』に攻略に行くんだが大丈夫かこれは……?
面白い(面白そう)と感じて頂けたら、↓↓の『評価欄』から評価をしていただけると、とても嬉しいです。




