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第177話 セーブポイント

 ワープを進んで次の階層も、内部の雰囲気は変わらずだった。

 文様入りの四角い石のブロックで構成されたダンジョンである。

 そして次のワープの条件も同じだった。


 ピンポーン。

 ゲート解放条件。全ての敵を倒せ!


「また同じね! じゃあ行くわよ! キミは俺先に行って、敵をかき集めて来て!」


 エミリーが片岡に指示を出す。


「おう分かった!」


 片岡は『スプリント』を発動して走り出す。

 フロアを一巡りして、敵をかき集めて戻って来るのだ。

 その方が、残りのメンバーの移動距離は少なくて済む。

 そして全部片岡が連れてくるので、敵を探す事は考えずにただ倒すだけで良くなる。

 エミリーは範囲奥義の赤き災厄(レッド・ディザスター)も持っている。

 がっとかき集めて一斉に吹き飛ばす方が絶対に早い。トータルな攻略時間を切り詰める事が出来るだろう。

 エミリーなら硬いから囲まれても生き残るし、俺が『ディアジルサークル』でマラソンも出来る。

 そこそこの数が集まっても問題は無いだろう。一発目に死んだのは、あれは不幸な事故だったのだ。

 こうやってだんだん動きを最適化して行くべし!

 そんなこんなで片岡が敵を集めて来て、その間に十分AP(アーツポイント)を溜めたエミリーが赤き災厄(レッド・ディザスター)で吹き飛ばした。


 ――特に問題なくB2Fもクリア!

 続いてB3F、B4F、B5Fと敵の殲滅指令の連続だった。

 片岡が敵をさっくり集められるのと、エミリーの範囲攻撃が強力。それに硬くてHP高めの敵には俺のロマン砲が火を噴くので、4人だけのPTながらもそこそこのスピードで進めたと思う。

 ロマン砲を見たエミリーが笑って喜んでくれていて何よりである。

 そして、B6Fに侵入した所で30分だった制限時間が残り3分になっていた。


「もう時間ねえよな――セーブポイントとやらはどこだよ!?」


 セーブポイントまで辿り着いてセーブしないと、次もまたB1Fからになるシステムだ。

 何フロア進めばセーブなのか分からないんだよな。


「お……何かあるぞ高代!」


 ワープの出現位置は狭い通路だ。

 真っすぐ進んだ突き当りの小部屋に、何かの宝玉が置かれた台座が設置されていた。

 お。ご丁寧に上に名前が浮かんで、セーブポイントって書いてるぞ!


「よっしゃセーブポイント来たな!」

「やったわね! 今回の攻略は成功って感じよね」


 俺は早速『セルリアの銀盤』を取り出して、セーブポイントに翳してみる。


 セーブしました! 次回以降はこの階層から再開が可能です!


「よーしよし! 行けた行けた!」

「これを繰り返して、どんどん深い所に進むコケな~」

「で、最後まで行きゃあ『レインボーガード』の交換アイテムが手に入るってわけだな」

「きっとボスもいそうよね――どんなのかしら、わくわくするわね!」

「だな! よし、制限時間まで適当に敵でも狩っとくか」


 というわけで残り時間を適当に潰すと、俺達は強制ワープでダンジョンの外へと排出された。

 とりあえず一回行ってみて、大体の雰囲気は掴めたな。

 各層ゲートの開放条件は他にも色々ありそうだが、その辺は追々情報を蓄積して行かないとな。

 で、パターン解析して法則性が見いだせればいいな。

 自分の好きな解放条件を狙って出したりできると素晴らしい。


 もう一回行っても良かったのだが、ココールと片岡は用事があるらしいので続きは明日以降に持ち越す事にした。

 4人PTで制限ぎりぎりだったので、流石に俺とエミリーだけでは次のセーブポイントまで辿り着くのは難しいと判断した。

 明日になったら前田さんや矢野さんも来るだろうし、焦る事は無い。

 あきらは数日来れないって言ってたから、もうちょっと待ちだな――

 とりあえず三人にはこの水上コテージの事はメッセージで知らせておいたから、ゲームにログインしたらメッセージを見てここに来てくれるだろう。


 とりあえず俺としては、明日また『アーズワース海底遺跡群』に行く前に『エレメンタルサークル』の検証をしておきたい所だ。

 発動する属性はランダムのようだが、正確には何種類あって、どんな確率分布なのかを調べたい。

 割と複雑な仕様をしている魔法なので、検証のし甲斐もあるというものだ。

 第一印象では、PTメンバーへの支援として使うには、むしろデメリットになる場合も多いので微妙。自分のみサークルの効果を受けて追加攻撃を出す分には、まあ使えなくもない? という感じだ。

 総じてソロ能力をちょっとプラスする趣味的魔法と言ったところだろう。

 こういう困ったちゃんを活かして輝かせることこそ、俺の喜び!

