第14話 疑惑の判定
「あきら!」
「大丈夫! まだ行けるから! すぐ回復を――」
APはまだ140くらいある。
回復のために『ヒールステップ』のモーションに入ろうとするが、それが止まった。
「あうっ!? 何? 動けない……!」
あきらの動作が途中で止まる。
ステータスアイコンを見て俺は何事か把握した。麻痺だ。
敵のアーツの追加効果に麻痺があったようだ。
麻痺は、数分の一の確率で行動が阻害される効果だ。
「あきら! 麻痺!」
「麻痺? じゃあもう一回――!」
今度は発動して、HPが回復。
それはいいが、麻痺で潰れたステップでもAPを消費していた。
これではHPの維持に支障を来たす。APが回らなくなる恐れがある。
敵も休んでいるはずもなく、追い打ちをしてくる。
あきらも応戦を続けるが、打撃もステップも結構な割合で麻痺で潰れる。
ダメージ与えるペースが落ちる。
回復のためのAPも回らなくなってきて――
再びあきらのHPが三割以下に。残りAPは20。
これではやられる。そう判断した俺は素早くアイテムウィンドウを開いた。
そしてアイテム合成を開始する。
素材は『オークスタッフ』と『ブロンズソード』。『仕込杖』のレシピだ。
普通バトル中は合成モーションに入れない。
しかし、タレントにセットしている『流れ作業』がミソ。
これはモーションスキップして結果だけを得る効果だから、戦闘中でも合成できる。
合成開始。即完了。俺は『仕込杖』を装備。
あきらを攻撃するアイアン・ジェミニの側に駆け寄る。
そして『仕込杖』のヘッドをぐいっと捻り、『抜刀術』をピンで発動!
俺のHPは一桁まで減っていた。つまりアーツの威力はかなり高くなる。
その一閃が、残りわずかだったボスのHPを何とか削り切ってくれた。
ボスは大きくよろめくと、ガラガラと崩れ落ちて消滅していく。
「よーしよし! ふぃー何とかなったなー」
「ええええ!? ちょっと待ってちょっと待って!」
しかしあきらは何だか不満そうだった。せっかくボスを倒せたのに。
「ん?」
「暗器のアーツは一戦闘で一回でしょ? 『デッドエンド』で一回なのになんでもう一回撃ててるの!?」
「お、いい質問ですねえ~あきらくん。それは一戦闘に一回っていう表記がシステム的にどう処理されてるかって話になってくるわけですわ」
こういうゲームシステムの内部ロジックを考察して転がすのは、俺は大好きだ。
聞いて貰えたら、張り切って説明しちゃうぞ!
「あ、延々細かい計算式とか語らなくていいからね~蓮くんのは始まると長いから。簡単にお願いしま~す。先生」
「ちっ。まあオーケー了解したという事で、俺が暗器AとBを持ってるとするだろ?」
「うん」
「で、暗器Aのアーツを使いました。この時点で暗器AとBに対してこの戦闘中はもうアーツが使えませんっていうフラグが立つと思われる。推測だけどな」
「ふんふん」
「でさ、その後同じ戦闘中に暗器Cを新しく手に入れた場合、これにはフラグが立ってないみたいなんだ。だからもう一回使える」
アーツ使用不可フラグがアイテムごとの管理になってるって事な。
「え? じゃあその暗器Cを手に入れたって事? 戦闘中合成できないよね?」
「タレントの『流れ作業』セットしとけば、戦闘中合成できるんだよなーこれが」
「えええっ!? そうなんだ! あれ意味あったんだ! それってフラグ判定すり抜けれる穴があるって事だよね!?」
「イエスその通り。『仕込杖』がオンリー属性だから『ファイナルストライク』で壊さないと次合成できないけどな。だからとりあえず壊すの推奨だな。銭投げが捗るよなー」
奥義ごとに武器が消滅していくから、素材代は凄くかかる。人それを銭投げという。
