第185話 日本の恥は姿を消してついて来てください
「! もしかして――!?」
俺は声がした水上コテージの屋根の方を見る。
フルフェイスの鉄仮面に、クリムゾンレッドの小さなスカーフマフラー。他は海パン一丁に、胸元には不本意ながら俺が入れた薔薇のペイント。
そんなド変態が、腕組みをして屋根の上から俺達を見下ろしていたのだ。
赤羽竜太郎(3-A)
レベル212 ソードダンサー ギルドマスター(真実の姿)
で、ででででたーーーー! 異世界サーマルに来てもいつもの変態ルックだ!
ここには学園外の人も、外国のプレイヤーの皆さんもいるのに日本のプレイヤーの恥を晒さないで頂きたいものである。
「うひいぃぃぃぃっ!? ことみー何とかしてえぇぇぇぇ!」
まるで家にゴキブリが出たかのように怯える矢野さんである。
矢野さん、アレ苦手だからなー。
アレに対するリアクションは一番女の子っぽいのが矢野さんだ。ギャルだけど。
いやギャルでも何でもアレは苦手でも仕方ないよな、変態だし。
「そ、そんな事を言われても――でもほら、この間見た中身の事を思い出せば少しは耐性が……」
中の人、イケメンだったからなー。
イケメンで家も金持ちで、既に会社の経営にもタッチしている出来る男なんだが……
残念な事だなあ。天はイケメンと出来る能力と露出癖を与えたんだよなあ。
その三物がフュージョンするとこうなるんだな……与えすぎて失敗したよな。
「だが待って欲しい! 中身などいない! 私は見ての通りの者だ! それ以上でもそれ以下でもないッ!」
と言いながらジャンプして、くるくる回転しながら俺達の近くに着地して来た。
「ひいぃぃぃぃっ!?」
矢野さんが思いっきり後ずさりしていた。
「わぁ~! あははははっ! すっごーい、絵に書いたみたいな変態ね! おもしろーい!」
エミリー的には結構面白いらしく、ウケていた。
「先生、一つ聞きたいのが、アレは国会議員の赤羽竜三の孫の赤羽竜太郎かね?」
「ええまあ……そうですねえ」
「なんとまあ――うつけそのものではないか。あの様子では、赤羽家の未来は暗いな……」
「その辺は私はノーコメントでお願いします。大事な学園のスポンサーでもありますし――」
と、シズクさんと仲田先生がこそこそ話し合っている。
取り合えずあまり絡みたくはないのだが――俺がお兄様に話しかける。
「あのー。何か用ですか?」
「うむ――妹から君達の手助けをするように頼まれた。人手が足りぬのだろう?」
あれ、赤羽さんは最近の事を知らないような――? 暫くゲーム内で会ってないけどな。
ああ、あきらが言ったのかも知れないな。
家の用事で色々パーティーとかセレモニーとかに出かけるけど、赤羽さんも一緒だって言ってたような気がする。
セレブの世界の事は良く分からんが、同じ位の良家のお嬢様だと、同じような所に顔を出さなきゃいけないものなのだろう。
だが――だからと言って助っ人がこのド変態ではなあ……
性能的にはともかく、見た目的な問題やメンバー間の相性の問題が――
俺は仲田先生をちらりと見た。
俺、前田さん、矢野さん、エミリー、シズクさんで五人。
PTは六人までなので、仲田先生が手伝ってくれるなら――
「いや、私はシズクさんをご案内に来ただけよ? 流石に君達のダンジョン攻略まで手伝ったら肩入れし過ぎで不公平だし、この後合コンあるし」
「おおおー。先生もやる事やってるんすねー」
「まあねー。夏くらい楽しみたいじゃない? たまにはね~」
「ならば私が六人目で問題はあるまい?」
「ま、まぁ……」
やっぱロマン砲とソードダンサーの相性は抜群だからなー。
PTを構成する上で一人はいて欲しいのは事実。
お兄様を雇うとすればジョブ構成は――紋章術師(ロマン砲仕様)、学者、空賊、重騎士、格闘家、ソードダンサーって感じだ。
シズクさんはジョブは格闘家なんだよな。
全体的にはまあまあなバランスか。
この構成でザコ連戦とかだと、俺が一番微妙になるか。
ロマン砲をぶちかます程ではないし、かと言って支援能力は大した事ない。
ザコを弱体しても所詮ザコというか、こういう場合は強化系の能力の方が喜ばれるし効率もいい。
今までなら――な!
ここは『エレメンタルサークル』の活かしどころだな――!
支援対象のMPまで消費させるのがネックだが、異世界サーマルなら神アイテムの浴衣さんがある!
というわけで女の子には浴衣を着て攻撃を頑張って欲しいし、回復役は男の方が実は都合がいい。
回復役は回復に手を取られて、あまり攻撃できないからな。
……まあまあニーズにはあってるんだよな、この人は――
「んじゃあ、お願いします」
と俺は頷いた、
「ええぇぇぇっ!? 一緒にいる所を見られたら恥ずかしいですし!」
矢野さんは悲鳴を上げていた。
「フフッ……だが待って欲しい」
いや何を待つんだか知らないが、とにかくお兄様はニヒルに笑っていた。
この人はこういうリアクションが嬉しいのだ。
変態だから見られてドン引きされるのが快感なのである。
「ま、まぁほら矢野さん。ダンジョンに入ったら専用エリアだから他からは見えねーし」
「うむ。街中では少し離れて物陰から付いてゆくのでお構いなく!」
「ええぇぇぇ~……」
と、まだイヤそうな矢野さん。
「だが待って欲しい。ならばこれでどうだ?」
とソードダンサーの『バニッシュフリップ』を発動させて姿を消した。
「ああまあこれなら――見えませんし」
と矢野さんが納得した。
しかし、見られるの大好きな露出狂が姿を消すとか、本末転倒では……?
まあこちらとしてはありがたいが――どういう風の吹き回しだ?
「よしじゃあ決まりね、行きましょ!」
エミリーが俺の腕を取り、歩き出そうとする。
「ちぇすとおぉぉぉ~!」
いきなりドンと何かが当たって来て、俺はその場にコケた。
「いってて……何だ――?」
「だが待って欲しい。済まないな、新作のステップを試していて激突してしまった。なかなか激しい動きでな」
いや姿を消した途端に何をやってんだよ、この人は――
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