第147話 5ポイント狙い
「ありがとな、リュー!」
俺はリューに礼を言いながら、立ち上がる。
アサルトアンカーの鎖の上は足場が不安定だったが、文句は言うまい。
こいつのおかげで俺は一機助かったわけだしな。
ピーチサンダー号と繋がっている鎖だったので、距離が近いおかげでやや下に垂れ下がっていたのも幸いした。おかげで手が届いた。
そして、もう『インフィニティリバース』は追いかけて来ないようだ。
吹っ飛ばされて追跡レンジ外に出たのか、それとも効果時間が切れたのか――
正確には分からないがそんな所だろう。
流石に何の制約も制限時間も無く永遠に相手を追い続けるという事はないだろうし。
「ふっ! 流石にしぶといな、蓮! だが!」
と、雪乃先輩が甲板から伸びるアサルトアンカーに近づく。
こっちまで追撃に出て来るか――!?
いや、先輩の行動がどうあれ俺のやる事は決まっていた。
「『ファイナルストライク』! 『ディアジルサークル』!」
ピンでスキルの『ファイナルストライク』。
そしてサークルで減らすMPは1狙いではなく、少し多めに。
これで、いつでも狙いに行ける――!
俺のその行動は、先輩には迎撃準備に映ったらしい。
「迎撃か――? だが、無駄だ!」
先輩は俺がいるアサルトアンカーの根元、発射台の目の前で歩を止める。
「はああぁぁっ! 奥義『シューティングスターラッシュ』!」
アンカーの発射台に向け、光り輝く蹴撃が物凄い勢いで繰り出される!
単純に手数で押すタイプの奥義のようで、高速の蹴りが弾幕のようにいくつも分裂しているように見える。
先輩のあの綺麗な脚に蹴られたら喜ぶ奴多いんだろうなー。
特に先輩のギルドの神秘の武技は半分先輩の親衛隊みたいなもんで、みんな先輩のファンらしいからな。
先輩の繰り出した奥義は見た目だけでなく威力も半端では無く、発射台のHPゲージがあっという間に削れてゼロになった。
「なるほど……!」
俺の足場を壊しに来たか――!
発射台が弾け飛び、アンカーの鎖が支えを失ってだらんと垂れ下がる。
俺も衝撃で身体が空中に投げ出された。
「これで今度こそリングアウトだな!」
言いながらも先輩は油断無く甲板の縁に詰めている。
もし俺が『ウィンドミル』で甲板の縁を掴めたら、強ノックバックつきのボレアスで攻撃してまた落とすつもりか――!
これでは俺は、リングアウトするか先輩の攻撃でHPが尽きるかしかなくなる。
――というのが先輩の計算だろう。
「これで新人戦の借りは返せたかな……? お前から奪う1ポイントは格別だぞ、蓮!」
「いや、もうポイントマイナスなんで!」
これ以上は減らされるわけには行かん! ポイントはやらんぞ!
とうわけでここから反転攻勢に出る!
「奥義――!」
俺は仕込杖を抜いて高く高く放り上げる。
そして何もない空中を踏み切ってハイジャンプ!
見よこのゲーム的な動き! できるもんはできる! そういう世界ですから!
そして、できる事はフルに活用して、ジャイアントをキリングするべし!
飛び上がった俺はダマスカスソードの柄に乗ってドッキング!
「『下り青竜』! 行けえええぇぇぇっ!」
『下り青竜』のジャンプ力は『ウィンドミル』の二倍はある。
余裕で甲板にいる雪乃先輩の頭上を越える高さに飛び上がり――
天から下って地を襲う青竜のオーラに包まれると、急降下して突進。
「新奥義か!? しかし――!」
身構える雪乃先輩。
その身は『シャドウスレイブ』の分身に覆われていた。
そして俺は、先輩の頭上を通り過ぎ――
「!? 照準が狂ったようだな、蓮!」
俺が奥義の制御をミスったと思った先輩はにやりとする。
が、俺は断言する。
「いや、違うっすよ!」
「何!?」
そう、違う。ミスっていない。狙い通りだ!
「おらあああぁぁぁ! 5ポイント寄越せえええぇぇぇ!」
俺はあきらココールとタイマンバトルの最中のミコットに突撃していたのだ!
ズガシャアアアァァァァッ!
「うわっ!? きゃああああぁぁぁっ!?」
蓮の下り青竜が発動! ミコット・コープルに5735のダメージ!
蓮はミコット・コープルを倒した。
敵NPCを撃破しました。悪魔の仕業の戦功ポイント+5。
悪魔の仕業の合計戦功ポイントは0です。現在26/48位です。
よっしゃああぁぁぁ! 狙い通り!
「5ポイント頂きました!」
「ミコット――!? そうか、蓮! お前初めから私と戦いつつミコットの隙を狙って!」
「その方が効率いいんで!」
わざわざ雪乃先輩を倒す必要もない。最も取るのが難しい1アウトなのだから。
だったらそこは敬遠して一気に5点狙う方が絶対いい。
俺は対人戦が好きなのではない――ジャイアントキリングが好きなのだ!
いやまあ対人戦も好きだけど、優先順位的な意味で!
ここは絶対に勝たねばならない!
チームの勝利のためなら、俺は5打席連続敬遠も厭わん!
「フッ……! 油断も隙もない奴だな、蓮は!」
「コケ~。倫理的には限りなく黒に近いグレーだコケ~」
「誉められたと思っておこう!」
「馬鹿野郎! よくやった! って感じコケな~!」
と言いながら、減った俺のHPを回復するために回復ダンスを飛ばしてくれる。
いやしかしほんと、あきらはココールの声マネ上手いな~。
「あーもうやられたぁ! くやし~~~!」
復活したミコットが地団駄踏んでいた。
そうだよな、復活ポイントは自チームの飛空艇だから、すぐ現れるよな。
「もう次はやられないからね! ココール! キミにもやられてもらうから!」
「ああ、それでチャラだからな!」
俺の狙いが分かった以上、雪乃先輩達ももうそう簡単にやらせてはくれない。
ならば、勝ち逃げを決めて次の獲物を探したい所だが――
「対多数の殲滅ならば――こいつはどうだ!?」
と、雪乃先輩はエメラルドグリーンの刀身の斧――ボレアスで『インフィニティリバース』を放つ構えを取った。
強ノックバック付きの無限追跡――!?
どうなるんだ? 下手すりゃ全員リングアウトに……!?
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