第165話 泣きのもう五回
浮遊都市ティルーナに戻ると、ミーナちゃんの所に向かった。
「お兄ちゃんありがと~! これで叱られないで済むよ! あ、お礼にこれあげる~!」
「おお。ありがとな!」
よし『クジ引き券』をゲットしたぞ!
ピロン。とシステム通知音。そしてメッセージが表示される。
クエスト『ミーナちゃんの落とし物』を達成しました!
よしよし、目標達成!
またクエストでお世話になるかも知れないが、今度はスライム系のアイテムはやめて頂きたいものだ。
リューがいなけりゃ、銭を投げる以外にどうにもならなかったからな……
しかも撃つ毎に再使用時間待ちが発生して、狩り効率も非常に悪いと。
雑魚狩り性能に問題抱え過ぎだろ俺は。
こういうカジュアルなシーンで使えるタレントを取るか、リューさんにそういう能力を覚えてもらうかしないとかもなあ。
だが単に皆伝の証系のタレントで攻撃魔法を使えるようにしてもなあ――
それは紋章術師の評価には繋がらないからな。リューに雑魚狩りを覚えて貰うのも同じである。
できれば紋章術師ならではの能力でそこをクリアしたいものだ。
そうすれば、ジョブ自体の評価も上がるわけで。
とは言え背に腹は代えられないので、当座は皆伝の証系のタレントで攻撃魔法を使えるようにした方がいいかも知れない――
夏休みに入る前のテストで、またMEPを頂いたからな。
そんな事を考えながら、俺は商店街のクジ引き会場に向かった。
1等から4等までの景品があって、それぞれの等に複数の景品がある。その中から一つ選ばせてくれるようだ。
今回は夏休み期間限定の特別賞もある様子で、それは夏休み限定エリア内にある高級リゾートの招待券らしい。
商店街のクジ引きでハワイ旅行的なやつか……?
それはそうと、俺が欲しい紋章術師用の新魔法は3等の中にあった。
同じ追加魔法なのに魔道士用のは2等にあるのは差別だろこれ。何故にランクが下げられている?
まあ入手が容易なのはありがたいけどな――! ちょっと悲しくもなったぞ!
「クジ引きお願いしまーす」
担当のNPCのおっちゃんに『クジ引き券』を差し出す。
「あいよ! どうぞ!」
アンティーク調にアレンジされたあのガラガラするヤツを回して――
カラン。と白い球がガラガラから排出された。
「あー残念! 4等だねえ!」
「……」
ふっ――やっぱり俺のアイテム運は微妙だったな。
何の盛り上がりも無いぜ!
残念賞でポーションを受け取り、俺はため息を吐いた。
「ふう……俺がこういうので一発で出るワケないわなあ、あきらじゃあるまいし」
あの天性のラッキーガールとは、持っている運の量ってモンが違い過ぎる。
さて、もう一回ミーナちゃんクエストをやろうにも、すぐには落とし物をしてくれないから間を置かないとクエストを再発生させられない。
「どうするかなー。ギルドショップの商品でも仕込むかなぁ」
原材料の仕入れをNPC運営の通常ショップで行えば『クジ引き券』をランダムでもらえる。
ギルドショップで仕入れるより割高だが――ちょっとくらいいいか?
赤字にはならないしな。利益率がちょいと落ちるだけだ。
何はともあれ、今の俺には『クジ引き券』が必要なのだ――!
「きゅ~ちきん~! ちきん~!」
突然リューがそう言い出すと後ろの方に飛んで行った!
「ぎゃ~! 捕食すんなコケ~! お前はいつもこうだコケ~!」
「ん……!? おっ! ココールじゃねーか!」
リューに頭をカプカプやられて逃げまどっているのは、間違いなくココールだった。
ギルド対抗ミッションで優勝した後は、ココールの国であるミシュリアの騎士に登用されたらしく、服装が騎士風のものになっている。
それでもこのコケ族の丸っこい体系なので、格好いいというよりはコミカルである。
「おお、蓮がいたコケ~! 良かったコケ~!」
「どうしてここにいるんだ?」
「休みだから遊びに来たんだコケが、ギルドハウスに誰もいなかったコケ~」
「ああ。俺以外みんな今日は用事あるらしいからな」
ギルド対抗ミッションの終了後、各ギルドの英雄候補NPC達は国へと帰った。
ただ、俺達としてはそれでもうココールとバイバイというのも寂しかったので、いつでもココールが遊びに来れるように態勢を整えたのだ。
具体的には優勝ギルドへのご褒美である好きなアイテム貰える権を一つ使い、『リターンホイッスル』というアイテムを獲得した。
これは、設定しておいたワープポイントに一瞬で戻れるアイテムである。
何度使っても無くならず、アイテムの再使用時間時間も短い。
そのワープ先を俺達のギルドハウスに設定し、ココールにプレゼントしたのだ。
全会一致のご褒美枠の使い方だった。
ちなみにアイテム貰える権は三つで、ほむら先輩達との同盟で一つ譲る約束をしていたため、こちらが自由に使えるのは二つだ。
一つはココールのために使い、もう一つはまだ使っていない。
俺達の間では何かあった時のために使おう、という事になっている。
別にすぐに交換しなくてもよい、という話だったので、
「そうコケか~。とりあえず誰もいないし暇だったコケ。そしたら前にショップで素材の仕入れした時に貰った『クジ引き券』が余ってたのを思い出したコケから、ちょっと見に来たんだコケ~。いいのが引けたら、蓮たちへのお土産になるコケからな」
「ああ、ココール仕入れもやってくれてるもんな」
遊びに来たココールはいまだにギルドショップの店番やら仕込やらを手伝ってくれる。
商人の息子だけあり、基本的に店をやるのが好きなのだ。
「この間は忙しくて、蓮たちに『クジ引き券』を渡し忘れたコケからな~。今渡すコケから、使うコケ~。クジ引きやってたコケ?」
と言ってココールは『クジ引き券』を五枚も取り出したのだった。
「おお五枚もあんのかよ! これなら当てられる! ありがとなココール!」
「もともと蓮たちのものだコケ~」
俺は『クジ引き券』を受け取ると、NPCのおっちゃんに差し出した。
「よっしゃ! もう五回だおっちゃん!」
「あいよ!」
これならいけるぞ――! 泣きのもう五回だ!
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