第163話 ソロの使い勝手
さて話題の紋章術師用の新魔法だが、入手方法は既に判明している。
この浮遊都市ティルーナの商店街で行われているクジ引きだ。
その景品に、新魔法のスクロールが追加されているそうな。
クジ引きの券は、浮遊都市ティルーナ内のショップで何か物を買った時に貰える。
ただし、プレイヤーの店ではあるギルドショップではなく、NPCが経営しているいわゆる普通のショップが対象だ。
品揃えも多少の入れ替わりはあるが、それほどレアなものがあるわけではなく――
正直、ある程度のレベルになって来ると利用しなくなり、ギルドショップでの取引メインになって行くようなものだ。
品切れが無いので合成などの素材を調達するにはいいが、レアなものは置いていない。
なので、基本的な素材が大量に欲しい場合に大人買いしに行くくらいか。
ギルドショップで買った方が安くつくことが多いので、手間を惜しまないならば複数のショップを回って調達した方がいい。
クジ引き目当てなら、普通のショップにせざるを得ないが。
しかし今、俺はそんなに金を持っているわけではない。
ショップで大人買いしていると、すぐに尽きるだろう。
そんなあなたにオススメなのが、クジ引き券を報酬として貰えるクエストである。
浮遊都市ティルーナにいる幼女NPCのミーナちゃんが、おつかいの途中に落としてしまった品物を探して渡してあげるという趣旨のものだ。
俺は早速ミーナちゃんに会いに行った。
「あのねあのね。ママに『高級スライムゼリー』を三つ頼まれてたんだけど、落としちゃったの! このままじゃ怒られるよぅ~」
「よし分かった、俺が探してくるからな!」
「本当、お兄ちゃんありがと~」
ピロン。とシステム通知音。そしてメッセージも表示された。
クエスト『ミーナちゃんの落とし物』が発生しました!
【クエスト概要】
ミーナちゃんがママに頼まれたおつかいの途中で買った物を落としてしまった。
何とか同じものを入手して、ミーナちゃんを助けてあげよう。
うむ。クエスト発生したぞ。
このクエストは繰り返しOK系だが、毎回指定されるアイテムが違う。
指定されたものを届けてあげればクエストクリア。入手方法は問わない。
で、今回指定された『高級スライムゼリー』だが……
そこそこの値段がする素材なので、これは狩りに行った方がいい。
俺のアイテム運は並以下だが、仕方ないな。
『高級スライムゼリー』はスライム系の敵がドロップするが、高級なものだけにそこそこのレベルのスライム系しか持っていない。
具体的にはレベル70以上のスライム系だ。今の俺のレベルは77になっている。
そこそこスリルのある素材狩りになりそうな気がするぜ……
というわけで俺はレベル70以上のスライム系がいるニカライ湿原というエリアに向かった。
ここはココール達が暮らしているミシュール大陸の外れの方に位置する、秘境エリアである。
街などは無く、飛空艇の発着港以外は広大な湿原が広がっている。
俺は前にあきらと観光で来た事があったので、ワープで飛べるようになっていた。
なので移動に時間をかけずにやって来る事が出来た。
「しかしだだっ広いエリアだな~」
「きゅっきゅっきゅ~♪ ひろ~い♪」
リューは開けた場所で気持ちが良さそうだな。
ぴゅんぴゅんと辺りを飛び回っている。
「おーいあんまり遠くに行くなよ~はぐれるからな」
「きゅ~♪ れん~みつけた~」
ピロン。と通知音。続いてログが。
リューは『高級スライムゼリー』を見つけた!
蓮は『高級スライムゼリー』を手に入れた!
出た、うちのリューさんの『オート採集』!
流石できる守護竜さんは違うな!
「おおナイスだリュー! 助かったぜありがとうな!」
「きゅきゅ~♪」
「よしあと二個だ、二個。スライムを探すぜ」
俺は道なりに暫く進んで行き――
やがて、目的のスライムを見つけた。
マッディスライム レベル72
やや大きめの水たまりの淵に、茶色いスライムがウネウネしていた。
「よっしゃ狩るぜ――!」
まずは自分の足元の大範囲にディストラサークルを展開。
いつもの奥義前のMP捨て行為である。
それから、離れた敵を釣るために吹き矢を取り出す。
単なる釣り用途のため、使う矢は何も特殊性能が無いノーマルでいい。
ちなみにこの吹き矢も弾もちゃんと今のレベルの素材――ダマスカスインゴット製にしてある。
本当にレベルが上がれば上がるほど、ランニングコストが激増して行くぜ。
リアルでもゲームでも、ロマンを追うには金がかかるのだ。
蓮の攻撃! マッディスライムは攻撃をスウェイした!
さすがVIT極振りゆえに命中にDEXが必要な行動はカスリもしないぜ。
まともなダメージはスウェイ無効じゃないと、どうしようもないな。
レベルが上がれば上がるほど、その傾向は極端に尖って行く。これはもはや気にしても仕方ない。
とにかく敵を釣れればいいので、別に外しても構わなかった。
攻撃されたマッディスライムは俺に向かってウネウネと這い寄って来た。
「悪いな――ミーナちゃんと俺の新魔法のために『高級スライムゼリー』を寄越せ! 奥義『デッドエンド』っっ!」
ズシャアアアアッ!
紫系のレーザーブレードのような斬撃エフェクトが、マッディスライムを捉える。
蓮のデッドエンドが発動。マッディスライムに4632のダメージ!
蓮はマッディスライムを倒した。
「……それだけかよ!」
『高級スライムゼリー』を持っていたのログが欲しかったよ! ログが!
「じゃあ次――の前に再使用時間待ちだな――」
奥義を構成している『ターンオーバー』と『ファイナルストライク』の再使用時間が五分かかる。
あきらがいると即座に再使用時間をゼロにしてくれるからいいんだが、一人だとこの待ちぼうけ期間が発生するわけだ。
しかも『デッドエンド』一発で武器が破壊して無くなるので、結構な金が飛んでいる。
俺のロマン砲スタイルは、ソロでのザコ狩りに致命的に向いていないのである。
俺はそれでもいいのだが、世間一般的に紋章術師が見直されて人気ジョブにのし上がるには、こういうシーンでの使い勝手の向上が必須だ。
そのための戦術を作り上げて布教しないと、紋章術師はいつまでもボンクラーズ扱いのままだろう。
ソロの使い勝手というのも、ジョブ評価の上では重要な項目である。
「うーん次はとりあえず、武器破壊はナシで何とか狩ってみるか――」
この再使用時間待ち時間でちょっと考えてみよう。
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