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第182話 VIP的な?

 今行われている試合の様子を見ると――ちょうど決着がついた所だった。

 実況役の声がその場に大きく響く。


「おおっと決まったあぁぁぁぁ! HPを半分以上残しての圧勝! さぁさぁこれで四連勝で『上級転移石』にリーチだあああぁぁぁ!」


 ここは若い女の声だな――おっちゃんNPCじゃないのか。

 それにしても何か聞き覚えがあるような……? と思ってその姿を確認してみる。

 あ――仲田先生かよ! こんな所でも実況役やってんだなあ!


「さぁさぁ次の挑戦者は誰かいるかなー!? このゲームは対戦専用、一回勝でも勝てば『転移石』! 五回勝ち抜きで『上級転移石』! 十回勝ち抜けば何と『超級転移石』をプレゼント! 『超級転移石』が貰えるゲームはここだけよ! 現在こちらのお姉さんが九回まで勝ち抜き中でーす!」


 と、勝ち名乗りを受けているのは二十歳前半くらいの女の人だった。

 ちょうど仲田先生と同じくらいだろう。

 肩くらいまでの黒髪の、純和風な雰囲気の美人だった。

 割と童顔なのだが、纏っている雰囲気はぱりっとしているので、ちゃんと年上に見えるという感じの人だった。

 俺達より年上なので、学園のプレイヤーではなく異世界サーマル限定でログインしている外部の人なのだろう。

 VRMMOに興味があってやりに来たゲーマーの人とかか?

 ここにいる奴等はゲームやり込んでる奴等ばかりなのに、その中で九連勝は凄いな。

 まあこのゲームに関して言えば、モ〇ルトレースシステム的な何からしいので、純粋な格ゲーの腕と言うよりリアルファイト力を試されされそうな気がしなくもないが。


 ともあれ、仲田先生がギャラリーの中から挑戦者を募るが、中々名乗り出る者は出てこない。一回勝てば『転移石』が貰えるので、勝てそうな相手とやりたいのが自然と言えば自然な考えである。

 九連勝中のこのお姉さんとやっても負けそうなら、様子見して勝てそうな相手の時に『転移石』を狙いに行った方がいいしな。

 だがそんな中で――嬉々として手を上げる誰かさんがいた! 俺の隣でな!


「はいはい! わたしー! わたしやりまーす!」

「……! おいおい相手すげー強いっぽいぞ!? いきなり行くのか?」

「ふふふ――今の私の心境を一言で表すね? 俺より強い奴に会いに行く! もしくはオラワクワクして来たぞ!」

「いや二言言ってるし! どっちかで分かるっての!」


 まあ、あきらはこういう所あるよな。

 こういう系統のゲームは上手いので、あながち無茶というわけでもない。

 手を上げてアピールするあきらに、仲田先生が気付いた。


「あら、青柳さん――!? えーとどうします? 私の一存で却下もできますけど……?」


 と、仲田先生が勝ち抜き中のお姉さんに尋ねていた。

 キャラネームは――『シズク』さんらしい。

 とりあえず仲田先生が思いっきり揉み手してへこへこしている所を見ると、この人結構偉いのか? 学校のスポンサーとか何かそういういうVIP的な感じか?

 まあ異世界サーマルが外部開放されている今は、そういう立場の人がお試しプレイしていても不思議ではない。


「構わんよ? お相手しようではないか。さあ少女よ、こちらへ上がってくるといい」


 随分時代がかった喋り方をする人だが、見た目は童顔で可愛い系なのでちょっと合っていない感じはする。まあゲームだからキャラ造りかも知れないが。

 何もゲームでリアルと同じ振る舞いをする必要は無いからな。

 赤羽さんのところのお兄様なんか、ゲーム世界を己の性癖のために120%フルに利用してるしなあ。

 正直あそこまで行くとドン引きだが、多少の非日常感を味わうというのは、それはそれで楽しい事だろう。いわゆるロールプレイと言うやつですな。

 片岡の従者プレイもその一環である。俺としてはあれにも引くが。


「はい、お願いしまーす!」


 あきらは嬉しそうに対戦台に走って行く。


「ふふふ――」


 と、シズクさんはあきらが対戦台に着くと笑みを見せた。


「随分楽しそうではないか? この世界と学校は楽しいのか?」

「はい、楽しいですよ?」


 あきらはにこにこと笑顔で応じている。


「そうかそれは結構。だが、手心は加えんのでそのつもりでな?」

「はいっ! 勿論です! 勝たせてもらいますからね!」

「はいそれでは、二人とも準備いいですか!? 構えて下さーい!」


 二人が対戦台に着いて、お互いに構えを取る。

 気のせいか、その二人の構えが結構似ているようにも見えた。


「3――2――1……はい試合開始ですっ!」


 仲田先生の声に反応するように、二人の操るロボが同時に拳を繰り出して行った。

 そこから始まるのは、一進一退の激しい攻防だった。

 シズクさんも強いがあきらも負けていない。

 俺の見た所、見につけた技量というか攻めのパターンの豊富さ、もっと言うと攻撃する能力はシズクさんが上、ただし反応速度であきらの方が上回っていて、それが防御の上手さとなって表れている。

 攻撃力はシズクさん。防御力はあきら。

 結果として、試合はほぼほぼ同じペースで両者のHPが減って行く。

 観客ボルテージも上がって行き、格闘技の試合を見ているのと変わらないような熱気が辺りを支配していた。

 そして――決着の時が来た。


「はああぁぁぁぁぁっ!」


 シズクさんのロボが繰り出した拳の乱れ打ちが、あきらのロボのガードを上から叩き、HPを削り切ったのだ。

 向こうのHPも残り1割くらいで、本当に僅差の決着だった。


「試合終了ーッ! シズクさんの十回勝ち抜きで『超級転移石』をプレゼントでーす!」


 わああああああ! と歓声が上がる。


「あー負けちゃったぁ。みんなごめんね~」


 そんな中、あきらがしょんぼりして戻って来た。


「いやあ惜しかったぜ、ナイスファイトナイスファイト」

「ええ。見応えがあったわよ」

「おもろかったですし! 気にしない気にしない!」

「また次来たら『超級転移石』取ってくれよ! 今度俺も取るからな!」

「うん……でも勝ちたかったなぁ~くやし~!」


 と、悔しがっているあきらにさっきのシズクさんが近づいて来た。


「そんなに怒らないでくれ――またいつでも相手になろう。これは君にあげるから、機嫌を直してくれると助かる」


 と、あきらに『超級転移石』をポンと手渡すのだった。


「えええぇぇぇっ!? も、貰えませんよこんな貴重なアイテム――!」


 あきらはびっくりして声を上げる。


「とはいえ私には使い方も分からんし、そのアテもないのでな。君の方が有効活用できるかと思ったのだが……」

「で、でも――」


 とあきらは困った様子である。

 横で聞いていて俺は思った事がある――なので、それをそのまま提案する。


「あのー。じゃあ、一緒にPT組んでこれの使い方と遊び方、見に行ってみます?」


 使うアテがないのなら、一緒に使えばいいじゃない!

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