第184話 夏といえばロマンスです
異世界サーマル――俺達の水上コテージ。
水着に着替えた前田さんが、同じく水着に着替えた矢野さんを後ろに乗せて、ファンタジー版ジェットスキーでそこらを爆走していた!
「あっはははは! なかなかいいわねー、これ!」
「ひいいぃぃぃっ!? うわちょっと速すぎですしぃぃっ! ちょっとスピード落としてことみー!」
「まだまだよ! まだ行けるわ! 限界まで機体性能を引き出すのよ!」
「いやあああぁぁぁっ!? 助けてえぇぇぇ~!?」
物凄い勢いで水飛沫を立てつつ、水面をバウンドするように疾走!
いや、実際勢いが出過ぎて高くバウンドしている。
だが前田さんのドライビングテクニックで何故か空中で錐揉み回転しつつも上手く着水。
更に爆走を続けてまた高くバウンド――という変態軌道を先程から繰り返している。
前田さんは実に楽しそうなのだが、付き合わされている矢野さんは半泣きになっていた。
「うわすっごーい! この子、出る所に出ればかなりいいセン行きそう……!」
エミリーが前田さんに感心していた。
エミリーも水着に着替えてジェットスキーで前田さんとレースしていたのだが、全く追いつかないようだ。
レースゲームが専門では無いらしいから、仕方がないのかも知れない。
ともあれそんな、水着の美少女達が戯れる光景が見られるテラスで――
俺はひたすら検証作業に精を出していた!
「『エレメンタルサークル』! 『エレメンタルサークル』! 『エレメンタルサークル』! 『エレメンタルサークル』! 『エレメンタルサークル』!」
「きゅ~。あかあおみどりきいろあお~」
リューが色を見て教えてくれた。
「おうありがとな、リュー。火氷風土氷っと」
俺は結果を『ディールの魔卓』の集計シートにメモする。
シンプルにだが『エレメンタルサークル』を連打して、各属性の発動確率の分布を調べているのだ。
検証の数が少ないと運に左右されるから、少なくとも千回単位のデータは取っておきたい所である。
「『エレメンタルサークル』! 『エレメンタルサークル』! 『エレメンタルサークル』! 『エレメンタルサークル』! 『エレメンタルサークル』!」
「みどりみずいろきいろきいろむらさき~」
「ふむ……風水土土雷――」
とまあこのノリで千回までは行くぞ! こういう地道な検証が大事なのだ!
取り合えず数百回まで試行回数を積み上げた所だが、現在見えている傾向としては――
発動する属性は8種類。火水土風雷氷光闇だ。
このうち火水土風雷氷の発動率が高く、それぞれ約15~16%程度。
光闇の効果はレアらしく、それぞれ2~5%程度だ。
確かに、火水土風雷氷の属性は武器攻撃にあきらのスカイフォールのような属性攻撃が付加されるだけであるのに対し、闇属性のサークルの場合は属性攻撃プラスそのダメージをHPとして吸収。更には吸収したHPが最大値を超えて溢れる場合はHP最大値のブースト効果が発生する。光属性の場合はそれがMPになる。
HPMPの吸収&上限ブーストの効果が付いている分、他の属性より上位という扱いで発動率が低いのだろう。
ちなみにHPMPの上限ブーストの効果時間は約3分と短いが、元々の上限値の倍まで上限を増やせるようだ。
ここに来る前にいつものトリニスティ島第一層で、アイランドバニー師匠相手に確認してきたからな!
効果の詳細や効果時間はこれで確定だ。
ここからは装備を変えたり、撃つ場所を変えたりして更にセット数を追加して、確率に変動が無いかを調べて行くべし。
完全にランダムなのか、確率を変動させる要因が存在するのか。そこの所を確かめないとな。
闇サークルや光サークルは結構使えそうだからな――これが良く発動する条件とかがあれば、ぜひ見つけたい。
特に俺が惹かれるのは闇サークルだ。
HPが上昇するという事はつまり、俺の奥義の威力が更に上がるという事を意味する。
暗器系アーツはHPが最大値に比べて少なければ少ない程ダメージが上がる。
HP最大値がブーストされれば、その分ダメージが上がるのである。
暗器系アーツを組み込んだ奥義も同じく、だ。
ロマン砲のロマンが更に加速するとは、何てロマンスなのだろう。
やはり夏といえばロマンスですなあ!
「よっしゃ次! 『エレメンタルサークル』! 『エレメンタルサークル』! 『エレメンタルサークル』! 『エレメンタルサークル』! 『エレメンタルサークル』!」
「きゅ~。あかむらさきみずいろあかみどり~」
「火雷水火風――っと。よし次行くぞ……!」
「それは一体何をやっておるのだ?」
俺の背後から声が聞こえた。
振り向くと昨日縁日のロボ格ゲーで会ったシズクさんと、それに仲田先生がいた。
仲田先生がこの人を案内して来たのか?
とにかく、せっかくなので『超級転移石』を一緒に使おうという俺の提案を聞き入れてくれて、今日こうして訪ねて来てくれたのだ。
俺達は夏休みだが、仕事とか大丈夫なのだろうか。
「あ、こんちゃーすシズクさん。新魔法の属性の発生確率を検証してたんですよ。いろんな属性が発動するらしいんで――」
「……属性?」
「あ、それはですねえ――」
と、隣の仲田先生が説明していた。ホントにVIPだなこの人。
「ほう……? 細かい話だが、それが不規則に表れるのを観察していると?」
「ええそういう事になりますね」
「まるで科学や何かの実験だが――それは楽しいのか? 高代君よ」
「はい楽しいですけど!」
「そういうものなのか――? ゲームとしては派手に戦ったりするのが楽しいのではないのか?」
「人それぞれじゃないっすか? 俺はどっちも好きですよ。ただ、事前にこうやってしっかり準備した方がより派手な活躍が出来るんです。っていうか俺の場合はやらないと、全然役に立たないジョブなんで……」
「ふむう――?」
「まま、彼は変わった生徒なので……でもこういう作業が苦にならないのは、研究職や分析職に向いているという資質と言えるかと。実際分析力という点では、全生徒中でも屈指の能力を持っている子ですから――」
「ほほう、なるほどな……まあいい。昨日の約束通り、こうして訪ねさせてもらったぞ」
「はい。じゃあ早速行きましょう! おーいみんな、シズクさんが来たから『アーズワース海底遺跡群』に行くぞー!」
俺はジェットスキーではしゃぎ回っている前田さん達に声をかける。
「「「はーい!」」」
というわけで水遊びと検証は切り上げて、水上コテージを出ようとした所で――
「だが待って欲しい――!」
上からイヤなフレーズが飛んで来た!
これはもしかして、ヤツが……!?
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