第164話 無駄な努力
五分後――
とりあえず各種スキルの再使用時間を待機し、俺は動き出した。
待機の間休んでいたので、HPもMPも全開していた。
「よし行くぞ。リュー!」
「きゅ~♪ みっけ~みっけ~」
ピロン。
リューは『高級スライムゼリー』を見つけた!
蓮は『高級スライムゼリー』を手に入れた!
おおすごい! ピンポイントで引いてくるな! ナイスだ!
「ありがとな、リュー! よっしゃあと一個だあと一個!」
俺は次のスライムを探し――いた!
マッディスライム レベル72
今度は沼にかかった橋の上に、道を塞ぐようにスライムが鎮座していた。
「ようし――ディアジルサークル!」
MP捨て、かつマラソン用に鈍足フィールドをリューさんターゲットに発動。
リューをターゲットにしているなら、スキル『ターゲットマーカー』の効果により、発動したサークルがリューに追従して動くようになる。
そうしておいて――
「『ターンオーバー!』」
からの――
俺は吹き矢を取り出して構える。
装填するのは相手を毒効果にする『毒の矢』だ。
そして吹き矢アーツの『影矢』を発動!
『影矢』の効果はこうだ――
<効果> 暗器技 死角を突き目に見えない矢を放つ 1回攻撃
1戦闘に1回のみ発動可能
現HPが低いほど矢の追加効果の性能と発動率アップ
防御力無視 回避不可
蓮の影矢が発動! マッディスライムに75のダメージ!
ダメージを受けたスライムは俺に向かって攻撃を仕掛けてくる。
が、俺にはディアジルサークルを展開したリューがついている。
サークルに踏み込むと敵は鈍足になるので、ちょっと動き続けるだけで一定の距離を保つことができ、追いつかれない。
いつもよくやるマラソン戦術だ。これでHPスリップさせて削りきろうという戦術だった。
これなら『ファイナルストライク』を使っていないので武器破壊せずに済み経済的である。
だがしかし――
「あれHP減らねーなぁ……?」
暫くマラソンしていたが、一向にスライムのHPが減らない。
あれ『影矢』当たったよな……? あれは回避不可だし、外れるはずがない
俺はログを振り返り――気が付いた!
蓮の影矢が発動! マッディスライムに75のダメージ!
と出ていたはずだ。それに続くはずの『バンディットウルフは毒になった』のログが無い!
つまり――
「しまった、こいつ毒耐性持ちか!」
まずいなこれは――
暗器系のアーツは1戦闘に1回のみ発動可能だ。
しかも種類を問わない。
つまり吹き矢のアーツ『影矢』を使えば、仕込杖の『抜刀術』も使用不可になるフラグが立つ。
使った後も戦闘中に新たに暗器を合成して入手すれば判定回避できるが、吹き矢も仕込杖も同時に二つ持てないため、新たに合成する事も出来ない。
つまりもうこの戦闘では、暗器系のアーツやそれを組み込んだ奥義には頼れないというわけだ。
「しゃーない! 殴り合うか!」
俺はポーションを使用して少しHPを回復。
そしてマラソンを止め、スライムに正面から向き合う。
『ラッシングリング』を手に入れて以来、俺には格闘・当て身の技能もある。
敵の攻撃は杖でガードしつつ、通常攻撃の単なるショルダーチャージで削って行く。
VIT極振りの俺のガードは堅い。
ガードのモーションさえミスらなければ、ガード削りは全く受けない。
こっちの通常攻撃は一撃60~70程度だが、ちまちま相手を削っていける。
このままならいつか勝てる! はずなのだが――!
マッディスライムは分裂の構え!
そのログが見えたかと思うと、ブジュブジュ音を立ててスライムが二体に分裂した!
「あーくっそやりやがった!」
そう、スライム系って分裂するんだよな――!
殴り合って向こう側にもAPが貯まるとこれがある。
だから『影矢』のスリップで何とかしようとしたんだが、初手でミスってたな――! 毒耐性とは!
武器破壊による銭投げを嫌がった結果がこのありさまだよ!
「よしそれなら――ディアーツサークル!」
レベルが上がって覚えた、サークル魔法の一種だ。
ギルド対抗ミッションの段階では魔法スクロールが買えていなかったのが、その後覚えておいたものの一種だ。
効果はAPの取得率ダウンだ。
APの数値そのものをスリップさせるわけではなく、APの取得効率を通常の半分にする。
これならば敵が特殊技を使って来る頻度を下げられるというわけだ。
使える頻度が下がれば、『分裂』とつかわれる前に倒す事も――
マッディスライムは分裂の構え!
はい、ダメでした!
「ぐぬぬぬぬ……!」
俺は三体に増えたスライム共と殴り合いを継続せざるを得ない。
そして数分後――
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ……!」
スライムは五体に増えていた!
五対一でこっちも攻撃しながらだと、さすがにガードも漏らしてしまう。
だがVIT極振りの俺は戦車のように固いので、大したダメージにもならない。
完全なる泥仕合が展開されていた――!
認めたくはない、認めたくはないが――
あきらがいないと何も出来ねええぇぇぇぇーーー!
ソロのザコ狩りはやっぱダメだな!
普通のプレイヤーにとっては気軽な素材狩りが、俺にとっては苦行と化すのだった!
そんな時である――
ピロン。
リューは『高級スライムゼリー』を見つけた!
蓮は『高級スライムゼリー』を手に入れた!
「あ……!」
三つ目、キターーーー!
「きゅきゅ~♪」
「ふっふふふふ……ディアジルサークル!」
俺は即座に使用するサークルを切り替えた。ターゲットはリューで。
「リュー! よくやった、抱っこだ!」
「きゅ~~」
そしてくるりと踵を返す。
「今日はこの位にしといてやるぜーーっ!」
捨て台詞を残し、そのまま飛空艇の発着港にUターンだ。
そこに転送ルームへ戻るワープの入り口がある。
しかし、一生懸命スライムと戦ったのは何の意味も無かったな――無駄な努力というやつだ。
だがしかし、今は戻ってクジ引き! そして新魔法だ!
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