このスタイルを維持していくには、常に暗器の材料ストックを欠かさないことが大事になってくる。今はまだ一月遊んでいる間に集めておいた貯金があるからいいけど。
今後、資金調達は課題になって来るだろうな。
「うっわーバグなのか仕様なのかすっごいグレーなとこだねそれは……よく気が付いたねえ、そんな事」
「ま、いろいろ試す時間はあったしな」
暇だからアイランドバニー師匠を大量リンクさせて遊んでる時たまたま気が付いた。
遊びから凄い閃きが生まれる事ってあるよね。
「そのために何体のアイランドバニーが犠牲に……」
「フフフ……ゲームじゃなかったらもう絶滅しててもおかしくねーよな。まあそれはさておき、できる以上思いっきり活用していく方向で行こうかなーと思います」
「ならスキルのリキャストさえ来てれば、もう一回奥義も打ててたんだよねえ?」
「だな。『ミュルグレの秘薬』使えば撃ててたけど……そこはまあ『抜刀術』で節約させてもらいましたっと」
と俺が答えると、あきらは何か閃いた! と言いたげに手を打った。
「そうか分かった! 何でわたしをソードダンサーに指名したか! 『剣の舞い』覚えるからでしょ!?」
あきらが言うのは、ソードダンサーがレベル22で覚えるスキル。
効果は『ミュルグレの秘薬』と同じ、全スキルのリキャスト回復。消費APは200。
「そう! さっすがあきらは話が分かる!」
暗器のアーツが一戦闘一回のみという制約は、武器破壊からの戦闘中合成で回避可能。
スキルのリキャストさえきていれば、同じ戦闘中でももう一発奥義が打てる。
ソードダンサーは、一瞬でスキルをリキャストしてくれる能力を持っている。
いてくれれば、俺は奥義の二連打が可能になり瞬発火力が二倍になるという事だ。
これほど相性のいいジョブが分かっているのに、勧めないわけがない。
「なるほどぉ~! ようやく納得いったよお! えっちい目的じゃなかったんだね!」
「いやだからそれは初めから違うって言っただろ」
「でもぉ。この格好してたらいつもちらちら見てくるし~」
ジト目で見られる。
「あくまで性能目的だったのはそうだけどさ。ありがたい事に見た目も眼福モンなのでしっかり楽しませていただこうかと!」
「もぉ~。これがただのネトゲのアバターなら、カメラアングル弄ってスカートの中見ようが別に好きにすればいいけどねー」
「あー前に一緒にやった事あったなあ」
EFの人気NPCの魔法少女メロリンちゃんとかをね。みんなよくやってたんだよ。
「今思うと悪かったなー。あの時俺あきらの事男としか思ってなかったわ」
「いやバカだなーと思いはしたけど、あれはあれで貴重な体験だったかな。男の子の生態が分かったというか……でもこのゲームだと自分が見られてる感じしかしないんだよね。すっごい恥ずかしいんだから!」
「大丈夫だって、似合ってるし可愛いから何ら問題ないぞ!」
「んもう……まあわたしと蓮君の仲だから、別に見ててもいいけどねー……」
「っていうかさ、さっきのボス戦さすがあきらだったよな? 一人であれだけボス削ってくれたのはすげーよ。あっという間に相手の動きにも対応できてたし、アクション得意なのはここでも活きたよなー」
「そう蓮くんに言われてもな~」
と苦笑い。
「?」
「そのアクション得意なわたしを、対戦したら八割がたボコってくれるのはどこの誰でしょう?」
「いやいや、それはさておきでさ。客観的に見たらやっぱ上手かったぞ?」
「でもなー。蓮くんがソードダンサーだったら最後まで削り切れたんじゃない?」
「俺がソードダンサー? いやあ、ちょっと恥ずかしいからムリ……」
「あ~! ひどい! わたしにはやらせるくせにー!」
ぷんぷん怒られた。




