第169話 幼馴染の今
「コケ―。エミリーは蓮の幼馴染だコケか~」
「そうなのよ! まさかこんな所で蓮に会えるなんて、やっぱり地道な検証をしてるといい事があるってジンクスは本当よね!」
「何だそりゃ、聞いた事ないコケよー。ほんとに蓮みたいな事言う子だコケ」
「ありがとう、褒めてくれて! ねえ、蓮?」
「ああ。検証は大事だからな、全ての基本とも言えるしな」
「コケ―。類が友を呼んだコケー」
「ふふっ。仲良かったからね、趣味が合うのよあたし達」
と言いつつ、エミリーは隣に座る俺の腕をすっと取る。
これがアメリカンスタイルなのだろうが、距離が近いなーエミリーは。
子供の頃はもっと内気で大人しかったような――?
まあアメリカに帰って、ちゃんとアメリカ人っぽくなったという事で。
俺達は海から上がって水上コテージに戻ると、リビングのソファーで話をしていた。
流石のVIPルームだけあって、内装も豪華である。
リビングの壁に掛けられているアンティーク調の大きな鏡のようなものは、これは実は大画面のスクリーンであり、テレビも映れば映画も見れる。
『ストリンの魔鏡』というゲーム内アイテムなのだが――普通に手に入れようとすれば相当、高い。しかも最大サイズの最高級品だ。
『ストリンの魔鏡』は、リビングだけでなくコテージ全ての部屋に設置されており、それだけでも莫大な価値がある施設である。
更にはゲーム内で使えるノートPCである『ディールの魔卓』も各部屋に標準装備だ。
一々ログアウトしなくても検証解析の作業が捗るのは素晴らしい。
この南の島の豪華リゾートのVIPルームで検証に精が出せるとは、何て贅沢なのか!
「しかし、いいわねーここ! こんな広くてきれいな所で検証設備もバッチリ整ってるなんて、最高じゃない!」
「良かったらエミリーも好きな部屋でもモノでも使えよ。俺達だけじゃ使い切れないしな」
「わお! 助かるぅ! まだ『ストリンの魔鏡』も『ディールの魔卓』も持っていなかったから!」
と、エミリーは早速空いている『ディールの魔卓』を持って来て、いじくり始めた。
諸々の検証作業をするために必要なセットアップがあるからな。
かく言う俺も自分用の『ディールの魔卓』をセットアップ中である。
「蓮、蓮……! ちょっといいコケか?」
と、ココールが耳打ちしてくる。
「ん? 何だよ?」
「おせっかいかも知れんコケが、勝手に決めていいコケか……? あきらに聞いてからの方が――」
「え? 大丈夫だろ、あきらはそんな細かい事気にしねえよ。同じゲーム好きだしな」
「コケ―……細かい事なのかコケ……?」
「まま、それにあきらは向こう何日かこっちには来れんらしいしな」
「だったら余計に、あきらの留守中の行動には気を付けた方が……」
「大丈夫大丈夫。検証好きに悪い奴はいないって言うだろ?」
「知らんコケよ、初耳だコケ~。まあ蓮がいいならおいらは構わんコケが……」
「おう! なら決まりな!」
「コケ―」
こちらの話が着いたところで、エミリーが声を上げる。
「あーこれOSが日本語版? 英語版に切り替え出来ないかなあ?」
「ああ、確か――ここの設定で出来るぞ」
「おっ。ありがとう、蓮。よーしじゃあ早速表計算のマクロを――」
「あ、俺が作っといたやつ使うか? インポートできるだろ」
「さんきゅ~。じゃあ頂戴。蓮が作ったやつなら信頼できるしね」
「どうだろうな。会うの久しぶりだし、今のお前が満足する出来かどうかは――」
「んー……うんうん全然使える! やっぱりさすが蓮ね!」
「そりゃ良かった。しかし、いつの間にUW始めてたんだ? 全然知らなかったぞ」
「つい最近。世成学園のアメリカ分校からスカウトされてねー。蓮が世成学園に入ったって事はメールくれたから知ってたし、いい機会だなって。こっちから連絡しようって思ってたけど、その前に会えちゃったわね」
「スカウト? あーそうか、エミリーってあれだもんな。プロのゲーマー」
海外の方がそういうの盛んだからな。
エミリーからメールで、プロのゲーマーになったというのは少し前に教えて貰っていた。
一年前くらいだったか。俺より熱心にエミリーの活躍をチェックしている親父によると、その世界では若手の注目株なのだそうだ。
この通り見た目も可愛いので、人気も高いらしい。
「ええ。まだまだ駆け出しだけどね。本当は学校には行かずにプロゲーマーに専念するつもりだったけど……これも仕事といえば仕事だし」
「要はこう、イメージキャラクターっていうか、広告塔になってくれって事だろ?」
「ええ。そういう事。タダどころかお金貰って勉強もゲームも出来るのはありがたいわよね。いずれもっとVRMMOが普及したら、VRMMO内でのバトルがプロゲーマーの競技化して行くかもしれないし――時間の先行投資と言うか、勉強になるわよね」
「なるほど――まあエミリーはうってつけだよな……ちょうど学生の年齢だし、人気のプロゲーマーで見た目も可愛いし」
「わお! 蓮が生身の女の子の事可愛いって言うなんて成長したわねー、よしよし。彼女でもできて、女の子を褒め慣れたのかしらねー?」
「撫でるな撫でるな。子供じゃねえんだから」
あきらのようにほっぺたをつんつんされないだけ、まだましだが――
「じゃあ、異世界サーマルにいられる間はここを使わせてもらうわね。久しぶりにいっぱい一緒にゲームしよ!」
「おう! もちろんだぜ!」
「じゃあ何して遊ぼっか?」
「そうだな――何の検証をするか……」
「いきなり検証!? いいけどせっかく可愛い幼馴染に再開したんだから、ちょっとはムードってものを――」
「おーい高代ー帰ったぞー」
と、一人で偵察に出かけて行った片岡が水上コテージに戻って来た。
「ん? 何だ片岡かよ」
「何だとは何だ。せっかく情報を持って来てやったのによ」
「おお? 何だ?」
「お前が捜してた紋章術師用の新魔法な。こっちでも取れるっぽいぜ、海底遺跡のダンジョンでな」
片岡はそんな報告をしてきたのだった。
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