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第173話 出オチ

「よし行くぜ――!」


 洞穴の奥に進むと、そこには某有名観光地の真〇の口よろしく、壁にあしらわれた大きな石の顔面があった。

 ライオンともトラとも言えるような恐ろしげな獣の顔をしており、牙の生えた大きな口の奥が黄緑の光をたたえていた。


「こんにちは♪ 中に入りたい人は、私の口に『転移石』を投げ入れてね♪ 通常の『転移石』なら制限時間は三十分。『上級転移石』なら制限時間一時間。『超級転移石』なら何と二時間だよ♪ ちなみに一日に中に入れる回数は一人五回までだよ。ご利用は計画的にね♪」


 まさかのアニメ声の女の子の声!?


「……なんか調子狂うコケな~」

「ああ。そうだな――まあとりあえず普通の『転移石』で」


 俺は言われた通りに『転移石』をアニメ声のライオンヘッドの口に放り込んだ。


「ありがとぉ♪ じゃあ、どこから始めるのかな? 『セルリアの銀盤』があれば、途中でセーブしておいた場所から始められるよ♪」

「何だそれ? 持ってないけど――?」

「ああ初めてのお客さんだね。じゃあこれをどうぞ♪」


 ライオンヘッドが口から銀色の円盤のようなものを吐き出した。

 なかなか凝ったデザインで、綺麗な幾何学模様が彫られている。


「中のどこかにセーブポイントがあるからね。それにこの『セルリアの銀盤』をかざせば記録がセーブされるから、次回はそこからスタートできるよ。当然奥に行けば行くほど先に進むのは難しくなるけど、その分いいアイテムが出る確率が上がるよ! 中にはまだ誰も知らないアイテムもあるかもね――頑張ってね!」


 なるほど、基本的に中にあるセーブポイントを目指して進み、記録を徐々に伸ばして深い階層を目指していくわけだな。

 どのくらいの間隔でセーブポイントが配置されているかは分からないし、各階層ごとのクリア条件がどんなものかも分からないが――

 まあそれは、行ってみればすぐに分かる。

 百聞は一見に如かずだ。だが一見したならばきっちりデータを取っておき、解析&検証を怠るべからず! それが検証厨というものだ。


「では、よいダンジョンライフを! お客様をごあんなーい♪」


 目の前がぐわんと歪んで行く。異世界サーマルに来た時のようなワープだ。


「さぁいよいよ始まるわね!」

「ああ楽しみだな!」

「希美様のために調査できるだけするぜ!」

「コケ~。おいらまで来ちまったが、来た以上は頑張るコケ~!」


 そして俺達の目の前の景色が歪んで変わって行き――

 歪みが元に戻った時には、そこはもう別の場所だ。

 青黒い石の壁に覆われた、四角い部屋の中。

 壁も天井も、細かく文様が刻まれた正方形の石を敷き詰めたような構造になっている。

 正方形の石のブロックで作った巨大な構造物――そんな感じだ。

 そしてその中に――乗車率100超えの電車内くらいの密度で、茶色いスライムがうじゅうじゅとひしめき合っていた! その数は優に数十を超えている!


「な……!? 何だこれ!?」

「な、何よこれ聞いてないんですけどっ!?」

「うおおおおおっ!? 何だこれ罠か!?」

「コ、コケー!? えらいこっちゃコケ~!?」


 じゅるじゅるじゅるじゅるじゅるじゅるじゅるじゅるじゅるじゅるじゅるじゅる!


 スライムは当然そのど真ん中に現れた俺達に反応し、一斉に襲い掛かかって来る。

 大集団による出待ち奇襲だ、ダメージログがとんでもない勢いで流れて行く!


 マッディスライムの攻撃。蓮に31のダメージ!

 マッディスライムの攻撃。蓮に22のダメージ!

 マッディスライムの攻撃。蓮に19のダメージ!

 マッディスライムの攻撃。蓮に28のダメージ!


 マッディスライムの攻撃。エミリーに13のダメージ!

 マッディスライムの攻撃。エミリーに14のダメージ!

 マッディスライムの攻撃。エミリーに15のダメージ!

 マッディスライムの攻撃。エミリーに20のダメージ!


 マッディスライムの攻撃。真一に55のダメージ!

 マッディスライムの攻撃。真一に54のダメージ!

 マッディスライムの攻撃。真一に66のダメージ!

 マッディスライムの攻撃。真一に70のダメージ!


 マッディスライムの攻撃。ココールに256のダメージ!

 マッディスライムの攻撃。ココールに288のダメージ!

 マッディスライムの攻撃。ココールに222のダメージ!

 マッディスライムの攻撃。ココールに266のダメージ!

 ココールは力尽きた……


 ダメー! 生身のココールに直接攻撃はダメー!


「と、とうとう天に還る時が来たようだコケ……」

「ココーーーーーールっ!?」


 死んだ! 開始三秒で死んだ! 秒殺にも程があるだろどうなってんだこれは!?

 と、そこでピンポーンという音と表示されるシステムウィンドウ。


 モンスターハウスだ!

 どうやらこの階層にはモンスターが大発生しているようだ!


「うるせー知っとるわぼけえぇぇぇぇぇぇっ!」


 俺は思わずシステムメッセージに突っ込んでいた。

 無情なメッセージはさらに続く。


 こんなことはめったに起きない。なんて運が悪いんだろう!


「いや一発目ですけど!? どんなクソゲーだよって思ったぞ!」


 ゲートは既に開いている!

 とにかく早く次の階層へのゲートを探して逃げ込もう!


「それしかねえわな――!」

「あたしが囮になるっ!」


 エミリーが範囲ヘイト獲得(タウント)スキルの『名乗り』を発動。

 その場に詰めかけるスライムたちが一斉にエミリーへと集中する。


「よしここで――! 『ディアジルサークル!』」


 リューに向けて鈍足効果を持つ『ディアジルサークル』を発動。

 したつもりだったのだが――


「ん……!? 発動しない!?」

「うぉ何だこれ!?」


 声を上げる片岡の足元が赤い光に包まれていた。

 これは何かのトラップか!?

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