第148話 さりげなくバレる
「やらせませんわよ!」
希美の攻撃。雪乃に92のダメージ。
希美の攻撃。雪乃に86のダメージ。
雪乃先輩の真後ろから声と斬撃。そしてダメージログ。
『バニッシュフリップ』で秘かに近づいた赤羽さんが、雪乃先輩に攻撃を当てたのだ。
ナイスカット! 今日持っている両手剣も『ハヤブサの極光石』のおかげか、通常攻撃が二段ヒットだ。
どんな武器にも『ハヤブサの極光石』を用意できる従者力が彼女にはある!
敵プレイヤーを撃破しました。悪魔の仕業の戦功ポイント+1。
悪魔の仕業の合計戦功ポイントは1です。現在23/48位です。
こんなログも見えた。赤羽さんが相手を一人撃破してくれていたらしい。
その勢いに乗って雪乃先輩に仕掛けてくれたのか。
さすがあきらのライバル的存在だな! EFでは俺達の共通のフレンドであるスカーレットでもあるし、腕が確かだ!
「くっ――! 邪魔をするか!」
「皆さま、これ以上の長居は無用ですわよ! ここは離脱して、次の敵を探すのがよろしいですわ!」
同感! 雪乃先輩スルーでミコット狙いの戦術がバレた以上これ以上やってもよくて互角、下手すれば雪乃先輩にボコボコにされてマイナスもあり得る。
ここは利益確定のためにも切り上げるべきだ。
で、こちらの動きがバレていない他のギルドを相手にしに行く。
その方がポイントを稼ぎやすいのは間違いない。
「わたくしが囮になりましてよ! アサルトアンカーも外れた事ですし、飛空艇にお戻りなさいませ!」
囮を買って出てくれたのか。
確かに1ポイント差し出す覚悟で囮役がいた方が、他の面子は引き揚げやすい。
「分かった、頼むな!」
せめてもの援護にディアジルサークルをその場に展開!
やや相手の動きが鈍るはずだ。
「よしみんな戻るぞ!」
「待て――!」
「お待ちなさい! わたくしが相手ですわよ、スノウ!」
「!?」
俺はそれを聞き咎めた。
いや熱くなるのは分かるけどさ……!
それ言っちゃマズくね!? だってさ――!
「ふふっ! いいだろうスカーレット! お前とやるのも久しぶりだ!」
そうだよね! ああ言われたらそう返してもおかしくない!
あきらにスカーレットだって隠しときたかったんだろ、赤羽さんは!
この娘本質的におっちょこちょいだよ!
絶対間違いない、確信したわ!
「!? あ――! いやちょっと待って下さいませ、それは……!」
いや今更何言ってんだ!
しかもこんな時に――!
「ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!? 希美さんがスカーレットくん!?」
死ぬほど驚いたらしいあきらココールが大声を上げた。
もちろんココールの声マネをしている余裕も無く、完全に素のあきらだ。
うわ、これもバレたな!
「あきらの声……!? ひょっとしてあきらか!? 姿を変えて……!? そういえばその武器はスカイフォールだな――やっぱりあきらか! そいつは偽物だ!」
「ええっ!? 本物のココールじゃないの!? じゃあ本物は!?」
「きっと向こうの飛空艇だろう。隠れる場所はそこしかない!」
あああああバレた! マズい早く逃げないと!
「の、希美さん本当なんですか!?」
「そ、それを今言っている場合ではありませんわ! 早くお戻りなさい!」
「で、でも……!」
「雪乃! 向こうに乗り込んで、ココールを倒そうよ!」
「ああ――! 今度こそ撃たせて貰うぞ!」
またボレアスでの『インフィニティリバース』の構えだ!
行かんこれで吹っ飛ばされている間にピーチサンダー号に乗り込まれてココールがやられたらポイントがマイナスになる!
しかしその時――全くの別方向から声がした。
「「「「「『マジックエンゲージ』!」」」」」
大量の掛け声だった。俺達は声のした方を向く。
「ほむら先輩――!」
ほむら先輩たちの飛空艇がすぐ近くまで移動してきており、居並ぶ魔道士達が合体魔法を発動させようとしているのだ。
先輩達もアサルトアンカーをぶち込まれていたし、それを外しに接近してきたのかもしれない。
「ふふふふふ――雪乃! あたし達の踏み台になりなさい! あんたらのポイントであたし達が決勝に行かせてもらう!」
「ほむら!? ちぃっ! 合体魔法が来る! みんな船室に避難しろ!」
ナイス乱入! いいタイミングで割って入って来てくれた!
「高代君達は上手く逃げなさい!」
「分かりました! みんな早くピーチサンダー号へ逃げるぞ!」
一目散に逃げ、ピーチサンダー号の甲板に滑り込む。
「すぐに離れるわね!」
前田さんが舵輪を握る。
一拍置いて――
「「「「「『グランドサンダー』!」」」」」
ズガグドガシャアアアアアアァァン!
轟音を巻き起こしつつ合体魔法が炸裂!
前も見たが、多人数の合体魔法の迫力は凄い。
極太の稲妻が天から落ち、雪乃先輩達の飛空艇自体に大ダメージを与える。
多分中に隠れている人もダメージは免れないだろう。
拡張パーツの大砲よりもレンジは短いかも知れないが、威力はきっと上回っている。
艦隊戦に魔道士軍団は向いているかもしれない。
大砲以外にも有効な飛び道具があるのだから。
飛空艇ごとぶっ壊してしまえば、全員リングアウトに出来るもんな。
これはかなりの脅威かも知れない。
ブスブスと煙を上げる飛空艇の甲板に、雪乃先輩達が再び姿を見せるのが見えた。
今の一撃で、ほむら先輩達の飛空艇と繋がっていたアンカーも破壊されていた。
それを再び撃ちこむつもりのようだ。
乗り込んで接近戦に持ち込んでしまえば雪乃先輩達がポイントを荒稼ぎできるだろう。
それを察知したほむら先輩達の方から、距離を取る。
雪乃先輩達はそちらを追いかける。
どうやら、注意は向こうに行ったようだ。これで俺達はフリーに動ける。
「さぁどうする、高代くん?」
「そうだな――」
と、考える俺達の横であきらが赤羽さんに尋ねていた。
「希美さん、さっきの話ですけど――」
「いけませんわ! 戦いはまだ続いていますもの! 終わってからにいたしましょう、ねえ高代君? そうですわよね?」
俺に振ってくる。あー、後で説明するのをフォローしてくれってな。
一人じゃどうしていいか分からんらしい。
まあしっかりしてそうに見えて、ツンデレでコミュ障気味だもんなー赤羽さんは。
普段片岡が従者についててちょうどいいよな、正直。
あいつはあれでマメだし、機転も利くやつだからな。
あんな趣味をしてなけりゃ、きっともっと手強いライバルになっていただろう。
「とりあえず赤羽さん、アサルトアンカー持ってるんだよな? 今借りてセットしていいか? 一個パーツの空きがあるからさ」
「ええ構いませんわよ」
と言うわけでセットアップ!
ピーチサンダー号の甲板に、アサルトアンカーの発射台が付いた。
ふむふむ、一個セットすると発射台が二個なんだな。
一スロット当たりアンカーが二本、使えると――メモメモ。
さてじゃあ、次はどこを狩りに行くかだな――
面白い(面白そう)と感じて頂けたら、下の『評価欄』から評価をしていただけると、とても嬉しいです。




