第190話 暗黒憑依
「マズいわね――! 倒せない相手じゃないけど、時間が……!」
エミリーの顔に焦りが浮かぶ。
確かにこのままでは、倒し切る前にタイムアップを迎えそうな気配だ。
「ぬう――せっかくいい所だというのに……!」
シズクさんもエミリーと同じく。
だが俺や前田さんや矢野さんはそこまで焦っていなかった。
打てる手がある事を分かっていたからだ。
瞬発火力の鬼! いわゆるひとつのロマン砲!
「高代! 残りちゃちゃっと削っちゃって!」
「任せたわ、高代くん!」
「オーライ! ようやく俺の時代がやって来たようだな!」
俺は早速、大規模の『ディストラサークル』を発動。
残りMPを調整しつつ捨てにかかる。
「奥義を撃ったら『剣の舞い』頼みます!」
お兄様に事前申告しておく。
お兄様はあきらではないので、分ってくれてるとは思うが一応言っておいた方が安心だ。
しかしやっぱりソードダンサーはあきらがいいなあ。
何も言わなくても合わせてくれるし、可愛いし、非の打ちどころが無いからな。
こちらのお兄様は何しでかすか不安だし、ド変態だから話しかけるのも怖いし、非の打ちどころしかないからな。
早くあきらに帰って来て欲しいもんだ。
俺も我儘になったもんで、この学校に入った時は男同士でむさ苦しくも楽しくゲームしようと思っていたのだが、今やあの超美少女が隣でにこにこしてくれていないと、物足りなく思えたりもするのだ。
美少女ソードダンサーの存在は麻薬ですなあ。慣れると戻れないというか――
そんな俺の内心を知ってか知らずか、お兄様は無駄に腕組みでかっこつけたポーズを取った。
「うむ! 君と我が妹との連携も見ていたからな! 任せたまえ!」
どうでもいいが、ポーズなしに普通に答えられないのか。頭が痛くなってくる。
だがまあ――時間も無いしやる事はやるぞ!
「じゃあ行きます! 『ファイナルストライク』!」
『ファイナルストライク』を先出し発動。
そして、腰を落とし半身を捻った『抜刀術』の構えを取る。
俺の体が、真っ赤な炎の鳥――朱雀に包み込まれる。
『ターンオーバー』『爆炎タックル』『抜刀術』の組み合わせ!
「奥義! 『朱雀一閃』ッ!」
俺は炎に包まれたまま、デスチャリオットに高速突進!
そして、勢いそのままダッシュ斬り!
オオォォォーーー!
クリーンヒットし、デスチャリオットが悲鳴を上げる。
俺は高速で斬り抜けて、デスチャリオットの逆側に移動して止まっていた。
蓮の朱雀一閃が発動! デスチャリオットに5866のダメージ!
うむ! 今日もいいダメージだ!
当然ながら俺が握ったダマスカス製の『仕込杖』はキラキラした粒子になって消滅して行く。
うむ! 今日もさようなら、金!
だがデスチャリオットはまだ沈んではいない。俺の方に突進しようとして来る。
いきなり極大ダメージを与えたため、俺のヘイト量はエミリーを軽くぶっちぎっていた。
これはエミリーが頑張ってターゲットを取り戻せる範囲を超えている。
しかも俺のHPは奥義後はいつもの如く瀕死状態。一発貰ったら即死である。
「蓮あぶない! そっちに向いてるわよ!」
エミリーがそう警告してくるのも自然な事だろう。
だが大丈夫だ。
「ほいっ! 『ギルティスティール』!」
矢野さんが俺のヘイトを全部抜いて持って行く。
そして俺に向いていたデスチャリオットのターゲットは、あっさり矢野さんに移った。
矢野さんは装備を盾に持ち替え、完全ガード体勢。
エミリーの重騎士ほどではないが、盾でガードを固めればそう簡単には沈まない。
「あっ……!? なるほど優奈ナイス!」
エミリーが手を打っていた。
そしてお兄様が『剣の舞い』のモーションとは関係のない、変な踊りをはじめた。
何だそれは――男ソードダンサーだとモーションが違うのか?
「さぁ――我が祝福を受け取るがいい! 天よ地よ火よ水よこの者に大いなる加護を与えたまえ……!」
いやいやなんか言ってるが、効果発動してないし!
つまりこれ、スキルに関係のない単なる趣味の踊りだろ!?
「いやその動き関係ないでしょ!? 早くしてくれます!?」
『仕込杖』を再合成しつつ俺は叫んだ。
ツッコんだら負けだが、さすがにツッコんでしまった!
だって時間無いしさ! 急いでんだよこっちは!
「では『剣の舞い』!」
やっぱり『剣の舞い』のモーションは男女でそんな変わらないだろ!
まあともあれ、俺のスキルは全て再使用可能になる。
「『ファイナルストライク』!」
もう一発、行くぞ!
俺は再び炎の鳥に包まれて、高速ダッシュからの一閃をデスチャリオットに見舞う。
「奥義! 『朱雀一閃』ーーーッ!」
蓮の朱雀一閃が発動! デスチャリオットに5866のダメージ!
蓮はデスチャリオットを倒した。
オォォォ……オオォォォーーー!
デスチャリオットの身体がぼろぼろと崩れて行く。
よっしゃやったな!
デスチャリオットは暗黒憑依の構え――
んん!? 何だ? 倒したログは出たのに、まだ動くのか!?
これってあれか、ファイナルアタックってやつか!?
死ぬ間際になんか嫌がらせして去って行く的なアレだ。
一体何が――!?
俺達が身構える中、デスチャリオットの身体が小さな黒い光となり――
お兄様に向かって行き、その体に光が吸い込まれた。
次の瞬間、ポワンとお兄様の全身が黒い光に包まれた。
そしてそれも消えると、後に残ったのは――
「……ぬ?」
デスチャリオットが纏っていた、血染めのローブを着させられたお兄様だった!
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