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第145話 お気に入りの奥義

「自信満々だね。頼もしくなったじゃない」


 言いながら、ミコットは身の丈以上もある巨大な両手斧を構える。

 強気なのは中身があきらですから――!

 しかし背が小さくてほっそりしてるのに、こんなものをブン回すんだな。

 雪乃先輩も片手斧だが斧装備なので、二人で並ぶと統一が取れている。

 先輩が二刀流している斧は、前回の春の新人戦の時は揃いのデザインだったが、今回は左右で違う斧だった。

 特に右手に握っている斧は刀身がエメラルドグリーンの半透明で、見栄えがする。

 あれは結構レアな装備なのでは――?

 いやそう決めつけるのも危険か。見た目だけ立派で、しょぼい性能の武器なんてネトゲの世界ではありふれている。


 人それを産廃と言うわけだが――

 むしろ、いい装備で見た目も伴っている場合の方が少ないかも知れない。

 見た目ダサいが性能が良くて、入手難易度もお手軽な装備が大量に出回った結果、皆が皆くそダサい装備で世界を闊歩してる図っていうのも割とよくあると思う。

 俺も体験した別ゲーの話だが、装備したら攻撃速度とか早くなる素晴らしい頭装備がくそださいターバンだった事があった。

 あの時は世界中のプレイヤーが鎧の上に頭ターバンだったんだよなー……

 でも性能には勝てないので、みんながターバンでホント異様だった!

 あきらもぶーぶー言ってたのだが、あの時はガチムチの獣人キャラでしかなかったからむしろターバンは似合う方だった。

 お前はむしろ似合うんだから文句言うなって、流してたなー俺。


 とまあそんなネトゲあるあるは置いておいて、しかし相手は雪乃先輩だ。見た目だけ立派で役に立たない武器で戦いに臨むはずもない。

 この戦場でのパフォーマンスを追及して全力で選んできた武器に違いない。

 油断は禁物だな!


「さぁ行くよ! ココール!」

「いや、むしろこっちから行くコケ!」


 あきらココールがミコットに向けて突っ込む!

 振り下ろした剣と両手斧がぶつかりガキンと金属音が響いた。

 あきらの先制攻撃だが、ミコットはしっかりガードしている。

 しかもガード削りも発生していないようだ。

 両手武器は盾ほどではないがガード性能が高いからな。

 対して片手武器のガードブレイク性能は低めになる。

 片手武器の一撃では、両手武器のガードを抜くのはなかなか難しい。


「あきらはいない――か。おい操舵手は戻ってアサルトアンカーの巻き上げを続けろ!」

「はいボス! 了解です!」


 一人が離脱し、操舵室に戻って行く。


「ふふふ――人数は合わせておいてやるぞ、蓮! さぁ勝負だ!」

「どうもです! けどこっちも遠慮しねーっすよ!」

「無論だ! 行くぞっ! 『シャドウスレイブ』!」


 出たな分身!

 二刀流だし分身だし、ホント魔剣士ってのは恵まれてるな。

 しかも前回のレベル帯では二体分身だったのが、三体分身に増えている。

 この増えた分身を剥がして奥義を当てないと俺に勝ち目はないわけだが――

 今回も、作戦はないわけじゃない! やってやるぜ!

 ボンクラーズの王としては、魔剣士のような優遇ジョブを出し抜いてナンボなのだ。


「はあぁぁぁぁぁっ!」


 先輩が左の斧を俺に向かって投擲! トマホーク系のアーツだな!

 唸りを上げて迫る斧を、俺はダマスカスステッキベースの仕込杖でガードする。


 蓮はガード。12のダメージ。


 結果ガード削りが発生。だが痛くはない。

 しかし先輩もそれは織り込み済みだった。トマホークはあくまで牽制、斧を投げると共にそれを追ってダッシュし、ガードした俺のすぐ目の前まで突進してきていた。

 間合いに入ると、即座に上段蹴りが飛んで来る!

 このままガード体制を維持すればガード可能だが――


「でえぇいっ!」


 俺はあえて、当て身の唯一の通常攻撃である単なるショルダーチャージを放つ!


 雪乃の攻撃。蓮に45のダメージ!

 雪乃の攻撃。雪乃の分身が一体消えた。


 雪乃先輩の攻撃はクリーンヒット、俺の攻撃は分身で避けられる。

 だがそれでいい――!


「む……!? 分身を……!? そうか当て身は回避(スウェイ)無効か!?」

「ですね!」


 普通の攻撃ならDEX(器用)を完全に捨てている俺の攻撃が、素のAGI(敏捷)も高い雪乃先輩の魔剣士に当たるわけがない。

 攻撃が回避(スウェイ)されてしまうと分身を消費させることもできないが、回避(スウェイ)無効の格闘・当て身の通常攻撃であるショルダーチャージさんなら話は別である。近寄ってさえいれば、出すだけで確実に分身を一枚剥げるぞ!


「それにダメージも前より減った……!」

VIT(耐久)極振りですから!」


 トマホークをキャッチした先輩の左の斧が振り下ろされる。

 俺はそれにも、ショルダーチャージを合わせて行く。


 雪乃の攻撃。蓮に67のダメージ!

 雪乃の攻撃。雪乃の分身が一体消えた。


「いい組み合わせじゃないか……! 当て身をそこまで活かせるのはお前だけだな、面白い! さすが蓮だな!」

「あざーっす!」


 先輩のモーションは斧の攻撃の勢いそのままに回転、回し蹴りに繋がって来る。

 俺はそこにも懲りずにショルダーチャージ!

 ただただ愚直にショルダーチャージだ! 自分、これしかできませんから!


 雪乃の攻撃。蓮に62のダメージ!

 雪乃の攻撃。雪乃の分身が一体消えた。


「前より手強くなったな――が! 『シャドウスレイブ』!」


 分身復活か――! やはり手数も多いしタレントの『闘神の息吹』もあるしで、先輩の分身は天井知らずだな。


「その程度では私の守りは抜けんぞ!」

「……ですね!」


 一対一で分身を全て消しつつ奥義を当てるのは容易ではない。

 数人がかりで、あきら達に分身を消してもらってその隙を狙うならまだしも――

 しかしあきらはミコットとタイマンバトル中だし、前田さん矢野さん赤羽さんの方にも雪乃先輩のギルドの他の三人が向かって行き3on3状態である。

 俺は俺で何とかしなければならない。

 と、雪乃先輩が大きく後ろに跳躍、俺と距離を取る。


「蓮――今から私のこのゲームの中でもかなりお気に入りの奥義を見せてやる! 楽しみにしていろよ……! 前回はレベルが足りなくて使えなかったからな!」


 ほほう……!? それは楽しみだな。

 先輩が気に入るくらいだから、きっと凄いに違いない! 純粋に面白そうである。

 俺が注視する中で、先輩は斧を大きく大きく振りかぶり、投擲の構えを取る。

 その体が、奥義発動のオーラに包まれ眩く輝く。


「行くぞ、奥義『インフィニティリバース』!」


 光り輝くオーラに包まれた斧が、先輩の手から放たれた!

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