 やりがいがあるってもんですなあ!


「それじゃあおいら達は帰るコケー。まただコケ~」

「そんじゃーなー。また寄らせてもらうわ」

「おうお疲れさーん。いつでも来いよ!」

「ココちゃん片岡くん、ありがとね~。楽しかったわよ。またね~」


 エミリーは帰って行くココールと片岡に、にこにこと手を振っている。

 水上コテージには俺とエミリーの二人が残る事になる。


「さて……と。じゃあ今日のデータを纏めとくか!」


 俺はリビングのソファーに着くと早速『ディールの魔卓』を起動する。

 これはゲーム内で使えるノートPCといった所である。


「そうね。って言ってもまだB5Fまでだし、そこまで多くの情報は無いわよね」


 エミリーも付き合ってくれるらしく、俺の隣に座った。

 俺はリューがドラゴンレコーダーで出力したログも参照しつつ、出てきた敵の種類やゲート開放条件のリスト、それから各階層のマップの構造などをまとめて行く。

 マップ構造については恐らくランダムなのだろうが――

 ランダムと言いつつ何らかの法則があるのはゲームの世界ではよくある事。

 なので人より頭一つ先の攻略を目指すのであれば、こういう細かい部分を深掘りして行くのが大事である。

 俺は記憶を頼りに複数の正方形を組み合わせたマップをPC上で製図して行く。


「あれ――ここどうだっけな……?」

「右に曲がり角があって、三ブロック分先が行き止まりだったわ」

「お。さすがエミリーだなぁ! ナイス記憶力、さすがプロゲーマーは違うな!」

「ふふふっ。でも蓮の方が覚えてる範囲が広いわよ? 蓮なら絶対あたし以上になるわ。そういう事は考えないの?」

「うーん……あんまり考えたことねえなあ」

「そう。まあ日本ってEスポーツの分野じゃ遅れてるもんね」

「っていうか今は、このゲームでロマン砲を極める事しか考えてないからな!」


 まあリアルな話将来どうするかといったら、プロのゲーマーに興味が無いわけではないが……仕事としてやるなら、ゲームを作る方に興味があるかもなあ。

 それもどうなるかは分からないが――


「あははは、楽しそうねー。そういう所、蓮は全然変わってないのねー。今日も楽しそうにやってたし、おかげであたしも楽しかったわ」

「何だよ? プロゲーマーは楽しくないのか?」

「楽しいわよ。けどまあ、そればかりじゃなくなったわよねぇ。このゲームでも蓮みたいにあえて不遇ジョブ使ってやり込むとか、やり辛いし――ある程度プレイヤーとして結果を残さなきゃだから……本当はあたしも紋章術師気になったんだけどねー。まあ重騎士も気に入ってるわ」

「なるほどなあ。仕事としてやる事の悩みってわけだ。大人な悩みだなー」

「ふふふ。だから蓮を見てると気持ちいいわ。清々しいくらい好きにやってたしねー」


 と、エミリーは俺の腕に腕を絡めて、こてんと肩に首を預けてくる。

 うーむ……昔から結構こういう所あるからなーエミリーは。

 気になってはいけないのだが、気になってしまうなあ……

 日本人とアメリカ人の人との距離の違いってのもあるんだろうが――

 エミリーにとっては兄妹みたいな感じでやってるんだろうけどな……


「……」


 俺はあえて何も言わず、空いた片方の手で『ディールの魔卓』を操作していたが――


「あら? こんばんは!」


 と、エミリーが誰かを見つけたのか声をかけていた。


「あ、こ、こんばんは……」


 そう面食らったかのように応じていたのは――制服姿のあきらだった。

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