第171話 ゲーマー共の攻略レース
片岡から情報を聞いた俺達は、早速『アーズワース海底遺跡群』の入口へと向かった。
島の中央部にある遊園地的エリアの中で、さも遊園地のアトラクションの一つですよという感じで、洞穴の入り口が開いていた。
ここがリアルな遊園地なら、この奥には地下空間を巡る的な乗り物があるんだろう。
しかしここは、夢の国の楽しいアトラクションではない。
期間限定かつ個数限定の目玉アイテムを目指して、ゲーマー共が攻略レースを繰り広げる戦場である。
探索を終えて出て来た者はその内容について反省会をし、これから行く者は攻略法やパーティ構成について話し合う。
あくまでゲームは遊びなのだが、遊びでは済まされないような熱気が支配していた。
やはり目玉アイテム『レインボーガード』の性能が、皆の目の色を変えさせているのだ。
そしてそんな中でも特に熱くなっている集団が……
「いい、雪乃。今度ばかりは本気で協力するわよ! 分かってるわね!?」
「ふん。いいだろう――あの『レインボーガード』の性能は、対人戦を極めるにあたっては必須だからな。アイテム厨でなくとも欲しがらざるを得ん。そのためならお前とだって手を組んでやる」
雪乃先輩とほむら先輩だった。
宿命のライバルが劇的に和解したみたいな雰囲気で、握手を交わしている。
それを見たそれぞれのギルドのプレイヤー達が、おおっと歓声を上げ拍手していた。
先輩達も、ギルドメンバーも動員して本気で攻略しに来てるな。
お互い大手のギルドのギルドマスターで動員力もあり、更に双子で同じ家に住んでいるのだから予定も合わせやすいだろう。
二人してこの夏は家に籠ってゲーム三昧って感じだな。
今は夏休みなので、予定が合う合わないは攻略メンバーを揃える上で結構重要になる。
ウチなんかあきらも前田さんも矢野さんもいないからな。
「予定していた家族旅行は中止ね。行ってる場合じゃないわ」
「無論だ。これより重要な事は無いからな」
「じゃああんたが、お父さんとお母さんにそれを言ってね。任せたわ」
「それは断る。お前が言うがいい。言い出したのはお前だ」
「はぁ!? あんたが一応お姉ちゃんでしょ、なら姉妹を代表しなさい!」
「都合のいい時だけ姉扱いするな! 厳しい交渉になるのは間違いないんだからな――! よかろう、こうなったら――」
「「ジャンケンぽんっ! あいこでしょ! あいこでしょ!」」
熱いジャンケンバトルが始まっていた。
気持ちは分からないでもないが、旅行の予定があるならそれは行ってあげればいいのに――とちょっと思った。
俺なんか、これを見越して初めから夏休みに何の予定も入れてないからな! 抜かりはないのだ!
「あいこでしょ! やったー! 勝ったわ! はい雪乃、あんたがお父さんとお母さんに言うのよ! えげつないくらい怒られるといいわ!」
「くっ……! 仕方あるまい――! こうなれば旅行までにクリアするのみだ!」
「いや、直前に言ったら余計怒られるような……」
と、見ていた俺が突っ込むと二人ともこっちを見た。
「おお、蓮か。やはりお前は聞きつけて来るだろうなと思っていたぞ」
「俺には旅行とかの縛りは無いですからね。夏休みはひたすらゲームできる環境を整えてますんで!」
うちの場合好きな事をとことん突き詰めろと言われているので、ひたすらゲームやりたいから旅行には行かないという主張が通るのである。
まあ親父と母さんはどっか行くって言ってたような気がするが。
「ふふふ、今回は手は組めないけど、やっぱり君は手ごわいわね。でも負けないわよ!」
と、ほむら先輩が不敵に笑った。
「済まないな蓮。組んでみたい気もするが、もう攻略メンバーを決めてしまったのでな」
「このダンジョン、PTのレベルによって敵のレベルも変わるみたいなのよね」
「そうなんですか。レベルに見合った敵が出てくる、と――」
「ああ。それによって誰が入っても近い難易度を確保する仕様のようだが、高レベル帯の方がこちらの装備やアーツの種類は豊富になるからな」
「『レベルアジャスト』で下げちゃうと、大量にいいアイテムがあっても高レベル用のが使えないからね」
「実際どのレベル帯で挑むのが一番有利なバランスかは分からんが――せっかくなら私達のフルスペックで臨んでみたいというわけだ」
「なるほどなるほど――」
まあ確かにそうだろうな。
『レベルアジャスト』でレベルを合わせる時点で、タレント枠を1つ『レベルアジャスト』で持っていかれるわけだからな。
それだけでも本来の戦力からダウンしていると言える。
ガチンコの攻略なら、貴重なタレント枠を『レベルアジャスト』で潰すのは勿体ない。
その分何か別の役立つものをセットすれば、それだけ攻略確率が上がる。
小さい事に思うかも知れないが、そういう小さな事の積み重ねによって結果が大きく変わって来るのだ。疎かにしてはならない。
小さなことからコツコツと! である。
「了解です。俺達は俺達で頑張るんで、競争ですね!」
「ああ、負けんぞ、蓮!」
「じゃあね、そっちも頑張りなさいよ」
と言って、雪乃先輩とほむら先輩達は洞穴の奥の方に進んで行った。
「うーん、先輩達も気合入ってたな……」
ある意味当然だな。『レインボーガード』の性能が性能だからな。
俺もうちのギルドで一つは是非確保したいところだ。
あきらが今後気兼ねなくゲームできるためには絶対必要だし、アイテム属性がOだけなので他人に渡すことが可能だ。
性能的にタレント装備数+1が欲しい時は、借りて使い回すことが出来るのだ。ギルド全体として戦力アップになると言える。
誰かのタレント枠が1つ多いおかげで劇的に状況が変わる事って、突き詰めると多分あるからな。
工夫の余地が増える事はいい事である。
「じゃああたし達も早速入ってみましょうよ、蓮!」
「おう! 行ってみようぜ、とりあえず偵察だ! 中を見ない事には始まらん!」
と俺とエミリーが洞穴の奥に進もうとするが――
「待った、高代にエミリーちゃん!」
「「ん?」」
俺とエミリーが揃って片岡を振り向く。
「中入るには、入場料代わりに転移用のアイテムを買わんとダメだぜ」
「ああそうなのか、どこに売ってんだ?」
「……あれだ」
と、片岡が指差すのは、とんでもなく長く伸びた行列である。
まるで二時間待ちのジェットコースターに並ぶ行列だった。
こんな所まで遊園地っぽくしてもらわなくてもいいんだが――
「……並ぶか」
「仕方ないわね――」
俺達は列の最後尾に並ぶ事にした。
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