第16話 VIT極振り
「え? 変?」
「普通紋章術師が一番意味なさそうなVITに全振りしようとしてたら止めるよね?」
「けどよ、紋章術師を一撃特化の攻撃役に育てようっていうのがコンセプトだろ?」
「だったらSTRかDEXに振らないとじゃない?」
「そうかなー。STRは物理攻撃力とガード削りを起こす判定だよな? DEXはクリティカル率と回避判定回避」
ガード削りについて。これは攻撃側の武器のガードブレイク性能プラスSTRと、防御側の武器あるいは盾のガード性能プラスVITの比較で、攻撃側優勢の場合に発生する。
ガードブレイク性能もガード性能も両手剣や両手斧の重量級武器の方が高めに設定されている。ガード性能だけは当然盾が一番高くなっている。
回避については、攻撃される側とする側のAGI-DEX差が大きいと起こりやすい。
AGIに特化すれば、攻撃をかなりの確率でスウェイすることも可能だ。
これがあるから、武器攻撃を使いたいプレイヤーはDEXのステ振りを無視できないわけだ。
物理攻撃にはSTRもDEXも大事。
バランスが重要で、永遠の悩みどころってやつだ。
「うんうん。攻撃役なら重要だよ?」
「でもどうせ通常攻撃なんてするつもりねーし。暗器のアーツか奥義だけなら、回避無効ついてるから命中率は気にしなくていいからいらんぜ。VITは最大HPにも関わって来るからな。最大HPが増えればHP1の時の『抜刀術』の威力も伸ばせるし」
「え? この先も通常攻撃一切封印で行くの?」
「杖の打撃なんてしょぼいしな、それ当てるためにステ振るのはもったいねえ」
「先に『仕込杖』抜いて剣にして戦うとかは?」
「それやると『抜刀術』撃てなくなるっぽい。手の内を見られたら負け的な」
暗器ってリアルには不意打ち用の隠し武器だから……以下同文。
「そうなんだ?」
「それに、剣抜くと紋章術師は剣の適正ないからな。剣アーツ撃てないし、そもそも不適性で攻撃が当たらんという……まともに使おうとすると『皆伝の証<片手剣>』のタレントをつけて、十分にDEXを育てて――って感じになるわな」
「うーんそこまでやるなら、普通の剣使った方が良くなっちゃうかな?」
「だな。両方活かそうとして、杖でぽこぽこ殴りながら『抜刀術』の撃ち時を見計らうなら、その時間もずっと剣で殴り続けてた方が総ダメージで上になるからな。本末転倒ってやつだわな。しかもそこまでやった所で、紋章術師の基本ステが低すぎるから他の前衛ジョブに比べて弱いという……」
「やっぱ使い辛いねえ、『仕込杖』」
「完全に同意。まともに運用できるのは『ターンオーバー』で任意にHP減らせる紋章術師だけだと思うぜ。その紋章術師としても、中途半端な使い勝手の良さを求めちまうと特徴が消えて腐る武器だけどな。回避無効で、モーションを当てさえすればいい『抜刀術』や『デッドエンド』の一撃をどこまで高められるかが勝負なんだよ。やっぱ中途半端なゼネラリストより、一芸に特化したスペシャリストを目指すべきだと思うんだよな!」
と熱く語る俺を見て、あきらは何だか嬉しそうににこにこしていた。
「ん? 何だよ?」
じーっと顔を覗き込まれると、何か緊張するんですが。
「んー? ほら、今までやってたゲームだとチャットの文面だけで表情は見えなかったでしょ? こういうとき、こんな表情してたんだなあって」
「どんな表情だよ?」
「すごい嬉しそうだよー。何かカワイイかな~♪」
ほっぺたをつんつんされた。
「やめい。何か恥ずかしいだろ」
「えー。いいじゃん、わたしのことは散々辱めるくせにー」
「いや人聞きわりいなそれ!」
「ふふーん。で、話戻るけどSTR上げよりVIT上げの方がダメージ伸びるんだ?」
「期待値は大差ないっぽい。そうするとダメージ以外の部分で、VITのがメリット大きいんだよな。ガード強度が上がるだろ? HPも伸びるし。奥義前にやられるのが一番まずいから、生存力を上げるに越したことはないし、固くなるって事は撃たせる前にやる作戦で来られた時の対策にもなる。というわけでVIT上げが攻防の一石二鳥かと」
「対人戦なら、撃たせる前にやる作戦とかもされるかもね」
「そういうこと」
「なるほどー。でもあんまり威力だけ上げてもオーバーキルになり過ぎてもったいなくない? この間B組の人と戦った時も既にオーバーキル気味だった気がするけど?」
「あーまあその点はそうだな。実際飛距離100メートルでホームランのところを常に150メートル弾狙いに行く的な感じにはなるわな」
「誰にでも野球に例えて通用すると思わない方がいいと思うよお? わたしは慣れてるし意味わかるけどー」
悪いな、癖なんだよ。親の影響でさ。
「でもそれでいいんだよ。飛距離はロマンだからな。同じホームランでもロマンがある方が話題になるし人気出るから。俺はボンクラーズ筆頭の紋章術師が輝いて人気出てくれればそれでいいんだよ。あきらも言ってたけど、ロマン砲だロマン砲」
「相変わらず馬鹿だねー。でもそうすると全く役立たなさそうなVIT上げが最適解なんだね。いつもながら蓮くんのやり方って面白いなー」
「そりゃどうも」
言いながら俺は、LUBのVIT全振りを決定した。
VIT33から97になった。っしゃすっごい固くなったぜ。最大HPも増えたし。
「あきらはどう上げるつもりなんだ?」
「DEX優先かなあ。回復にもAP使うジョブだし。まず攻撃当てないとAPが確保できないしね」
と話しているうちに――
「あっ! ボス沸いた! 再出現何分かね」
システムメニューから現在時刻確認。計算したところ約五分だった。
「五分か結構早いな。これなら再出現即狩りしていけば十分経験値的にも美味いぞ。よし、あきらはここでちょっと見ててくれ」
俺は『流れ作業』のタレントをセットし直し、いつもの『仕込杖』を合成する。
それから、新しく補充された二体のアイアン・ジェミニのもとに向かう。
「えっ? どうするの?」
「ちょっと試したいことがあるんだ。様子見て適当に攻撃開始よろしく」
俺が二体の感知範囲に踏み込むと、一斉に襲ってくる。
繰り出される拳を杖でガード。
ガード削りは発生しなかった。おお振ったステが生きてる生きてる!
これならガードさえミスらなければ無傷でいられる。
「あ、もういいぜー! 攻撃開始!」
遠くにいるあきらにそう呼びかける。
この第二陣を狩ったところ、やはり『アイアンインゴット』を六個貰えた。
それにVITに振り込んだおかげで最大HPが伸びて奥義の威力も向上。
一撃で一体倒せるようにもなった。
これはいい稼ぎポイント発見だ。
先々進めるだけが能じゃない。効率いいポイントでは徹底的に稼いでおくべし。
レベル22と『仕込杖』の組み合わせを『アイアンスタッフ』と『アイアンソード』にするための大量の『アイアンインゴット』集め。
今ある『オークスタッフ』と『ブロンズソード』の素材は全部使って、置き換えよう。
さあ稼ぐぞー! しばらくここで合宿決定だ。




