第179話 浴衣ギャルとミニゲーム
「じゃじゃーん! どうどう? 似合う?」
あきらがニコニコしながらウォークインクローゼットから出てくる。
服は制服ではなく、置いてあった浴衣に変わっていた。
おお――いい眺めだなぁこれは。勧めた甲斐があるな。
「――シンプルに可愛いの一言!」
「きゅ~! あきら、きれー。きれー!」
リューも浴衣が好きみたいだ。確かに、柄とか鮮やかだからな。
「ありがと~♪ 蓮くんも似合ってるよ」
「そっか? あざっす!」
男用の浴衣も置いてあったので、俺も着替えていた。
「ゲームとは言え、浴衣なんて久しぶりだな――」
「そうだねえ。夏と言えば家でゲームだもんね?」
「ですよね! 夏休みは攻略も検証も捗るからなあ」
「だよねえ。思えば去年の夏休みも、一昨年の夏休みも、その前の年も一緒にゲームやりまくりだったね~」
「ああ。今思えば素晴らしい中学生時代だったな!」
「……小学生の時は、エミリーちゃんと一緒にやってたの?」
「四年生まではな。四年の終わりにエミリーはアメリカに帰ったから」
「そうなんだあ。それは楽しかった?」
「ああ! そりゃあもちろ……痛っ!?」
何か足を踏まれた!
「あ、ごめーん。ちょっと下駄が歩きにくくって」
てへぺろっって感じの表情だが、何故か背後に闇のオーラが漂っている感じもする。
「……い、いや大丈夫大丈夫。それじゃ行こうぜ」
「うん。それにしてもこの浴衣、結構いい装備だよね――」
「あ? そっちもか?」
防御性能は皆無なのだが、いい特殊性能が付いているのだ。
高い浴衣(♂)
種類:鎧 装備可能レベル:1 防御力:1
装備可能ジョブ:ALL
特殊性能:HPMAX+100 HP自動回復(10HP/S)
「何故かHP自動回復あるもんな」
「え? そっちHPなんだ? こっちMPだよ?」
「ぬ……!? 男女用で性能違うのか?」
「うんほら見て?」
高い浴衣(♀)
種類:鎧 装備可能レベル:1 防御力:1
装備可能ジョブ:ALL
特殊性能:MPMAX+50 MP自動回復(5MP/S)
「おぉ……マジだ!」
「これダメージ貰わないなら、かなりいいMP回復装備になれるねー」
「だなぁ。異世界サーマルから持って帰れないのが惜しいな」
「持って帰れないんだ? だから性能いいのかなぁ。まあわたしはMP使わないけど」
ソードダンサーは回復ダンスとかもAPで賄うからな。
ん? いや待てよ、無駄にMPが溢れて来るなら俺の『エレメンタルサークル』を受けて貰うには最適じゃないか!?
敵のターゲットさえ取らなければ、防御力が紙だろうと関係ないしな!
これは結構面白いものを見つけたかも知れん!
そうか『エレメンタルサークル』は浴衣ギャルを支援するための魔法なんですね!
「いやこれはMP使わない人こそいいかも知れん――ああ検証してぇ……! この辺モンスターいねえかな……!?」
「ええええ!? 先に縁日行こうよーーー!」
「ああ。でも途中で見つけたらちょっとだけやらせてくれ! ちょとだけ!」
「うんそれはいいけど~。じゃあ行こっか?」
で、俺達は水上コテージから出て――そこでお客さんと鉢合わせをした。
「お? 高代にあっきーじゃん! こばわー!」
「高代君のメッセージを見たから、様子を見に来てみたわ」
前田さんと矢野さんだった。
二人とも俺が送っておいたメッセージが気になって見に来たみたいだな。
「お。琴美ちゃん優奈ちゃん!」
「見てくれよ二人とも、これがココールが当ててくれたVIPルームだぞ!」
「おー凄いですし! 夏の間これ使い放題とか熱いですし!」
「ココールさまさまね――凄く素敵なところだわ!」
「こんなとこ、リアルじゃ一生来れそうにないですし! ゲームでもいいからメチャクチャ満喫してやりますし!」
この水上コテージのロケーションは女の子の心を掴むらしく、前田さんも矢野さんもテンション高めだった。
「ねえねえ、二人とも見てこれ! コテージの中に用意してあったよ!」
あきらがくるんと一回りして、浴衣を二人に見せる。
「おーいいですし!」
「可愛いわね」
「島の中で縁日やってるんだって! 二人も着替えて、みんなで行こうよ!」
「オッケーですし! 行きますし!」
「ええ分かったわ。じゃあ私達も着替えるわね」
という事で少し待って――浴衣ギャルが三人に増えました!
いやすげー華やかだなあ。うちのギルドは美少女揃いなので、こういう時のクオリティは半端ないのである。
「よっしゃ、じゃあ行きますか!」
「「「おー!」」」
と言うわけで、グリフォンタクシーを使って会場に移動!
会場に到着すると、そこは神社の境内のような場所に屋台が並ぶ光景だった。
スタンダードな日本のお祭りって感じか。
しかしこの異世界サーマルはエミリーがいるような外国の分校とも繋がっているから、そっちの人には新鮮だろう。
日本文化を楽しんでもらうって意味のイベントなのかな――と。
「わぁ――! すごーいこういうの初めてえぇぇぇ!」
「……」
まあ約一名、純粋な日本人なのにメチャクチャテンション上がってる人もいますが!
あきらは目をキラキラさせて! あちこちの屋台に走り回っている。
「ははは――あっきーはしゃいでますし……」
「こういう所行った事ないみたいだしなあ」
「いいお家だからって、自由が無いのは少し窮屈ね」
「ねえねえみんなー! これ食べてみようよー!」
あきらは、わたあめの屋台の前で手を振っていた。
俺達があきらに付き合って、全員でわたあめを食べていると――
「「「おおおおおおーーー!」」」
近くの屋台から、やたらと気合の入った歓声が聞こえて来た。
ん……何だ盛り上がってるな?
見てみると、射的の屋台のようだが――ちょっと様子が違った。
単なる射的ではなく、ガンシューティングのゲームだった。
そこにやたらと人だかりができているのだ。
そして店員のNPCのおっちゃんが、声を上げていた。
「さぁさぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 本日の設定ポイントは5万点だよ! クリアした人には『転移石』をプレゼント! そして10万点越えの人には『上級転移石』をプレゼントだよ!」
「何イィィ!?」
『アーズワース海底遺跡群』への突入用アイテムじゃねーか!
普通の『転移石』ですら一個5万ミラするのに!
そうかここは――ただのお祭り気分が味わえる場所じゃなく、『転移石』獲得のためのミニゲームが集まってる所なのか!?
そういや所々、やたら熱気に満ち溢れてる屋台があるんだよな――
やべぇこれは、ガチで取りに行くべしだ!
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